第3話 猫娘の珠子ちゃん
「ほら、銀次郎くん耳をしまわなあかんで」
珠子ちゃんは、授業がちゃんとできるように、クラスメイトをチェックしてまわる。
「九助くん、いらんこと言うて、授業の邪魔をしたらあかんで」
いちびりの九助くんに注意するが、ふん! と返事はするが、わかっているのか珠子ちゃんは、心配だ。でも、クラスメイトの何人かは、級長だからと言って偉そうだと陰口を叩いている。
「なぁ、珠子ちゃん? なんで、そんなにカリカリしてるん?」
雪女の小雪ちゃんは、色白で真っ黒な髪が綺麗な女の子だ。1年1組のアイドル的な存在で、男の子は内心で仲良くなりたいと考えている。小雪ちゃんと珠子ちゃんは、赤ちゃんの頃からの幼馴染みだ。ちょこっと小雪ちゃんのお父さんも放浪癖があるので、猫おばさんと小雪ちゃんのお母ちゃんは話が合うからかもしれない。
「ぽんぽこ狸が鈴子先生が授業を進めるが遅いと注意したんや。それで、毎晩部屋で泣いてはるんや」
泣き女だから、泣くのは仕方ないが、毎晩やと気がくさるなぁと小雪ちゃんも同情する。
「ほなら、私も珠子ちゃんのお手伝いをするわ!」
珠子ちゃんは、小雪ちゃんが他の女子にも声をかけて、迂闊な失敗が多い男子に注意してくれるようになって楽になった。ネズミ男の忠吉くんには、猫娘の自分からは注意し難いと思っていたからだ。
「俺も、気がついたら注意するよ」
女子達が授業の前に、お皿を乗せたまま登校してきた河童の九助くんを注意している時に、何故、こんなことをしているのか気づいただいだらぼっちの大介くんも参加してくれるようになった。大介くんは、小学校1年生だが、大人ぐらいの背もあるし、力持ちなので、男子も逆らわない。
「鈴子先生、1組も落ちついてきましたね」
田畑校長から声を掛けられて、鈴子先生は嬉しそうに微笑む。
「ええ、みんな良い子ですわ!」
嬉しそうな鈴子先生の後ろ姿を、田畑校長は少し心配そうに眺める。ゴールデンウィーク前には、家庭訪問があるのだ。普通の人間の生徒の家庭訪問でも大変なのに、妖怪や半妖怪の生徒の家庭を訪問するのは、新米の先生にできるだろうか? 自分か誰かベテランの先生が付き添った方が良いのではないか? ぽんぽこお腹を叩いて悩むのだった。
終わりの会で、鈴子生徒はプリントを配る。
「家庭訪問? なんや、これ?」
先生が説明する前から、いちびりの九助くんが騒ぐ。そうなると、他の男子も騒ぎだす。
「静かに! このプリントに家庭訪問の時間を書いてありますが、保護者の方のご都合が悪ければ変更できます。忘れないで、プリントを渡して下さい」
小雪ちゃんも隣の席の珠子ちゃんと、何時? とかプリントで確認しあう。
「それから、お家の方にお茶などは結構ですと、みなさんからも言って下さいね。せっかく、出して頂いても、次の家に行かなくてはいけませんから」
珠子ちゃんは、家庭訪問と言っても、鈴子先生が下宿しているので、何も興奮はしないが、クラスメイトが騒いでいるのが少し心配だ。
「家は和菓子屋なのに、お茶もお菓子も食べて貰われへんのかなぁ。美味しいのに……」
小豆洗いの
「豆花ちゃん家の和菓子は美味しいのは、鈴子先生もよう知ってはるわ。うちのお母ちゃんが買うてきてるもん」
色白の豆花ちゃんは、嬉しそうにポッと頬を染める。優しくて美人の鈴子先生に憧れているので、自分の家の和菓子を食べていると聞いて嬉しくなったのだ。
「私もお母ちゃんに注意しとかなあかんわ! かき氷を出しそうやもん!」
雪女の小雪ちゃん家は『
「霙屋のかき氷は美味しいもんなぁ」
4月の終わりになると、陽気が良くなり、かき氷が美味しい季節になった。暖かいのが好きな珠子ちゃんと違い、苦手な小雪ちゃんは不安そうな顔をする。
「夏のお昼、外に出るのは初めてやねん。学校に通えるなかぁ」
珠子ちゃんや豆花ちゃんも、雪女の小雪ちゃんが大阪の暑い夏に堪えられるかはわからない。
「きっと、家庭訪問で鈴子先生と小雪ちゃんのお母ちゃんが話し合いはるわ。しんどくなったら、私に言うてな! 保健室に連れて行ってあげるから」
小雪ちゃんは、お母ちゃんやお父ちゃんも夏でも頑張って働いているのだから、自分も頑張ろうと頷いた。
1組1組には、訳ありの子ども達が通っているので、家庭訪問は大変そうだ。鈴子先生は、各自の家庭を訪問して、家での生活や、保護者の心配などを調査しなくてはいけないと気合いをいれる。入学の時に、提出された書類を何度も読み返して、家族構成を暗記したり、訳ありの子ども達に特有の問題点なども把握しようと頑張った。
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