08.

 シエリールが古木の子飼い、外人部隊を滅してから三日。彼女は、どういうことか古木に連絡を試みたが不通だった。しかし、それは今回の件が古木によって仕組まれていたのを裏付けるものだ。一案として家に乗り込むことも考えたが、準備していると面倒であるし、そこまでシエリールは自信家ではない。

 結果として一つずつドゥンケルの拠点を潰す方法を選んだ。有り金で、鼠祢吉から情報を買い、巡る。

 だがこの方法は賢い選択ではなかった。理由の一つに、アイゼンクたちの存在があった。彼らの目的は、町の超越種の殲滅。行く先々で入れ違いになることがあった。

 もう一つとしては、基本的に撤退の命令が出てるのだろう、拠点は無人が多かった。それでも残っているものもいなくはない。だが、そういうやつらに限って腕利きが多く、その誰もが魔方陣殺しを持っているので苦戦を強いられた。一対一なら負けることはない。だが、統率のとれた複数人には不覚をとりそうになった。

 それこそこの前倒したものたちのようなにわかではない連中だ。

 事実昨日戦った腕利き三人には、思わぬ怪我を負わされた。しかも、槍の特性上傷が中々治らない。

 シエリールは、死の眠りと呼ばれる状態に陥っていた。死の眠りとは、吸血鬼が異常に衰弱したとき、それの回復に向けて生命活動が弱まる状態である。その間、吸血鬼は死んだようになり、かなり無防備になる。吸血鬼を倒そうとするものたちが、吸血鬼の寝床の追求に腐心するのはそのためだ。

 幸い、眠りは半日で済むようなものだった。だが、深い眠りから徐々に浅い意識に移行したシエリールは、夢を見始める。

 夢の中でシエリールは、真澄や巡季たちと楽しいときを過ごしていた。それはいい。しかし、シエリールは、行ったこともない学校の話になり、行ったという思い込みから思い出そうとして何も思い出せずにこれが夢だと気付いた。シエリールは自分が人の母から生まれ、学校へ行き、人として生きていたことを夢に見ていたのだ。

 そこで、目が覚める。斜陽がもたらす暖かな赤い光に包まれていた。

 シエリールは自分が吸血鬼であることに必ずしも満足してはいない。だが、否定しているわけでもない。自分は自分だ。今の在り方を否定するより受け入れた方が、生きていく上では都合がよい。無い物ねだりはなんにももたらさない。ならば、無いのを認め、追い求める姿勢の方が好感が持てる。

 体を起こした。変な疲労感を覚え、大きく息を吐く。目をこすると、顔に残った涙の跡に気付き、馬鹿馬鹿しいと、こすった。それも無意識に強く。

 シャワーを浴びる。いつもよりたっぷりと時間をかけた。お湯は玉のようになってその引き締められた体をなぞって落ちていく。

 夢の残り香を消すように懸命に、懸命に体をこすってみた。だが、肌がひりひりするだけであまり効果はない。

 顔いっぱいにお湯を浴びた。黒い髪が美しく水を滴らせる。だが、なにも解決しなかった。

 その後、釈然としない気持を抱えたまま食事を求めて外に出る。シエリールは、いまだ衰えを知らない摩天楼に気遅れを感じた。見慣れたビル群が、いつもと違うなにかに見えたからだ。

 コンビニに入ると、弁当類を物色した。だが、どれもぴんと来るものがない。パン、おにぎり、サンドウィッチと見ていったがやはり惹かれるものがない。確かに空腹なのだが。

 仕方なく、おにぎりを二つ買う。昆布とかつおのやつにした。

 コンビニを出ると真正面から夕陽の最後の輝きを受け、目を眇める。事務所の方に一瞬足を向けたが、すぐに踵を返し、病院の方へと向かって歩き出した。

 正直、弱っているような自分を見せたくはない。だが、そんな自分を見せられるのは、巡季ぐらいだ。

 でも、真澄なら見せても良いかもしれない。それぐらい真澄は大きな存在になりつつある。

 病院に着いたシエリールは、巡季の病室へと行き、スライド式の戸を軽く叩いて、部屋に入った。

 巡季は、シエリールの方を見ていたが、彼女が椅子に腰掛けると、視線を前方に向ける。巡季は、本を読むでもなく、テレビに関心を見せるでもなく、ただ無為に時間を消費していた。まるで拷問のようだ。そんなことを連想する。

 巡季は、なにかを見ているようだった。それが気になり、シエリールもそっちを見やる。そこには、ミッドナイトブルーと言うのがふさわしい、深い青色のスーツが掛かっていた。

「どうしたんだ、それ。おまえの趣味にしてはずいぶんと良い趣味だが」

 巡季のセンスは時々疑いたくなる。だが、皮肉なしに良い服だ。

「先ほど、真澄さんが持ってきてくださいました。先日のお礼と、お詫びだとか。遠慮したんですが、すでに採寸済みで返品もきかないとかで、いただいてしまいました」

「ほう」

 シエリールは感嘆の声を漏らした。巡季のサイズを採寸済みとは良くやったものだ。しかし、真澄とは入れ違いになってしまったようだ。少し、残念。だが、今はそっちの方が良いのかも知れない。

