第50話

 ゲートからギルティメイズへと移動する最中、目を開けてみてびっくりしちゃいましたの。




「……ふおおっ!」




 山上、都会の夜景、海中、夕焼けに染まる公園、遊園地のライブステージ。


 太い透明な管の中を泳ぐわたくし達の周りに、色んな景色が交互に広がっていますわ。


 上を見ても下を見ても、どこもかしこも映像が流れていて凄いですの!




「ゲートをくぐっても泡の音が聞こえたかと思ったらすぐに転送されるから、こういった移動中の演出は新鮮で面白いわね。あ、あれって何かしら」




 わたくしの隣で仰向けになりながら泳いでるみやかが何かを指しましたの。


 小型カメラのようなものでしょうか……銀色のメカメカしい球体の中央に赤くて四角いレンズがありますの。


 カメラはひとしきりいおさんの周りをくるくる回って、




『ギルティ、ギルティ!! ギギギッ、エラーエラー! ファーストギルティ、認証エラー!!』




 レンズがピカッと発光しましたの。


 その途端、桃色に照らされた遊園地から、橙色に輝く海が映し出されましたわ。




「……エラーってどういう意味ですの?」




 やや遅れて泳いでいるいおさんに訊ねてみたのですが、困った顔で首を傾げるばかりですの。




「エラー? ああ、なるほど。そういうことですか。イレギュラーな人ばかり……少し厄介なユニットですね」


「きゃはっ。変な子ばっかりで面白そうなユニットだよねぇ。リズムン、今からわくわくしちゃってる!」


「リズム……慎みなさい」


「はいはぁ~い」




 なんでしょうこのお二人――プリティさんとリズムさんの考えがよくわかりませんわ。


 プリティさんは輝く瞳で訝しそうにいおさんを睨みつけていますし、リズムさんは横目で面白そうにわたくしを見つめていますの。




「あれ。今度はカメラがななよちゃんのところに行ったよ?」


「……えっ!?」




 ほ、本当ですわ!


 あらゆる方向から撮られていますのっ!


 うう、あんまし撮さないでくださいましっ、恥ずかしいですわ……と、顔を背けたとき。




『スキャン終了。セカンドギルティ・色欲アイランドへ移行。オートメイズ作成……コンプリート!』




 どっくん、という激しい鼓動音と共に指が熱くなるのを感じましたの。




「あっつぅ……。ゆ、指輪が光ってますわ」




 オレンジ色に明滅して『地』の文字が現れた次の瞬間、眩しい光がわたくし達を包みましたの。




 ――ギルティメイズ第一層 色欲アイランド




 長い管の中を抜け、大地に降り立ったと同時に仰々しいテロップが表示されましたわ。


 あの閃光弾のような光のおかげでまだ目がしばしばしますの……。




「うっわー、凄いキレイな景色! わーい! ビーチパラソルだ、わーいっ!」


「あ、イルカさん泳いでる……かわいい」


「にゃにゃ。私、やしの木というものを初めてみました! とっても感動的だにゃって……っ」


「へぇ。凄いじゃん。どこぞの南の島って感じね……。ちゃんと太陽の日差しも暖かいし、リアルねぇ」




 みなさんはもう見えているみたいですわ。


 うう、わたくしも早く見たいですのっ!


 ごしごしと目をこすって慌てて周りを見てみたのですが……ひょえーっ!




「青い空、青い海、それとリゾート映画とかでよく見る青いジュース!! す、素晴らしいですわ~っ!!」




 目の前に広がる美しい南国の景色に、わたくし一瞬でとりこになってしまいましたわっ! 


 両手を目の前に合わせて「素晴らしいですの~」と目を輝かせているわたくしに、




「服は初期のまま。防具も少ししかつけていない……まったく、そんな装備ではこのアイランド攻略はきついですよ」




 プリティさんが目を輝かせて(とは言っても本当に光ってる七眼状態ですの)、わたくし達を呆れ顔の表情で見ていますわ。


 嘆息する彼女の後ろからひょこっとツインテールを揺らしながら登場したのはリズムさん。




「やったーっ、第一層がアイランドに決まるだなんて、ラッキー! クリアした三つの中でいっちばん好きなメイズなんだよね~っ」




 彼女はとっても嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねると、




「ほらほら、南の島っていったらさ。そんな服じゃ味気ないでしょ~? あそこに見えるのなーんだっ」




 あそこって……ショッピングモールですの?


 なんでメイズの中にそんなものが――と思っていますと、リズムさんに肩を組まれ、ぐいぐいと引っ張られましたわ。




「な、なんですの急に!?」


「なにってさー。このアイランドは、ななよちゃん……『君』の迷宮なんだよぉ? ほらっ、さっそく着替えちゃおー!」


「着替えるってどういうことですの……?」




 凄まじい力でズルズル引っ張られながらわたくしが訊ねますと、リズムさんは星の模様が入ったライムグリーンの瞳で見つめて、




「またまたぁ、いい子ちゃんぶってぇ。南の島って言えば~? はぁーい、水着でーすっ! てなこって、メイズのことなら先輩のリズムちゃんにお任せだよっ。ななよちゃんのお着替えだってちゃーんとサポートしゃうんだからねっ」




 バチンと子悪魔的なウィンクをかましてきましたの。


 さ、サポートって……お着替えのサポートってなんですのっ!?




「いやーっ、離してくださいましぃ!! それに、わたくしはピースですわよっ、気軽にななよって呼ばないでくださいましっ」


「ほー、言うねぇ。ならしょうがないなぁ。ではピースちゃん、早くビキニに着替えて笑顔のダブルピース決めちゃおうね、そうしちゃお!」




 ううっ。わたくし、この方苦手ですわっ!


 だ、誰か助けてくださいまし……。 

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