隠れたストーカー

天川裕司

隠れたストーカー

【意味怖】タイトル:(仮)隠れたストーカー


▼登場人物

●雪花典子(ゆきはな のりこ):女性。30歳。普通のOL。

●田原浩二(たはら こうじ):男性。29歳。サラリーマン。実はストーカー。

●小山昇(こやま のぼる):男性。35歳。職業不詳。寡黙な感じ。


▼場所設定

●秋仁荘(しゅうじんそう):普通の2階建てのアパート。典子の部屋は2階。浩二も同階で隣の部屋。小山は1階の部屋。

●アパート前の道路:少し向こうに十字路があり、その角からストーカーが覗いている感じ。そばに電柱があり、夜でもそこに誰かが居れば分かる感じ。


NAは雪花典子でよろしくお願いいたします。

(イントロ+メインシナリオ+解説=3227字)



イントロ〜


皆さんこんにちは。

皆さんは、実際にストーカーに遭った事はあるでしょうか?

今回はストーカーに付きまとわれた、或る女性にまつわる意味怖のお話です。



メインシナリオ〜


私の名前は雪花典子(30歳)。

ここ秋仁荘に住む、どこにでもいる普通のOLだ。

私には最近、悩んでいる事がある。

それは…


典子「う…また角(かど)から覗いてるなぁ…アイツ。一体何なのよォ」


ストーカー被害。

家の前の通りを少し行った所に十字路の角がある。

電柱がそばにあるその角から、ずっと男が私の部屋を見上げているのだ。

被害は何週間も前から。

ずっと角から覗いているだけ。

逆に近づいて来ないこの距離感が、敢えて恐怖を誘うのだ。


典子「うう〜気味悪いわ…いきなり襲ってくる…!なんて事ないわよね…」


男の影は角の辺りを行ったり来たりしている。

家の前の通りはひとけが少ない。

だからストーカーにとっても好都合。


典子「くっそぉ〜、何してんのよ警察は!早く捕まえてよ!」(警察に通報しながら)


警察にはもちろん何度も通報している。

けれど警察が来る時に限ってそいつは居なくなる。

パトロールを搔いくぐってヒョイと現れ、また消えて行く。


ト書き〈数週間後〉


数週間後。

まだアイツは捕まらない。

きっとヤツはストーカーのプロだ。

犯罪のプロだ。

だから警察の網を掻いくぐる術(すべ)をきちんと心得ている。


典子「もうホントこのアパート引っ越したい!」


でもお金が無い。

引っ越す為の資金が貯まり次第、このアパートを出ようとしていた。

仕事は安月給。

生活費で先にお金が飛んでいくのだ。


ト書き〈田原浩二が引っ越してくる〉


そんな或る日。


浩二「こんにちはー、今度、隣に引っ越してきた田原です。どうぞよろしく」


田原浩二(29歳)という人が引っ越してきた。

とても感じのいい人。

都内の一般企業に勤めるビジネスマンだ。

明るくて朗らかで、どこか頼り甲斐のある人だった。


典子「あどうも、こちらこそ♪」


私は愛想よく振る舞った。

その時私は…


典子「(この人なら頼れるかも。ストーカー追っ払って貰っちゃお)」


等とズルい事を思ったりしていた。


ト書き〈相談〉


それから機会を見つけ、私は浩二さんにストーカーの事を相談した。


浩二「そうなんですか?そりゃ大変ですね。警察にはもう?」


典子「言いました。でも全然ダメなんです」


私は悩みをそのままぶつけ、

「何かあった時にはぜひ助けてほしい!」

と無心した。

浩二さんは親身に聴いてくれ、快く引き受けてくれた。


ト書き〈夜中〉


翌日の深夜。


浩二「こらぁ!待てェ!」


典子「え!…な、なに?!」


私はもう眠りかけていた。

その時、浩二さんの怒声で目が覚めた。

家の前の通りを、浩二さんが走って行く。

それから少しして、浩二さんは落ち込んだ表情で帰って来た。


典子「あ、あの浩二さん?どうしたんですか?何があったんですか?」


浩二「さっき寝ようとしてカーテンを閉め掛けた時、あいつが角のトコにいるのが見えたんですよ。それできっと『例のアイツだ!』と思って急いで走って行ったんですが、ダメでした。逃げられちゃいました。すいません…」