「良かったな。大事にしろよ」

「はい」

 シエリールは、持ってきた袋からおにぎりを取り出した。

「これからお食事ですか?」

「見ての通りだよ。おにぎりを使った余興はそうないだろう?」

 なんのことはない、簡単な皮肉。だが、それは今言うべきことだったか。

「そうですね。仰るとおりです。失礼しました」

 だが、巡季は気にもとめた様子もなく、無表情でそう口にした。

 おにぎりを包装から向いて手にするが、口に運ぶ気にならない。

 たかが夢だろう? なにをそんなに気に病んでいるのか。わからない。そうか、わからないから、こんなにも気になるんだ。きっとそうに違いない。

 大きく、息を一つ吐いた。起き抜けに吐いたのと同じ少し重い息。

「どうかされましたか、所長?」

 さすがの巡季も不審に思ったのか、その様子を見て問いかける。

「いや、おにぎりとはこんなに食い応えのあるものだったかと思ってな」

 シエリールは、ははっと自嘲して、おにぎりを運ぶ努力を中断した。言っておかねばならないことを言うことにする。

「近いうちに、古木たちと戦争になるだろう。きっと、一筋縄ではいかない。私も危険な目にあうだろう」

 だけどそんなことは日常茶飯事。いつものことだ。だから確信を持って言える。今回もまた面倒なことになると。繰り返しの歴史は伊達ではない。

「はい」

「そこで、やつらが万が一真澄を確保してしまった場合の話だ。そのとき、私がどうなろうとも真澄を守れ。そして、私がダメだったときは真澄と仲良くやれ」

 自分が死んでもささやかな幸せを真澄に残してやりたいと思う。

「いえ、それは聞けません。マスターに何かあれば私もお供します」

「聞け。これは命令だ。だが、信じろ。私は、まだもう少し生きていたい」

 優しく、自分でも驚くほど柔らかく微笑んだ。

 巡季は、答えない。答えられないのだろう。だが、答えてもらわねば困る。しかも、答えは是以外にあってはならない。

「返事は?」

 だから、強要する。酷とわかっても。いやだからこそ言質を取らねばならないのだ。

「イエス……、マスター」

 絞り出すような声で巡季はそれを聞くことを約束した。これで、心置きなく古木たちと戦える。命をかけて。散ろうとも。

「なんだな。私は壊れてしまったのかもしれない。私は真澄が大事で大事で仕方ない。ただの友人なのにな」

 そこでふと気付いた。〔ただの〕友人だからこそ大事なのだ。

「巡季。守るぞ。なんとしても。私の中のわからないなにかにかけて、な」

「同感です。ところで、教会はどうしましょう?」

 珍しく、巡季の意志が感じられる同意だった。

「もちろん相手をする。誰かが、後ろにペンペン草くらい残ることを教えてやらねばなるまい」

 面倒だが。そう言ってシエリールは、再びおにぎりと格闘を始めた。新鮮な海苔が割れる音だけが室内に響く。

「所長、質問があります」

「なんだ? 作戦ならないぞ」

 無謀極まりない状態だが、この街の吸血鬼の最大集団を相手にするのだ。小細工など飾りにもなりはしない。少しずつ追い詰めて、最後に古木一人を狙う。それしかない。

「この間から考えているのですが、自分の感情でわからないものがあります。真澄さんが、泣いていたときのことです」

「ほう。で?」

「死が迫ってきているとき、私は強い抵抗感と不満を持ちました。嫌だと拒否したいのですが、それは問答無用に襲ってきて、私はそれから逃げられないような気がしました。そのときの感情がわからないのです」

 相変わらずの無表情。

「ふ。ふふふ。はははっ。そうかそうか」

 少し驚いた。が、別段不思議とは思わなかった。

「なにか面白かったですか?」

「巡季よ。それが恐怖ってやつだ」

 巡季は別に恐怖を感じないわけではなかった。本当の意味で恐怖知らずだったのだ。

「あれが恐怖。怖い、恐ろしい……」

 巡季は、小さく何度も頷きながら、その言葉と感情を咀嚼していく。

「真澄に言ってやろう。喜ぶぞ」

 シエリールは、それを見ながらいたずらな笑みを浮かべる。

「私は、真澄さんを残して死ぬのが怖かった。なるほど」

 真澄の好意は巡季に届いている。まだまだ友情の段階かも知れないが、でも確かに巡季を変えて見せた。

 嬉しくなったシエリールは、衰えた食欲が復活して、おにぎりを勢いよく頬張り始めた。



 次の日の夜。シエリールは、上弦の月に弱々しく照らし出された、広場の真ん中で仁王立ちをしていた。腕を組み、実に堂々としている。すずやかというよりは少し冷たい風が体をなでていく。黒髪がそれに乗ってなびき、月光で煌めいていた。

 逢い引きの待ち合わせのようなもの。相手は、恋い焦がれた存在というわけではないが、長い生の中で、どうしても向き合わなくてはいけない組織、そして人間。

 今日、シエリールは教会に挑戦状を叩きつけた。本人に会うことは叶わなかったが、文字通り挑戦状をおいてきた。

 やがて、砂を踏む音がして法衣を着込んだ男が月明かりのもとに姿を現す。顔は至って無表情。

『ようこそ、舞踏会へ』

 シエリールは、うやうやしく右手を左胸に当てて礼をする。

『随分と品のない舞踏会だな。客もいなければ参加者もワルツを知らない無粋ものどもときた』

 恐らく、アイゼンクは自分も含めてそう言ったのだと思う。

『そう言うな。我々の踊りだってそう捨てたものではあるまいよ』

『笑止。我々の踊りは踊りにあらず。犬の餌の奪い合いに等しい』

『違いない』

 くつくつとシエリールは笑った。

 おもむろに着ているジャンパーを脱ぐと、それを紅鴉に変えて構える。

 アイゼンクも磔剣を取り出して構えた。

『それにしても一週間も待てないとは、そんなに俺のことが気に入ったか吸血鬼?』

『自惚れるな人間。だが、おまえは排除するに値する。ついでだから、貴様が人間であることの意味を教えてやる。人間は化け物に勝てない。だからこそ化け物と呼ばれるのだ』

 今度はアイゼンクが笑いだした。

『化け物に勝てるのは人間だけだ。真に強いのは人間であるということを教えてやろう』

 全くの同意だ。シエリールは心中で思った。人間ほどやっかいで面倒くさくて、魅力的な存在はない。

『では、証明して見せろ人間!』

 シエリールが高らかに叫ぶと、誰かが吹き出した。シエリールでもアイゼンクでもない第三者だ。

「人間人間て、じゃあ、おまえはなんだっつーの! うひゃひゃひゃ。あーおかしい!」

 シエリールに戦慄が走った。その声は、人生でもっとも聞きたくない声の一つだからだ。

 こういうときのシエリールの耳は悲しくなるくらい正確に敵の声を聞き分ける。

 少し離れた木の枝に誰かが腰掛けていた。羽をあしらったぼろのような陰に見えるコートに身を包み、その髪も荒々しく乱れている。それはまるで田圃で風雨にさらされた――

「スケアクロウ《かかし》……」

 シエリールは忌々しくつぶやいた。

「おろ? 覚えていてくれたかい、ベビィ。半世紀ぶりかね」

 シエリールは返事をしない。ただ苦虫を噛みつぶした顔をしている。

「それにしても、、おまえさぁ、そんなに人間相手に人間人間連呼しなくても。んじゃあ、おまえはなんだっつーの」

 木の上で腹を抱えて笑っている。

「いまさら、おまえが問うのか?」

「いやさ、そうだけどね。私はおまえのことならおまえより詳しいかもよ? なあ、ダリア?」

 背筋に薄ら寒いものが走るのと同時に、頭にかっと血が上る。

 ダリアとは、師匠の使い魔が名前のなかったシエリールにつけてくれた愛称だった。そう呼んでいいのは人生で唯一男として愛した彼だけだ。

 今は、もう死んでいていない。つまり今この地球上でそう呼んでいい存在はいない。例え真澄といえども軽々しく呼ぶことは許せないだろう。

 そんな名前を易々と口にするスケアクロウ。シエリールは憎悪の視線をスケアクロウに叩きつける。

「おお、さっきといい今といい、随分とはっきりとした感情を持つようになった。放し飼いは成功かな?」

 本当に嬉しそうに、邪気なく笑うさまはまるで無垢な少女を見ているようだった。

「おまえがなんで造られたか知ってる?」

「最強の戦闘生物を造るため、と聞いてるが」

 口の端を持ち上げて、笑った。

「最強の、まではあってるが、戦闘生物じゃない」

「では、なんだというのだ? まさか、世界の三大美女を塗り変えるためではあるまい?」

 また、げらげらとひとしきり笑い始めた。目の端には涙までためている。シエリールは内心苛立ちを抑えられなくなりそうだった。

「良いよ、実に良い。随分と私好みになったな。もっと、想像力を働かせて、自分に聞いてみな。おまえは、なにを求め、なにになりたい?」

「私のなりたいもの?」

「そう。なりたいもの。わからない? しょーがないなぁ。生き残れたら聞きにおいで」

 ぱちんと指を弾いた。するとそれを合図にドゥンケルの連中が木々の闇から染み出してくる。

 いったい何人の棺担ぎがいればこんな大規模な展開を可能とするのだろう。

 敵はざっと百人強。敵ながら、壮観だ。

「あの魔法陣殺しは、おまえの作品か?」

 頭を切り替え、聞くべきことを質す。

「そうさ。よくできてるだろ? だけどね、血が少なくて不必要に猫を解体する羽目になった」

 頬を膨らませて、愚痴を語るようにいう。

 さてどうするか? まず敵が多すぎる。うち二人は強敵だ。

 アイゼンクは自分と互角くらい。スケアクロウは上級の吸血鬼で雲上人だった。だが、今ならどうだ? 

