私はどこに居た?

天川裕司

私はどこに居た?

【意味怖】:タイトル:私はどこに居た?


▼登場人物

●夢原梨深(ゆめはら りみ):女性。20歳。大学生。事故に遭いICU(特定集中治療室)へ。その後、回復。

●香川亜由美(かがわ あゆみ):女性。20歳。梨深の友達。見舞いに来る。いつも小さい虎のヌイグルミの付いたキーホルダーを鞄に付けている。

●両親:父親は夢原静雄(ゆめはらしずお)、母親は佳子。梨深の両親。共に50歳。毎日お見舞いに来る。

●謎の男:名前・年齢不詳。梨深に十字架のお守りを握らせてくれる。最後まで正体分からず。バス停で梨深が事故に遭ってすぐ、救急車を呼んだ・・・という伏線を敷く感じで。

●受付係:夢野総合病院の受付。女性。30代。一般的なイメージで。

●ドクター:男性。50歳。夢野総合病院のドクター。梨深の主治医。


▼場所設定

●バス停:街中を含め、一般的なイメージで。梨深の自宅から坂道を下り、三叉路を左に曲がった所にある(走っても少し掛かる感じ)。

●夢野(ゆめの)総合病院:一般的なイメージで。ここのICUに梨深が搬送される。


NAは夢原梨深でよろしくお願いいたします。

(イントロ+メインシナリオ+解説=3532字)



イントロ〜


皆さんこんにちは。

皆さんはこれ迄に、大きな事故に遭った事はありますか?

今回は生死をさまよう交通事故に遭った、女子大生にまつわる意味怖のエピソードです。



メインシナリオ〜


私の名前は夢原梨深(20歳)。

どこにでもいる普通の大学生だ。


梨深「行ってきまーす!遅れる遅れる!」


或る日の事。

私は寝坊した。

大急ぎで身支度をして家を飛び出た。

家からバス停までは少し距離がある。


梨深「急がないと!」


自宅から坂道を下って行って、三叉路を左に折れた所にバス停がある。


梨深「はぁはぁ!よし、何とか間に合いそう!」


バスがもうすぐ来るその瀬戸際で、私は車道に弧を描くように飛び出した。

全力疾走の時、周りの騒音など殆ど聞こえない。

その時、道の向こうから大型トラックが猛スピードで走って来ていた。


(事故:ガシャアン!!)


