第48話 季節外れの転校生

「あ~つ~い~!」

 雪女の小雪ちゃんは、夏は苦手だ。朝の会の前なのに、くたぁ~と机にうつ伏せている。

「大丈夫? 保健室に行く?」

 級長の珠子ちゃんは心配するが、小雪ちゃんは頑張る! と座りなおす。

「無理せんときや! 暑いの苦手なのは皆が知ってるから」

 小雪ちゃんは、今日は頑張る! と気合いを入れる。


「あっ! 先生や!」

 田中先生が黒目がちの男の子を連れて来た。

「犬飼黒丞くんです。犬飼守くんの親戚です。今日から一緒に勉強します。仲良くしてあげてね」


 犬神のクロは、珠子ちゃんのお母ちゃんに紹介された先輩の犬神にスパルタ式指導を受けて、人間に変身できるようになったのだ。子犬に見えていたが、99歳だったクロはちょうど100歳になったので、魔力も増えて人間に変身できた。

「本当は、1年1組へ入学した方がええんやけど……」

 珠子ちゃんに、黒丞くんは甘えるようにキュウンキュウンと鳴く。

「あかんで! 言葉でいわんと!」

 黒丞くんは、自分に甘い守くんに尻尾をぱたぱたさせる。

「クロ! いや、黒丞くん! 尻尾を出しては駄目だよ。やっぱり1年1組の方が良いかもね」

 未だ人間に変身するのも慣れていない黒丞くんが、2年2組で勉強するのは無理だと二人は考える。

「いや! まもるといっしょ!」

 騒いでいると、守くんのお祖父ちゃんがやってきた。獣医のお祖父ちゃんは、クロに甘い。どんな手を使ったのか、犬飼黒丞という名前で戸籍や住民票を手配した。

「よしよし! 黒丞や! 守と一緒が良いんなら、尻尾を出してはいけないよ」

 大好きなお祖父ちゃんにぱたぱた尻尾を振っていた黒丞くんは、慌てて尻尾を消す。

「田畑校長先生は、よくできた人物や。黒丞を一緒に勉強させてくれるやろ」

 お祖父ちゃんが田畑校長を説得して、黒丞くんは2年2組に転校した。守くんと珠子ちゃんは、大丈夫かなぁと反対したが、黒丞くんを1年1組にしても走って2年2組に駆けてくると、お祖父ちゃんに笑われて諦めたのだ。


 学校には守くんとお母さんと一緒に登校したが、守くんは2年2組に行ってしまい黒丞くんは心細くなっていた。先生が紹介している間に守くんを見つけた!

「まもるくん!」

 はぁはぁと興奮して息の荒い黒丞くんに抱きつかれる。

「ええっ~! 男の子が男の子に抱きついてる!」

 教室は大騒ぎになる。田中先生は静かにしなさい! と注意をするが、黒丞くんは大きな声に驚いて、守くんから離れない。

『やばい! 黒丞くんがこれ以上興奮するとクロに戻っちゃう!』

 珠子ちゃんは、本当はまだ苦手な黒丞くんを守くんから引き離した。

「黒丞くん! ここは日本なのだから、ハグはしないのよ。みんな、黒丞くんは帰国子女だから、日本の風習を知らないの。教えてあげてね!」

 田中先生は、やはり珠子ちゃんは級長として頼りになると微笑む。

「さぁ、黒丞くんは守くんの横の席につきなさい!」

 守くんの横に座った黒丞くんは、ランドセルの置き場や、教科書を机の引き出しに入れたりと面倒をみて貰っている。

 どうにか黒丞くんも2年2組で一緒に勉強していけそうだと、珠子ちゃんはホッとする。

『でも、当分は守くんは黒丞くんの世話だけで大変そうやな。夏休みにデートしたいけど……黒丞くんも一緒かな?』

 おませな珠子ちゃんは、初恋はなかなか実りそうにないと溜め息をついた。

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