 ちらりとアイゼンクを見やると、彼は楽しそうにスケアクロウを見ている。放っておけばやり合ってくれそうだ。

 今この場でシエリールがやらなければならないことは決まっている。生き残ることだ。それが今自分が一番望むものを守る唯一の方法だ。

 そのためには敵を打ち破らねばならないようだ。頭の中でいろいろと試行してみる。だが、すぐには出てこない。

「ふぅ。せっかく頑張ったのにお褒めの言葉もなしか。難しい顔して考えたって無駄だよ。だいたい私がここにいるってことは、わかるだろう? おまえは私とヤらなきゃならないってことさ」

 つまり黒い森に居場所がばれているということ。

 スケアクロウは恐ろしいまでに迫力のある赤い目で、冷たくシエリールを見下ろした。戦慄が走る。忘れかけていた恐怖という感情を思い出させられた。

 だが、今は守らなければならないものがある。その目に対し、シエリールも紅い眼で睨み返す。

「ヤってやるさ。いつまでも私をベビィなどと認識しないことだ」

 視線に明確な殺意を込める。だが、スケアクロウはそれを真正面から受け止め、怖じた風はない。

「おおっ、怖い怖い。おまえは私とヤらなくちゃいけない。だから私は我慢するのさ。わかる? んじゃ、私は帰るから」

 スケアクロウは両手を水平に伸ばし、手首と首をかくんと曲げて体を複数の烏に姿を変えて、夜空に消えていった。

 本当は待てと言いたいところだが、このままの方が生存率が上がる。奥歯を悔しさで強く噛みしめながら、だが、次のことに目を向ける。

 今は生き残ることを考えろ。そう言い聞かす。

「さて、おまえらは帰らなくていいのか? 大黒柱は帰ってしまったぞ?」

 シエリールが、百もの超越種を前に、物怖じせずに言い放つ。

「問題ないよ。おまえ、一人でこの人数に勝てると思ってるのか?」

 古木は、至って涼しそうな顔をしている。

「今までどこに隠れていたのかと思えば、よらば案山子の影か」

「ただの負け惜しみにしか聞こえないよ?」

 二人は視線を交わし、同時に低音の笑いを漏らす。

「僕は強いよ? 数を従え、どんな作戦も遂行するマンパワー。生き残るためにはなんだってやれる。それが僕だ」

 古木は一つ指を弾いた。すると、側に仕えていた棺担ぎが、一人、姿を消し、幾人か連れて戻ってくる。

 シエリールは、激しく動揺した。静かに奥歯を噛みしめる。後悔が胸を満たした。だが、それらの感情を極力表に出さず冷静に推移を見守る。ただ、憎しみのこもった殺意だけはきっと漏れているだろう。

 戻ってきた中に、後ろ手に縛られ、轡をはめられた真澄がいたからだ。

 申し訳なさそうな目でこちらを見てくる。シエリールは仕方ないという眼をした。

 この前の、答えは出していない。真澄が人質にとられたときに選択する行動。答えが出ていないようで、出ていた。真澄のためなら、古木の靴でも舐める。

「くっくっく、おまえが最近入れ込んでいるのは知ってるんだ。ん? 人にものを頼むときは、地べたに頭をこすりつけて哀れな声で懇願するんだってママに習わなかったのかい?」

 シエリールは、男二人に腕をとられ、されるがままに、地面に叩きつけられた。顔を強打したがそんなことはどうでもいい。

 真澄がもごもごとなにかを伝えようとするが、伝わってこない。

 意外なことにアイゼンクも磔剣を放り捨て、左腕を捻り上げられた。ひどく不満そうだ。

「ああ、そうか。君には母親がいなかったんだっけね。では、僭越ながらこの僕が躾けてやるよ。すぐに意味なくなるけど」

 古木は完全に悦に入っていた。

「そうやって、頭をこすりつけながら、お願いします、って言うんだ。言ってごらん?」

 シエリールはまさに砂を噛む気持ちで声を絞り出す。

「――お願いします。そいつだけは助けてやってください」

「はははっ! これはすごい。思った以上だ。みんな聞いたかい? あのシエリールが、白昼悪夢が僕にお願いしますだって!」

 周りにいる古木の僕たちは、完全に優越な声で笑った。古木はご満悦な顔でシエリールを見下ろしている。

 こんなことで終わるわけがない。さらなる要求に身構えた。

「いいよ。君の命一つで彼女を助けようじゃないか――なんていうと思ったのかい? ダメだね。君は何一つ希望を持たないまま殺されるんだ」

 シエリールが想定していた最悪の筋書きだ。

 真澄は、自分のことはいいから戦えと言ってるのがシエリールには伝わってきた。シエリールは静かに笑う。肉体的にそれは可能だ。だが、心がそれを許さない。

「ふふん。こいつから殺すと暴れるかも知れないから、シエリールから殺せ」

 傍らにいた男の一人が地面に突き立てられた紅鴉を抜こうとしてその重さに戸惑った。だが、すぐに持って構える。念のため、魔方陣殺しをシエリールの体に刺した。

「遺言があれば聞いてやろう」

「すまない真澄。私は一緒に死んでやることしかできないようだ。私に魂があったら、あの世で会おう」



 真澄は、気がつけば公園にいた。轡をはめられて誰かに拘束されている。

 直前の記憶は仕事帰りに巡季の見舞いに寄ったところで途切れている。

 目の前で繰り広げられている光景が理解できない。

 傲岸不遜なシエリールが男に組み伏せられ、地面に顔をつけている。全く持って信じられなかった。

「すまない真澄。私は一緒に死んでやることしかできないようだ。私に魂があったら、あの世で会おう」

 と、遺言めいたことを口走っている。

 振り上げられた黒い刀は、無慈悲に主の首筋へと振り下ろされた。真澄はその瞬間から目が離せない。

 シエリールの首が飛んだ。長い美しい黒髪が煌めきながら、転がって泥にまみれた。傷口から血があふれる。人生、趣味嗜好、歴史、すべてがこぼれ落ちた。

 嘘。

 真澄は、轡をされた上から、なお涙混じりに叫んだ。

 そんな、そんなことが。自分のせいで本当に死んでしまうとは! 真澄は、目眩を覚えたが、眼前の事実から逃げられなかった。

「ふははっ、結局君はこの程度なんだ。なのに僕に偉そうな口を利くからこうなるんだ。充分に体感できたかね。これが強さで、僕の力だ。無敵の個人なんて存在しないんだよ! 君とは短いつきあいだったけど、別れくらいは惜しんでやるさ」

