インタルード2

「勘のいい奴だ」

 シエリールが屋敷を出て行った後、古木は苛つきながら屋敷の中を歩いていた。大股で足早だ。

「だが、なにが小馬鹿にされる覚えはない、だ。小馬鹿にしてるのはおまえの方だろうに!」

 グチをこぼしながら廊下を進む。あるところで廊下がT字路になっている部分の前を横切った。

「くくく。あいつに口で負けたのかい?」

 その角の部分に一人の女吸血鬼が立っていた。ぼさぼさの長髪。鳥の羽がそのまま飾り付けられた脆そうな印象のコートを着ている。シルエットはまるでぼろを着ているようだ。アーモンド型のぱっちりとした目の持ち主だが、それは力と自信に溢れている。

 それが楽しそうに歪んでいる。

「……ああ。まったく口が良く回る。君たちはあいつを口から造ったんじゃないのかい?」

 少し、逡巡して古木は正直に答えた。

 吸血鬼としても、生き物としても、心のある存在としても、そのぼろを着たように見える女の方が格上だ。隠すだけ、恥の上塗りなのは承知している。

「ふふ。君も結構回る方だと思うけどね。あいつはどんなになっていようと私たちの自信作だ。そう簡単に負けてもらっては困る」

「そういうけどね、スケアクロウ。口が過ぎる真似は謹んでもらいたいものだ」

 スケアクロウは、にっこりと笑った。

「昔は無口で素直で良い子だったのに、なにがあんなひねくれた子にしてしまったんだろう?」

 小首を傾げる。

「あんなやつのなにが良いのか、理解に苦しむよ。だけど、君たちがあれを必要としていて、欲しいというなら僕は協力するよ」

「精々頑張ってもらいたいね。見返りは充分に用意する。君の欲しかった黒い森の主要研究員のポストも思うがままだ。君の手腕に大いに期待してる」

「そうだ、僕は僕を馬鹿にした連中、追いやった連中を生かしておかない。特にママと離れる原因になった奴らは八つ裂きしてもまだ足りない! きっと探し出して殺してやる!」

 スケアクロウはとても楽しそうに笑みを浮かべている。古木の殺意さえ心地よさそうだ。

 そのとき、古木の携帯電話が鳴った。

 部下からだ。苛つきを押さえられず乱暴に電話にでた。報告を機械的に聞く。電話を手短に切ると、スケアクロウに向かった。

「せっかくだから、君の実力を拝見させてもらうよ。三毛猫が捕まった。ルーンを刻むもの《ルーンエングレイバー》の本領を発揮してくれ」

 携帯電話をしまいながら言った。しっかりとスケアクロウの目を見ながら。

「はいはい。わざわざこんな東の端っこまで来たんだ。仕事をしないともったいない。期待には応えるよ。それに、あいつはいつまでたっても私のもんだっていうことを思い出させなければ」

 スケアクロウは楽しそうに笑った。

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