第三十一話・暫しの休息




 月明かりで仄かに照らされた城の一室にある二台の寝台。その一つには、間にライラを挟んだアルザとルイスが、もう一台にはトゥルフが横になって安らかな寝息を立てている。

 傍らに立つワンピース型の寝間着に身を包んだリウィアスは、それに安堵の息を吐いた。

 包帯の巻かれているトゥルフの左腕を気遣うようにそっと指先で触れる。

「──リウィアス」

 寄り添い、付き合ってくれていたレセナートに促され、共に部屋を後にする。

 塔の中にある自室に戻ると露台バルコニーへと足を向けた。

 外へと出ると夜になって冷えた風が二人の肌を撫でる。レセナートは自身の上着を脱ぐとそれでリウィアスの身体を包み込んだ。

 見上げるリウィアスは微笑み、その唇にレセナートのそれが落ちる。

「……辛くないか?」

 リウィアスの肩には包帯が巻かれている。

 案じるレセナートに、リウィアスはかぶりを振った。

「レセナートが傍にいてくれるから、平気」

 リウィアスにとって何よりの薬はレセナート自身。愛する彼が傍にいてくれさえすれば、たとえ病に懸かろうが負傷しようが、心は穏やかになり、同時に苦しみも緩和される。

 故に、神経にも骨にも達していないこの程度の怪我などリウィアスにとっては虫に刺されたのと大して変わらず。

 瞼を下ろしたリウィアスは、レセナートの肩に頭を預けた。

 優しく抱き寄せるレセナートはその小さな頭に下された髪ごと口付け、塔から見渡せる景色に視線を移した。

 この一ヶ月足らず──特にこの一週間は、リウィアスは気を張り詰め通し。まだ残党がいないとも限らないため油断は出来ないが、漸く肩の力を抜く事が出来る。

 二人を包む、独特の穏やかな空気。

 それは、知らずに蓄積していた疲労を表に現す事となり、愛する人の温もりに包まれてリウィアスはうとうとと、夢とうつつとを行き来し始めた。

 気付いたレセナートは、穏やかに目を細める。

 常に誰かを護る立場にあるリウィアスがこんな風に無防備な姿を晒すのは、絶対の信頼を寄せているからに他ならない。

 無理をさせた事を申し訳なく思うのと同時に、安心して身を任せてくれる事実に愛しさが溢れた。

 夢の中に足を踏み入れたその身体を軽々と抱き上げても起きようとはしないリウィアスを室内に運び入れ、疵に障らないよう注意しながら優しく寝台の上に横たえる。

 その額に口付け、自らも寝具に潜り込むと、その温もりを求めてリウィアスは擦り寄った。

 その可愛らしさに頬を緩め、レセナートはリウィアスの額に唇を押し当てた。

「──お休み、リウィアス」

 細い肢体を包み込み、レセナートは瞼を下ろした。

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