 真澄は体をよじって押さえる男を振り切って友人のところへ駆け寄ろうとした。だが、それすら叶わない。

 チクショウ。柄にもなく、口汚い言葉が口をつく。

「これがこの街最強の吸血鬼か。人間なんてものに入れ込むから揚げ足を取られるんだよ。僕らは吸血鬼なんだ。人間と仲良くやろうなんて言うのは馬鹿なことだ。身を滅ぼすくらいにね。はははっ」

 その言葉に傲岸不遜で忠告的に皮肉るシエリールの声はない。

 真澄の目に映るのは、いつも明るく、軽口の小気味よい、表情豊かなシエリールではない。目を閉じて、すましているような顔だ。少し、泥と血に汚れている。

 古木は、灰にならないシエリールの体に今までのうっぷんを晴らすかのように、足を乗せ悦に浸っていた。蹴って裏返しにされるのもされるままだ。

 そのにやついた顔がさらに、緩む。

 興に乗った古木は、シエリールの頭を蹴った。

 視界はは黒から赤へ。憤りが真澄の心を一瞬にして支配した。

「ほの、はいへいやろう《この最低やろう》! ほへいじょう、ひへにはわふな《これ以上、シエに触るな》!」

 どうしても言葉が汚くなる。だけど、そんなことどうでもいい。今は、このクズの暴挙を止めなくては。

「おいおい、人間風情が随分な口を利くな」

 とりあえず、古木は興味をシエリールから真澄に移したようだ。ゆったりとした足取りで近づいてくる。

 そして、真澄の顔に手をあて、顎の線をなぞった。気持ち悪い。それを視線に乗せる。

 真澄は、自分を拘束している男の足の甲を強く踏みつけ、古木の向こうずねを蹴りつけた。

 古木は瞬間的に真澄の顔をはたく。はたかれた勢いでそのまま地面に転がった。

 痛い。口の中が切れた。血の味が口の中いっぱいに広がる。

 真澄は、思わず泣き出した。シエリールが生きていたなら自分をはたくなんていう行為を許しはしないだろう。血の味がそれをありありとそれを証明していた。

 拘束から解放された真澄は、一目散にシエリールの首へと駆け寄った。轡をほどきながら首を拾う。

 まだなま温かい。生きているようだ。

「シエ、シエっ……!」

 抱きしめるが反応はない。

「あんた吸血鬼なんでしょ? 不死身なんでしょ? また笑ってよ。……わたし、あいつに叩かれたんだよ? 敵討ってよ。何度だってあんたの名前呼ぶから、帰ってきてよ、シエーっ!」

 応えるものはなにもない。周りには嘲笑に溢れている。真澄は一人しゃくりあげた。

「無駄だよ。首を切られて無事な吸血鬼なんていやしない。首を刈るというのは伝統的な吸血鬼の倒し方でね。たっぷり絶望するがいい」

 シエリールの体が、黒い塵になって霧散していく。

 少しずつ少しずつ、その形が失われていく。

 真澄は、その首についた血を丁寧に拭い、泥を落とした。シエリールの顔に、真澄の涙が滴る。

 もうなんにも考えられない。あるのは深い喪失感と絶望。

 最後のひとひらが空中に消える瞬間、現実に耐えられなくなって真澄は目をつぶった。呆然と座り込む。再び開かれたその目に色はなかった。

「諸君、僕はいいことを思いついた」

 古木は自信に溢れた声で提案をする。

「この女を血族にしてはどうだろう? シエリールは死んだ。なにもここでこの女を殺して、シエリールのもとに送ってやる必要はないんじゃないか?」

 周りは、趣味悪く笑いながら、賛成した。ここで反対するものなどいない。

 だが、真澄はなにを言われ、なにをされるか全くわからなかった。

「ふふふ、いいことを教えてやろう。僕の血を受けたものはん、僕の命令に逆らえなくなるんだ。絶対帰順オベデュエンスといってね。僕の固有能力だ。よって、君は、僕に死ぬなと命令されれば自決することも叶わず、日々虚しくても生き続けるんだ。どうだ素敵だろう?」

 なんという外道。真澄は、強く奥歯をかみしめる。

「そう感謝してくれるなよ。愛しい愛しいシエリールと同じものになるんだ、嬉しいのはわかるけどね」

 抵抗は無意味だ。虚ろに古木を見た。確かに、シエリールと同じ世界に生きるならそれも悪くないかもしれない。少しだけ、思った。



 古木が、真澄の首筋に牙を突き立てようとした。

 その瞬間、古木の一番近くにいた男たちの頭が立て続けに吹き飛ぶ。尾を引く発砲音。古木は、射線から急いで退避した。

 一瞬、真澄の周囲が無人になる。

 その突発した状況に皆が注目した瞬間、アイゼンクは、捕まれた義手をはずし拘束から逃れ、そのつかんでいた男を取り出した磔剣で串刺しにした。

 すぐさま、義手を取り戻す。

 状況は混乱に陥った。漂う血のにおい。一部のものたちは逃げ腰になり、一部は意気軒昂となった。

 古木は、すぐさま真澄の再拘束を命じる。

 だが、一人の男が手を伸ばした瞬間。その腕が宙を舞った。

 真澄の顔に影がかかる。いつも見た背中。煌めく黒髪。

「これ以上は、有料だ。お代は命」

 まじめに言ってるのかわからない軽口。シエリール・ダルソムニアがそこに立っていた。

「立ち見も命。強制徴収のお時間でございます」

 右腕を左胸に当てて、こうべを垂れて見せる。どこまでも慇懃無礼な言葉。それを解いて、真澄の方に振り向く。

「呼んだか? 真澄? 少々遅れたが、冥府の門前からシエリール・ダルソムニア帰還した」

 優しく、微笑む。真澄の目に瞬時に色が戻る。

「シエっ!」

 飛びかかってた真澄を受け止め、その叩かれた頬に触れる。

「すまなかったな。だが、きっちり敵はとってやるよ。利子付きでな」

 右拳を左の手の平に叩きつけて、獰猛な表情を顔に浮かべる。

 だが、そうはいっても真澄は取り返したが、状況は依然混沌。

 古木たちの眷族は壁をなし、アイゼンクも支障あるようには見えない。

 そんなとき、待ちに待った援軍が現れた。巡季が、木々の間から飛び出してきたのだ。それを見たシエリールは真澄をつかみ、高々と放り投げた。

 真澄は、古木たちの囲いの上を飛び、巡季の腕の中に収まる。巡季は、病院の患者用の着衣のままで、息を切らせていた。

 真澄を受け取めると、巡季はシエリールのを一瞥もせずそのまま逃走に移る。それは、命令と主に対する愚直なまでの忠誠の現れだった。

「あいつを撃て! 好きにさせるな!」

 古木が声を張り上げる。

 シエリールはそちらに気を取られている群の上をハードル選手の様に飛び越し、間に割って入った。

 だが、その必要なく。銃を構えた奴からハリネズミになっていった。

『不愉快極まる。好きになどさせん』

 アイゼンクが静かに燃えている。よほど先ほどの好き勝手が気に食わなかったのだろう。

 状況が芳しくもないのにも関わらず、古木はみなに聞こえるように鼻で笑った。

「ふん。いいよ、後で殺しにいけば。それよりもなぜ、おまえが生きている? おまえの魔法は確かに使えなくしたはずだ。おまえは魔法がなければ霧にもなれない失敗作だろう!」