典子「え、そうだったんですか?」


浩二「電柱の明かりで分かったんです。確かに男が立っていました。ずっとあなたの部屋を見ていたようです。その様子からして、きっとアイツだと…」


典子「そこ迄して頂いて、こちらこそ本当に申し訳ありません」


典子「でもこれでもしかするとアイツ、ビビッてもう来ないかも知れませんよ!『私に今付き合ってる男が居る!』とか勝手に思い込んじゃったりして」


浩二「はぁ、そうなるといいんですが」


私の為にここ迄してくれた浩二さん。

私は益々、彼に好意を寄せていった。


ト書き〈小山昇が引っ越してくる〉


そんな或る日、また別の人が引っ越してきた。

名前は小山昇(35歳)。

どこかムスッとしており、感じの暗い人。

なんの仕事をしてるのかも分からない。

引っ越して来た日に1度だけ挨拶をしたきり。

あとはずっと部屋の中に篭ってるようだった。


ト書き〈角の人影が無くなる〉


典子「よかった、アイツ、やっと消えてくれた…」


ストーカーは居なくなった。

ちょうど浩二さんが怒鳴り付けたあの夜。

あの日以来、ストーカーは消えたようだ。


典子「ウフ、やっぱりあれが効いたんだ!」


今後、ストーカーがまた現れるかどうかは分からない。

でも今の所は、浩二さんが私を守ってくれたお陰でストーカーが消えている。

この事に私は心底喜んだ。


ト書き〈天井から覗く〉


でも、喜んでいたのも束の間…


典子「な、何この音…?何なのよ一体…。またなの…?」


また夜中。

屋根裏を歩くような音がする。

こんな事は1度も無い。

これが数日間、続いた。

そして…


典子「き、きゃあ!」


よく見ると、天井の板張りに覗き穴のようなものが空けられていた。

その向こうで、何かが動いた気がした。


典子「い、今のって、人の目…」


直感でそう思った。


私は急いで警察に通報。

浩二さんは出張で居ない。

夜中だからか大家に電話しても出ない。

私は気が気でなくなり、部屋に戻らず、そのまま最寄りの交番へ走った。


ト書き〈数日後〉


数日後。

あれから警察はすぐに来て、部屋を徹底的に調べてくれた。

確かに部屋の天井には覗き穴のような穴が開けられていた。

でも結局、犯人は分からない。

浩二さんはまた仕事の関係で引っ越して行った。


ト書き〈実家に帰る事を決める〉


私は実家に戻る事を決めた。


典子「ったく、小山さんより、浩二さんがずっと居てくれたらよかったのに」


そんな事をブツブツ言いながら、荷造りをしていく私。

でもそれ以来、ストーカーの気配はすっかり無くなった。



解説〜


はい、ここ迄のお話でしたが、意味怖の内容に気づかれましたか?

それでは簡単に解説いきます。


結論から言います。

ストーカーは、浩二でした。


浩二は角の辺りに立つストーカーを見つけ、アパート前の通りを怒鳴りながら走っていき、ストーカーに一括したが逃げられた…と典子に言います。


でも典子はその現場を見た訳ではありません。

しかも時間は夜中。

典子はこの時、眠気まなこで意識は虚ろ。

「実際、何が起こったのか判らない」

という心境でした。


つまり、

「ストーカーを見た」

と言う浩二の言葉は嘘だったのです。

犯人が別に居ると思わせる為の偽装。


その証拠に浩二が隣に引っ越して来てからは、角に立つストーカーを典子は1度も見ていません。

隣に引っ越してきたのだから、もう角に立つ必要は無かったのです。

でもまだストーカーの犯人は外に居ると見せ掛けたくて、そのような演技をしたのでしょう。


そして屋根裏の散歩者…ではなく覗き魔の件。

この時点ではもう1人引っ越してきた男・小山昇の存在が気になります。


小山はもとから寡黙な男。

人付き合いが殆ど無く、普段何をしているのか分からない。

実にミステリアスな部分が残る存在です。


しかし小山は本当にただの寡黙な男で、ストーカーはしていませんでした。


ラストの場面で浩二が引っ越した後、ストーカー被害は全く無くなります。


浩二が引っ越した後も小山はアパートに居ました。

にも関わらず、ストーカー被害は1つも出ません。

つまり浩二の動きにだけ呼応して、ストーカーの出没も左右されています。


この点から見ると、

「浩二が居なくなったからストーカーも消え去った」

とするのが妥当なところ。


更に途中の場面で、

典子「でもこれでもしかするとアイツ、ビビッてもう来ないかも知れませんよ!『私に今付き合ってる男が居る!』とか勝手に思い込んじゃったりして」

浩二「はぁ、そうなるといいんですが」

との会話がありました。

この場面でも、何となく浩二の隠れた想いが表れています。


典子の言う、

「私に今付き合ってる男が居る」

を承けて、

「そうなるといいんですが」

ともなれば、

「典子が今付き合ってる男に自分が成りたい」

と言う浩二の率直な気持ちが浮かんできます。


ともあれ、ストーカーを正確に見分ける事はやはり至難の業。

実際こんな状況に遭ってしまえば不安と恐怖は残るでしょう。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=p7KG-EanfSo&t=82s

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隠れたストーカー 天川裕司 @tenkawayuji

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