25 その道の果て
「終わった……ね」
すべてを終えて、私とスフィーは部屋に戻ってきた。
「うむ。よくやった、見事だったぞ」
スフィーが初めて素直にほめてくれる。なんだか照れくさい。
「まあお芝居みたいなものだったから……かえって楽だったよ。スフィーの指示通りにしただけだし」
「いやいや、あれは単なる傀儡の働きではなかったぞ、もっと胸を張れ。……まあ張ってもわからぬ程度の大きさだが」
――一言多い。
「本当に終わったんだね……なんか実感がないけど……」
「なら最後の仕上げと行くか。本来あるべきだった、呪いの影響のない未来に戻すのだ」
「私は何をするの?」
「おぬしは過去視の時のように横になれ。後はわらわにまかせよ」
私は言われるままにベッドに横になる。だがそこで安心感と疲労感が一気にわきだして、ついうとうとしてしまった。
「……本当によくやったぞ、ひねり」
ぼんやりとした意識の中で、スフィーの優しい声が響いた。それは夢だったのか――。
「……」
――ふと目を開ける。変わらぬ部屋の天井。
「……あれ?」
窓を見るともう朝になっていた。服もなぜかパジャマだ。
「まさか、全部夢だった――?」
「……そんなわけなかろう。今日は事件当日の朝だ」
よく見ると、部屋の隅にスフィーの姿。
「だがもう事件は起こらぬ。呪いによって歪められた部分は全て消えたからな」
「ほんとに? まさか、またくりかえされたりとか……」
「大丈夫だ。今はもう呪いの影響のない、正しい世界だ。原因となった負の感情も、それによる関係のもつれも生じておらぬはずだ」
「そっか……呪い、もう解けたんだ……」
私は安心すると同時に、重大な事に気付く。
「あ――じゃあ、スフィーはもう帰っちゃうの?」
「なぜだ?」
「だって、呪いに勝ったから――」
「ああ、今回に関してはな」
「今回?」
「うむ。依代にかけられた呪いは消えても、呪いそのものはまだ消えておらぬ。残念ながらわらわはまだまだおぬしを守らねばならぬのだ」
それを聞いて、私はなぜか安堵する。本当なら不安にならなきゃいけないはずなのに。
「……だけど、今は本当にあの日の朝なの? だとしたら五月先輩と南先輩はまた体育倉庫に来るんじゃない?」
「疑うならば行ってみろ。自分の目で確かめてくるとよい」
私は半信半疑のまま、あの日と同じように家を出て体育倉庫に向かった。
……が、結局誰もそこに来ることはなかった。
私はその後、始業までの時間と休み時間を使って滝先生と先輩達の様子を調べた。
職員室で聞いたところ、滝先生は遅くまで残っていることは少なく、どうやらあいびきしている気配はないようだ。
五月先輩と南先輩も仲がよく、もめるどころか楽しそうに話をしていた。どちらも居残ってなどいないばかりか、よく一緒に帰っているらしい。
しかも南先輩は久栖先輩と別れておらず、休日にデートする姿なども目撃されていた。
……みんな平和そのものだった。
「よかった……これがあるべき未来なんだ」
放課後、私は自分の席でそっとつぶやく。と、そこへいっきと愛子がやってきた。
「ひねり、部活もう決めた?」
一瞬驚き、そして気付いた。
――そうか。あの呪われた未来で設立した部は、もう存在しないんだ。
何となくさびしくなってうつむいたが……ふと思いついて顔を上げる。
「――うん、決めたよ」
私はほほえんで言う。
「探偵部!」
そしてほどなく、私達は当然のように新聞部を乗っ取るため部室に向かった。
そこで生きているユイさんと再開した私は、嫌がるユイさんに泣きながらしがみついた。
こうして探偵部は復活を遂げ、私は変質者あつかいされることとなったのだが……これは余談である。
ひねり~失われた事件~ 愚童不持斎 @ARGENT
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