 シエリールを射殺さんとばかりに睨みつける。

「相変わらず、詰めが甘いな。私は、真澄が呼べば地獄の底からでも帰ってくるんだよ」

「ふざけるな! そんな非論理的なことなど聞いてない!」

 シエリールは、黙ってシャツの裾をまくって白い陶器のような肌を見せる。そこには、赤い、肉に刻まれた魔方陣があった。生々しい傷跡そのものの魔方陣。

 吸血鬼は、治癒能力が高い。ナイフ程度で描かれた魔法陣などあっと言う間に治ってしまう。望まなくとも。

「おまえ、まさか」

「策士策におぼれるといったところか。確かに優秀だよ、それは」

 シエリールは、不気味な蛍光緑に光る槍を指さしてそういった。つまり、槍を用いて直接体に魔法陣を書き込み、頭の中にある魔法陣を壊されても問題ないようにしたのだ。

 だが、その魔法陣も昼から刻んでおいたものだったので、もうだいぶ薄くなっていた。

「さて、貴様らには例外なく死を刻んでやろう。真澄を叩いた無法断じて許せん! Listen. Set code666. ID Nightmare」

 シエリールは足下に落ちていた紅鴉を拾うと、身長ほどの大剣に変えた。片刃の刃のない方を肩に乗せる。

 大剣ナイトメアは、魔力を注ぐとその分だけ切れ味が上がる特性を持っていた。適当な量の魔力を注ぐと振り回す。適当に狙いも定めず、横一文字に振った。

 前面にいた銃を持っていた奴らが、一閃される。

 吸血鬼や、他の超越種たちはその頑丈さから死にきれないものも出ていた。だが、死ねずに放置される惨劇。

 次に、槍を持った連中が前に出てきて、接近戦が始まる。まるで自分の腕のように自在に振るわれる槍をシエリールは大剣で受けねばならなかった。しかも、一本ではない。ぐるりと周りを囲まれていた。腕に覚えのあるものが多いのか、厄介だ。

 防戦一方になり、だんだんまんじりとしてくる。

「く」

 そんなときだった。とうとう、後ろからの一撃にシエリールが捉えられる。それに気をとられた瞬間、さらに二本刺さった。

 気力を振り絞ってナイトメアを振り回す。一人を倒したが、残りは依然健在。

 舌打ちをした。状況は悪いままだ。首をはねられたり、血を流しすぎた。

 大上段から、ナイトメアを振り下ろし、その勢いのまま、棒高跳びの要領で跳んだ。

 同じく、旗色の悪そうな神父のところになんとか身をねじり込む。この中で、味方になりそうなのは、彼だけだ。

 背中合わせに陣取って、話しかける。

『なあ、神父。私は、多対一が苦手なんだ。ここは力を合わせるというのはどうだろう?』

『俺は、人の子で、神の子だ。貴様らの言うところの喰われる存在だ。貴様らとは共闘できん』

 その言葉に、シエリールは嬉しそうに口の端を歪ませた。

『神父。一つだけ事実を教えようか。シンプルな事実だ。

 私たちはどんなに言葉を尽くし、身を粉にして釈明しても、人間に作られた道具なんだ。

 どうだ、神父? うまく使って見せろ、〔ニンゲン〕』

 シエリールの存在をかけた、人間への挑戦。

 シエリールは常々思っている。自分を使えるのは人間らしさに執着する人間であり、倒すのも人間。否定するもまた人間。

『方法は?』

 神父は逃げずにその挑戦を受ける。さすがだ。見込んだことはある。

『奴の血が欲しい』

 シエリールがくいっと、親指で古木を指す。

 古木は、一番厚い人垣の向こうで悠然としていた。だが、なにかを行うと決めたら、この二人に妥協などなく、最短距離を突っ走る。

 アイゼンクは、一番手前の奴に磔剣を投げつけ、そいつが灰になる前にシエリールは肩を踏みしめ、跳んだ。

「Listen. set code13. ID schweifen Gespenst《彷徨う死霊》」

 ナイトメアを大きな漆黒の大鎌に変える。一番扱いにくそうだが、実は一番こなれた武器である。

 敵の壁の真ん中に降り立ち、そのまま周りの足下をなぐように鎌を振るう。空いた空間を生かして、低姿勢で疾駆する。

 しかし、古木の子供たちもさせまいと壁をなす。シエリールはアイゼンクの支援を受けながら、目の前の子供たちを切り捨てていった。

 その勢いの前に、黙って道が開けていく。槍を持った、生意気そうな女と一合打ち合った後、あっさりと切り捨てた。肉の感触が手に響く。

 灰になりつつある女の体を押し倒し、シエリールは古木に迫った。最後の壁だった連中は狙撃による攻撃で灰と散る。

「ユディトといったか。いい腕だ」

 シエリールは一人ごちる。

 壁を失った古木までは、一直線。神速の踏み込みは後ろにいたモノたちの追随を許さず、まるで一筋の矢のようだった。

 古木は慌てて、隣にいた子供から魔方陣殺しをひったくる。そして、シエリールが放った死の一撃を見事に受けて見せた。

「ほう。運動は苦手だと思っていたよ」

 シエリールは、軽口を叩く。だが古木は精一杯のようで、声に余裕がない。

「ほざけ! 最初から最強のおまえになにがわかる!」

 古木は、その一撃を逸らすと、今度は巧みに槍を振るい反撃に転じた。

「最強? 私が? 違うね。私は、常に人の下にいた。それこそ、人から吸血鬼になったおまえには想像もつかんと思うがね」

 古木の攻勢を涼しい顔でやり過ごした。古木の顔には玉のような汗が光っている。だが、内心シエリールもそう余裕があるわけでもなかった。だが、見せかけられるなら余裕は装うべきである。それは良い方向に物事を持っていく可能性が高い。

「だが、生まれ持った能力の違いが、今この場の違いだろうが!」

 金属同士がぶつかる音が響き、火花が散る。

「それも、違う。おまえと私の違いは、生き方の選択でしかない。おまえは、不幸にも力があり、私は無能だった。どちらが良いとか悪いとかではない。そのように生きた結果が今だ。それに、私には絶対帰順なんて能力なんて持ってない」

 シエリールは余裕を見せている。

「私は、手加減などしていない。自身をもっと知るべきだったな」

 心底の感心。古木自身は、シエリールより長寿な吸血鬼だ。なんの不思議もない。

「うるさい! ここに来てまだそんな口を! 舐めるな!」

 ただ、シエリールは自分を鍛えた。古木は、集団を作ることに長け、それに縋った。そこに優劣はなく、状況も一進一退の状態。

 しかし、一対一なら負けることはない。

 だが、後ろから一斉に発砲される。背中に銃弾を浴びて、姿勢が崩れた。それを見た古木が大振りの一撃を振りあげる。

 好機。シエリールは、魔力を体に流し、首でも心臓でもなく左腕を狙って鎌をなぐ。古木は全く反応できていなかった。

「なにっ?」

 古木の左腕が切りとばされた。狼狽える、古木。 

 その瞬間に、古木の懐に飛び込むと、その首筋に乱暴に牙を突き立てた。

 わずかばかり血をなめたと思ったら、シエリールの背中に槍が突き立てられる。

「がぁっ!」

 思わず苦痛と一緒に古木を離してしまう。古木が逃げて距離をとった。

 シエリールは素早く体勢を整えながら、落ちている左腕を拾う。それに惜しそうに、深く牙を刺し、腕に残った血液をすすり上げた。血を失った腕は灰となる。

 くっ、と笑った後、うまいなと思った。思わず舌なめずりをする。

 わずかだが、血を得たことで傷の治りが加速する。全身の傷から赤い霧のようなものが揺らめいていた。

『いい加減にしろ!』

 その一人喜ぶシエリールを見て、孤軍奮闘のアイゼンクが苛立ちも露わに怒鳴りつける。

 アイゼンクもまた、古木の方へと切り込んできた。

『すまない。申し訳ないがもう少しだけ時間を稼いでもらえないだろうか?』

 アイゼンクは、舌打ちで不満を表現して代わりに、懐から四つの封をした液体入りの試験管を取り出し東西南北に向かって投げる。

 十字を切り、祈りを捧げた。

 すると、そこに結界が生まれる。相当強いやつで、シエリールは体が引きちぎられそうな感覚に陥った。

 だが、それを振り切るかのように魔力をかき集める。

『ここに訪れるものはなく』

 深く自分の中に入る。

『私は、常に孤り』

 久方ぶりに起動する切り札に思いを馳せる。

『私は、私だけを知り、私だけを作り、私だけを変える』

 これは、シエリールの中に眠る彼女を語る言葉。

『世界に大きさなどなく狭さもない』

 世界に介入できると知ったとき、自然と口をついた言葉。

『私は王であり、臣民である』

 それらが、あるがままの形をなしていく。

『聳え立つ城にも、粗末な家にも意味はなく』

 欠け落ちた破片が、在るべきところへ辿り着く。

『示す証もここにはない』

 シエリールをシエリールだと証明するのは彼女ではない。

『私は、常に孤り』

 独りぼっちで生まれた。

『ここにある』

 だが今は違う。

『せめて、完璧な存在を望もう』

 証明してくれる友人と、その日々を守るため。

『だから、私は理想の自分を祈る』

 りそうを守るために。

『我々は、己が形貌かたちを知る』

 なんになろうとも、彼女らが証明してくれる。

『口ずさめ、顔なしの詩を』

 作り上げろ。彼女らと共に同じ時間を歩めるための自分を!

 魔法とは違う、存在に刻まれた自分だけの世界の設計図。自分はこうなのだと世界に向かって叫ぶ。

 大量の魔力がシエリールに集まり、一気に放たれる。それが世界を作り上げる。自分の世界を世界にねじ込む。

 シエリールを中心にできた、直径二メートル前後の球。それは、シエリールが常識で、彼女が望む、彼女のための世界。

「し、心象具現。だが……!」

 古木は、動かされた魔力量におののいた。そして、こぼれたのは絶望と強がり。

 シエリールは、その魔力の奔流の中で世界の広がりを感じていた。手を伸ばせば届く、小さな小さな世界。でも、間違いなくシエリールの世界。

 この中では、自分の想いがすべてだ。想ったとおりになる。

 か弱く脆弱がいいと想えばそうなることが可能である。逆に、最強の存在を望めばそうなれる。ただし、漠然とではなく、どう強いかを具体的に想像する必要がある。

 望むものに偽れる、それが彼女の魂の在り方。全てのものであり全てのものではない。クローンである彼女は唯一無二ではない。遺憾だが、その証明。

 シエリールは、ルーンを刻むもの《ルーンエングレイバー》という吸血鬼を想い描く。

 狭い世界がシエリールの元に還った。

 次に、彷徨う死霊と名付けられた鎌の刃をなでる。そのなでた部分にはルーン文字が浮かんでいった。

 内容は、古木たちの血に対する即死効果。どのような血であるかは、先ほど口にしたときに、体が理解した。

 それを言葉に置き換えるためのルーンを刻むものだった。それを知らない古木は声高らかに命令を下す。

「あいつの世界は小さい! 怯むな勇士たちよ、畳みかけろ!」

 シエリールは冷酷な瞳で敵をとらえると、ぞんざいに切りつけた。本来致命傷ではない一撃で吸血鬼たちが灰になっていく。

「おまえ、なにをしたっ!」

 その尋常ではない様子を目の当たりにして、古木が吼えた。

「なにも? 強いて言うなら、おまらが気に食わないと書いただけだ」

「おまえがルーンを刻むものだとは一度も聞いていないぞ」

「阿呆か、おまえ? 信用していない相手にべらべら喋るのは阿呆のすることだ。それに、私には私をわかってくれる存在が少なくないんでな。他人にいちいち聞いてもらう必要がない」

 形勢逆転の手応えをつかんだ。銃も槍も痛い。が、それすら戦いの一端として快感に近いものへと変わっていた。

 身を小さく震わせる。死の上に立つ舞踏。至上の瞬間。興奮が止まらない。

 貴様ら、全員ぶち殺してやる。もう自分は止まらない。真澄を叩いた無法にはまだ足りないが、あるもの全部で払ってもらう。

 意図せず、獰猛な笑みが口の端に浮かぶ。

 その様子に、古木たちの子供たちは、怯えを見せだした。だが、絶対帰順により、畳みかけるように言われているので、死ぬとわかっていても一歩を踏み出さざるを得ない。

 シエリールという吸血鬼を殺すための槍も、使い手が恐れていては十分にその能力を発揮できない。

 だから、古木という血筋を絶やす鎌の前には為すすべがない。使い手は、もう恐れていないから。

 古木は、最後の切り札と言わんばかりに右手を大きく前後に振った。だが、どこからも反応はない。

 狙撃の合図だったが、それらは全てユディトに破れていた。

 悲劇の幕が上がる。阿鼻叫喚の地獄の再現。戦いではない。一方的な殺戮。

 銃を構えれば、磔剣で串刺し。槍で挑めば、鎌で一撃必殺。

 白昼悪夢と片手袋はその異名に恥じない強さを見せつけた。いや、文字通り刻み込んでいる。

 もうすでに、古木の子でないものは逃げるか殺され尽くしてこの場にはいない。

 古木は、信じられないものを見ているような顔だった。百以上いたのに、三人に勝てないのだ。百という数字が余りに儚く見えたことだろう。

 古木は愚かであるが、馬鹿ではない。それがシエリールの評価だった。その通り、古木は負けが見えているようだ。

 一方的な殺劇は、いくらそういう世界に生きていても信じられなかった。飛ぶ腕、飛ぶ足、飛ぶ首。崩れ落ちる下半身、崩れ落ちる志、崩れ落ちる生。

 ここを地獄と呼ばずしてどこを地獄と呼ぶべきか。そして、地獄故に救いなどなく。

 理想同士がぶつかって、負けた方は妄想と堕つるだけ。

 シエリールは顔やシャツを返り血で汚しながら、恍惚とした表情を浮かべている。それは、とても美しく、なぜか儚く見えた。

 頬を伝ってきた血を舌で行儀悪く舐めとる。

「化け物の血も、人間の血も同じだ。命を感じる。私の血にはないものだ。この瞬間はクるものがある」

 同じように、アイゼンクも心底楽しんでいるのが、狂気を宿したような瞳から伝わってくる。いくら、防弾性の法衣を着て、卓越した身体能力を持ってしても、人間には到底生き残れない戦場だった。それが今、生きている。この逆転劇を楽しまないはずはない。

『なあ、ミスタ片手袋ノーフェロウ。お目こぼしをしてはもらえないだろうか?』

 古木の敗北が絶対となった時点で、シエリールはそう提案した。

『感傷か?』

『そうだ。大事なものを奪われた悲しみが少しでも和らげばいいと願うだけだ。後始末は全部譲る。それで手を打ってもらえないだろうか?』

『まさかこの俺が貴様らの頼みを聞くことになろうとは。罪深い』

 アイゼンクは顔と胸の前で十字を切って許しを乞うた。

 シエリールは、わずかな気の緩みを見せず敵を切り殺していく。師の言葉に、敵をほめても、侮るなとあった。

 古木が、悲鳴と喚声の交錯する中、なにかを指示して姿を消した。



 古木は、公園の端まできていた。左腕はなく、シエリールと数合打ち合っただけで大きく消耗していた。

 部下や子供たちを切り捨てて、強さそのものを投げ捨て、逃走を選んだのだ。

 目の前に誰かがただずんでいる。やけに姿勢の良い老婆だ。上品な花柄のドレスに、肩には紫のショール。

 古木は、口元にニヤついた笑みを浮かべた。おそらく、消耗した体力の回復にちょうどよいとでも思ったのであろう。

 だが、その老婆――柴浦は、呪文を唱えると、どこからともなく発生したいかずちが、古木を襲った。

「がっ」

 古木は、膝を突く。

 柴浦は、何度も何度も呪文を繰り返した。雷が空気を裂く音が辺りに轟く。

 柴浦は魔力が空っぽになるまで叩きつけ続けた。古木の生死などかまうことなく、胸の悲しみを全部魔法に乗せてしまうかのように。

 柴浦の頬に涙が伝った。若くない体は魔力の限界行使に悲鳴を上げ、肩が大きく上下している。

 最後の一撃。古木がとうとう崩れ落ちた。

 わずかばかり、静寂が取り戻される。

 だが、ぴくりと指が動くと、次にはよろよろと立ち上がった。

「はあはあ、忌まわしい吸血鬼! なんというしぶとさ。辟易します。まったくもって生き汚い」

「それで終わりかい、人間? では、僕は君をいただくことにしよう」

 古木もまた肩で息をして相当弱っているように見える。がしかし、吸血鬼が人間を殺すなんて行為はそれでも可能なことだった。それくらい吸血鬼にとっては容易い行為なのだ。

 その凶爪が柴浦をとらえようと言う瞬間、古木は針千本と化した。

「があっ!」

 古木を刺し貫いたのは、幾本もの磔剣だった。

『調子に乗るな吸血虫の分際で。貴様らなんてこの世にいる価値など全くありはしない。咎人の子よ、今こそ後悔のときだ』

 先ほどのお目こぼしとはこのことだった。柴浦が悲しみを吐き出す猶予のことだったのだ。

 アイゼンクの左の皮手袋の下には状況限定の義手がある。本来ならば、シエリールのような強力な吸血鬼を打倒するための装備だ。

 それを通し、磔剣の柄に法力を通わせ、刃を成し、古木の心臓めがけて振り下ろした。

 赤い血が、命が、歴史がごぼごぼとこぼれ落ちる。古木は、吐血しながら誰に聞かせるわけでもなくつぶやいた。

「眠い。とても眠いよ、ママ。――とても長い夢を見ていたようだ。ああ、ママ」

 故郷を追われ、母の元を追われ、せめて故郷に帰りたかった一人の吸血鬼の生がここで潰える。悲劇というには、ありふれた話。

 足下から、だんだんと灰になっていく古木。最期に、シエリールを見上げた。

「もう、来たのか。おまえは強いなぁ。べらぼうに強いなぁ。でも、僕だってなかなかいけてただろう? もっと早くに出会っていたならなにか違ったかもしれない。だけど、君は眩しすぎた。目が、くら、む、よ……」

 青年には少し足りない少年のような男は、塵に還った。

「本当に強いものはな、自ら強いと言わないんだ。自覚していればきっと」

 シエリールは忠告と言う形を取った。彼女と彼はそういう関係だったから。

 本当は、なにか違っていただろうと付け加えたいが、そこは古木の人生を否定してしまうので飲み込んだ。死者への敬意は持っているつもりだ。

『神父、真澄が拘束されたとき動かなったのには感謝する。ありがとう』

『別に礼を言われることではない。一般人は死ぬべきではない』

 前の戦いのときといい、この男、本当に正義漢なのかもしれない。ずいぶん歪んでいるが。

『さて、続きでもするか?』

『くは、くはっはっは。おまえは自分のなりを見て言ってるのか?』

『私は、なりや、服で戦う訳ではないんでな。それに道具、例えば銃だって暴発くらいするぞ』

『おまえと戦うのは非常に楽しそうだが、今はやめておく。俺は道具を大事にする性質でな』

 短い沈黙。

『神父、おまえが言っていたことは正しい。私は、人の欲そのものだ』

『ならば、その使い道も人のためにあれ。そうしている間は、質のいい道具として使ってやる』

 そう言い残して、アイゼンクは穴だらけの法衣の裾を翻し、深く染まった闇夜に消えていった。

 空には、儚げな三日月。吸血鬼の辞世にはこれ以上ないだろう。



 戦いを終えたシエリールには行かねばならない場所が二つある。一つは、真澄の所。もう一つは、スケアクロウの所。

 今の戦いで大きく魔力を消費したが、そんな体に鞭打って行かねばならなかった。シエリールは、彷徨える死霊をジャンパーに戻し、それを羽織ってまだ覚めやらない街の喧騒に溶けていった。

 “キングスホテル美作”。それは、この街で最も背が高く、値段も高いホテルだ。ここに、スケアクロウがいると鼠祢吉に聞いた。スケアクロウは、派手なものが好きでこの上からの眺めもきっと気に入っているだろう。

 シエリールは、最上階のフロアに行こうとする。だが、最高級ホテルなだけあって通してはくれない。シエリールは、戦闘の後で気が立っていたこともあり、紅い眼を行使した。フロアの守衛は、スケアクロウと思われる人物に電話を入れる。その後は恭しくシエリールを部屋へと案内した。

 無駄に豪華な扉を開け、中に入る。スケアクロウは、ゆったりとした柔らかそうなソファーにワイングラスを片手に、優雅に腰掛けていた。服装も、さっきとは違う、高級そうなワンピースを着ている。

「おいおい。入ってくるのにノックも無し? しかも、この部屋にそんな格好で来るとは。呆れてしまうよ。しかも、今、終えたばかりの戦いの匂い。刺激的だ。こんなワインなんかよりずっと」

「おまえは、私が来たことに驚かないんだな」

「驚く? なんで?」

 スケアクロウは、心底不思議そうな顔をした。

「百の兵と、おまえご自慢の槍があったんだぞ? 半世紀前の私なら死んでいた」

「いや、そんなことはないよ。あの百は百に見える一でしかない。それに、猿どもに道具を与えたって性能がよければよいほど使いこなせない。それより、私はね、おまえの性能を見れたほうが価値がある。おまえは、一対多に備えられていない。完成形は、一人で群だが、おまえは数を揃えて軍と戦う仕様だかんね。性格の問題で、大量生産はされなかったけど、おまえは“成長”という人間に許された能力をもって、その問題を解決したんだ」

 素晴らしい。とスケアクロウは言った。さらに、続け様に言葉を重ねる。

「おまえは、私を殺しに来たんだろう? だけど、無理だ。今のおまえじゃ無理だ。目的は口封じだろう? そのことなら、私は黙っていようじゃないか。なに、怪訝そうな顔をしてるんだい? 私たち《黒い森》は、けして一枚岩じゃないんだ。私には、私の目的があるからね。それに」

「それに?」

「その方が面白そうだからさ」

 今度の、スケアクロウの笑顔は邪気を全く漂わせていない。だが、目は笑っておらずシエリールを見ていた。

「古木はなんてそそのかしたんだ?」

「そそのかした? 失礼な。あの坊主は、おまえを倒すことで名声が欲しかったのさ。ドイツであいつを迫害した連中に復讐したかったみたいだ。黒い森内での地位を要求してたよ。まあ、結果は見えてたけど許可したさ」

「おまえが?」

「私が」

「楽しそうだから?」

「そう」

 今度は、目も笑った。

「役者はそれぞれ、おまえの思い通りに演じきった。さぞ満足だろう?」

「うん」

「では、満足ついでに約束を果たしてもらおうか。これも予定のうちなんだろう?」

 シエリールは、答えを見つけていたが、あえて聞くことにした。

「これ、ホントは部外秘なんだけど特別に教えてやるよ」

「もったいぶるな。私は、もっと万能な存在を目指してるのだろう?」

「その通り、おまえは、ある研究の途中の産物でしかないが、目的に最も近づいた存在でもある。そして、おまえが超越種殺しとして活躍した訳でもある」

 シエリールという存在が、なにを求め、なにになりたいか。

 スケアクロウは、本当に楽しそうに、まるで自分だけが知ってる秘密を誰かに教えるときの少女のような笑顔になった。そっと呟く。

「に・ん・げ・ん」

 スケアクロウは、んべっと舌を出した。まるで、今血を飲んだかのように赤かった。

「やはりな」

「おまえが食い物にしている人間。おまえが世界を共にしている人間。そして、おまえが恋焦がれる人間」

 両手を広げ、壮大さを表現し、言い切った。それは、まさに案山子だった。

「おまえは、完璧な人間を目指して造られた。人という性質に惹かれるだろう? 人という造りに惹かれるだろう? そして、人という存在に惹かれるだろう? だから、おまえはあの一般人に近い娘に強く惹かれるんだ。そう不思議そうな顔しなさんな。言ったろう? 私はおまえのことならなんでも知っているって」

「完璧な人間……。本来私は、神を目指していたとでもいうことか」

「そうさ。想像力の無いことだと思うけどね。完璧イコール神。世の中の全てを統べ、死なない完全な生物。最強の存在。それの出来損ないがおまえだ!」

 スケアクロウは、びしっと音が聞こえそうなくらい力強くシエリールを指さした。出来損ない。その言葉が、シエリールの胸には大して刺さらない。むしろ、ものすごく、意外なくらい得心してしまった。落ちていた欠片が、ぴったりとはまった感覚といったところだ。なくした心の一部をようやく見つけ上げたようだった。

「だが、そんな出来損ないでも人間を目指して造られたわけで、だからこそ、おまえは化け物には滅法強いんだ」

「そうか。化け物を、いや、世界を否定するのはいつだって人間だからな」

「ひひひ、それを知ったおまえはどうする? 自殺する? 拒否して自暴自棄になる? 周りに当り散らす? さあさあ、完璧のなりそこないはどうする?」

「どうもしないさ。ここまで、こうして生きてきたんだ。これからもそう生きていくだけだ」

 元々欠陥だらけの人生だった。それ故、シエリールの中で答えはもう決まっていた。真澄が言うように、どういう目的で生まれたかとか、中身がどうとかいうよりそれまで積み上げてきた過去を最重要視する生き方。ここまで、生きてこれたのだから、これからも生きていける。確信めいたものがあった。

「ひひひ。そうさ、おまえはそう答える。知ってるよぉ。だから、ダメなんだ。完璧に憧れない。人間なんていう神の形だけを模写した土くれを愛する」

「その土くれを真似たんだろう? それについてだけは感謝する」

「はははっ。本当におまえは面白い。ダメだといっているだろう? おまえはいくら憧れても人間にはなれやしないの! おまえがいくら認めてもそれは人間の真似をしているだけ! 欲しいものはなにひとつ手に入らないんだよ!」

「欲しいものはもう持ってる。もう、あるんだ」

 強がりでなく、シエリールは心の底から言い切った。

 シエリールは、自分を受け入れてくれる人間がいる。彼女らと共に同じ時間を共有し、同じ空間を共有し、同じ感情を共有できる。充分すぎることだ。

 


 シエリールは、用件を済ますと、ワインを一緒に飲もうといったスケアクロウの提案をきっぱり拒否してホテルを後にした。スケアクロウの言葉を鵜呑みにしたわけではないが、彼女の自分の目的のために黙っているという部分は本当だろう。その目的のために、面倒が降ってきたらそのとき考えることにしよう。今日は、些か疲れすぎた。

 やることを終え、訊くことも訊いた。後は帰るだけだ。真澄に会いたい。そう思うと、自然と足が早くなる。

 事務所には明かりが灯っていた。鍵の開いてる扉を開け、中に入る。その瞬間、泣きはらした顔の真澄が飛び込んできた。

「おかえり! 怪我はしてない? 首はちゃんとくっついた? 良かった良かったよ!」

 シエリールは、ぽんぽんと真澄の頭をなでた。

「ああ、私の帰る場所はここだ。ただいま、真澄、巡季」

 シエリールは悟った。シエリールに彼女たちと同じ魂があったら、安心するんだと思う。生き物として種族は違っても同じ魂の殻だからと。

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