気づいた時

私の躰は宙に舞った。

そしてそのまま地面に激突。

頭を強く打ち、その場で意識を失った。


ト書き〈夢野総合病院へ搬送〉


バス停に居た人の誰かが、急いで救急車を呼んでくれたらしい。

私は最寄りの夢野総合病院へ搬送された。

ここ界隈で1番大きな病院だ。

そして私はすぐICU(特定集中治療室)へ運ばれた。


ト書き〈病院受付へ両親が来る〉


佳子「梨深は!梨深はどこですか!」


静雄「娘は大丈夫なんですか!」


私の両親はすぐに来てくれた。


受付係「ご両親ですか?すみませんが念の為、身分証明書をお願いします」


佳子「あ、はい!」


両親はすぐ身分証明書を差し出し・・・


佳子「あの、これ娘の免許証と健康保険証です!」


受付係「分かりました、ではこちらへ」


そして両親は、私が居るICUの前まで案内された。


ドクター「楽観できない状態です。頭を強く打っておりまして、意識がまだ戻りません。覚悟だけはしておいて下さい」


佳子「そ…そんな…」


静雄「り…梨深…」


ト書き〈集中治療室での梨深〉


私は頭を包帯でぐるぐる巻きにされ、病院服に着替え、寝台の上に横たえている。

手足が鉛のように動かない。

鼻と口に付けられたチューブだけが一定間隔で、

「シュゴー シュゴー」

と音を発(た)てている。

でも意識はあった。


梨深「…なんか忙しそう。私の周りを誰かが動いてるなぁ…」


梨深「お父さんとお母さん、来てくれたんだ…」


梨深「あたし、どうなるんだろう…」


私は死ぬ事への恐怖を思いつつ、色々な事を考えていた。


ト書き〈徐々に回復〉


それから1週間後。

私は徐々に回復していった。


ドクター「医者がこんな事を言うのもなんですが、奇跡だと思います。感覚が娘さんの体に徐々に帰ってきています。おそらくもう少しすれば、自発呼吸も可能になるでしょう」


佳子「梨深ぃ…!よかったぁ」


静雄「よかった…」


ドクターは両親にそう言った。

面会時間は15分。

でもその15分がとても嬉しい長さに思える。

私は心の中で、涙が出るほど喜んだ。


ト書き〈見舞いに来る〉


そんな或る日、友達がお見舞いに来てくれた。

この子は香川亜由美(20歳)。

大学でもプライベートでも仲良しだ。


ドクター「大丈夫ですよ。どうぞ手を握って、声を掛けてあげて下さい」


亜由美「梨深、大丈夫?あたしだよ、亜由美。早く良くなってね、毎日来るから、大丈夫だからね」


私はまだ目を開けられない。

絶えず麻酔が効いてる状態だ。

混濁する意識の中、それでも手を握ってくれる感触は、はっきりと分かる。


梨深「亜由美…来てくれたんだ。有難う」


それから15分後して、また治療室を出て行く亜由美。

私があげた小さな虎のヌイグルミの付いたキーホルダーを、

亜由美はしっかり鞄に付けてくれていた。

それも嬉しい。


ト書き〈更に回復〉


それから私は更に回復した。

でもまだ少し検査が必要だからと、私は集中治療室の寝台に寝かされている。

最近になり、両親や友達が定期的にお見舞いに来てくれるようになった。

でも私はやっぱり麻酔が効いてる状態だ。

だから、私とお見舞いに来てくれる人のコミュニケーションは唯一、

手をニギニギする事。


佳子「梨深ちゃん、大丈夫よ。もうすぐここを出られるからね」


そう言ってお母さんは、私の手を2回握ってくれた。

私はその答えに、3回手を握り返す。

「わかったよ」「大丈夫だよ」の合図だ。


ト書き〈数日後〉


数日後。

また誰かがお見舞いに来てくれた。

目はまだ包帯で閉ざされている。

部屋に入って来てもベット横に来てくれるまで、誰が来たのか分からない。

ふわっとベッド横の椅子に腰かけてくれた時、何となく男の人の匂いがした。


梨深「…あ、お父さんかな…」


でもその時、私は麻酔の効果でもう眠る寸前だった。


梨深「せっかく来てくれたのに、悪いなぁ。でももうダメ、眠りそう…」


眠りに落ちようとしたその瞬間、その人は私の手に何かを握らせてくれた。


梨深「…ん?何かくれた?…なんだろ、これ…」


なんだか小さなキーホルダーのよう。

私はそれを手の平で確認してみた。

もう手は動かせる。

だから確認していくと、何となくそれが分かるのだ。


梨深「ん?これってもしかして、十字架…?」


どうもそのキーホルダーはクロスの形をしていたようだ。

本当に小さな物だったから、私はそれを手から落とさないよう、しっかり握り締めていた。


ト書き〈個室へ〉


そして、私はやっと集中治療室を出る事が出来た。

個室へ移り、もう容態は安定。


佳子「梨深ぃ!よかったね〜!」


静雄「はあ〜安心したよ。もう大丈夫だ。よかった」


梨深「うん!」


亜由美「梨深!いっときはどうなるかと思ったけど、ほんとによかったね!」


梨深「亜由美、沢山お見舞い来てくれて有難う。ほんとに嬉しかったよ♪それに、私が昔あげたキーホルダーもちゃんと鞄に付けてくれてたんだね♪なんだかそれも嬉しかったな」


亜由美「あは♪当たり前よ〜、せっかく梨深が私の為に買って来てくれたんだから!これからもちゃんと付けとくよ♪」


私の回復を、みんなが喜んでくれた。

私は心の底から感謝した。

でも十字架のキーホルダーの事を訊いても、誰も知らないと言っていた。



解説〜


はい、ここ迄のお話でしたが、意味怖の内容にお気付きの方は居られたでしょうか?

それでは簡単に解説していきます。


今回の意味怖ヒントは、大きく分けて3つありました。


先ず、梨深が事故を起こして病院に搬送された時の事。

搬送後、すぐに梨深の両親が病院へやって来ます。

そして佳子は受付で、梨深の免許証と国民保険証を提示します。


そう、梨深はこの日、身分証明書を全て自宅に忘れていました。


でもおかしいですね?

身分証明書が無い状態なのに、一体誰が梨深の自宅へ連絡したのでしょう。


次に、小さな虎のヌイグルミが付いたキーホルダー。

このキーホルダーは、亜由美がいつも鞄に付けている物でした。

そしてこのキーホルダーは、昔、梨深が亜由美に買ってあげた物です。


まだ梨深が集中治療室に居た時、亜由美は何度もお見舞いに来ます。

そして治療室を出ようとした亜由美の鞄を見、梨深は、

「自分があげたキーホルダーを付けてくれてる」

と喜びました。


でもこの時、梨深の目はまだ包帯でぐるぐる巻きにされ、見えません。

鞄のキーホルダーなど見る事は出来ない筈です。

これはストーリー後半の、

「目がまだ包帯で閉ざされている。部屋に入って来てもベット横に来てくれるまで、誰が来たのか分からない」

と言う梨深のセリフからも分かりますね。


「私が昔あげたキーホルダーもちゃんと鞄に付けてくれてたんだね♪」

個室に移った後、亜由美にはっきりそう告げた梨深。

梨深は一体そのキーホルダーを、いつ・どこで見たのでしょうか?


そして極めつけは、十字架のキーホルダーをくれた謎の男。


お気づきになったかも知れませんが、その男が入って来る時、ドクターも看護師も何も言いません。

更にその男本人のセリフも1つもありませんでした。


この男は一体誰だったのか?


梨深は十字架のキーホルダーの事を両親や亜由美に訊きます。

でも誰も知りません。

つまり、そのキーホルダーをくれた人は、梨深の周りに居なかったのです。


単に別の友達だったのかも知れませんが、それでもドクターや看護師との挨拶の声すら聞こえず、ずっと沈黙のままベッドの横に居たと言うのはやはり不思議な事。


そしてここまで見た上で更に言えるのは、

「事故を起こした直後から病院へ搬送され、その病院での経過の一部始終を語っていたのは誰なのか?」


梨深が自分の感じた事や気持ちを心の中で言うならまだしも、

・バス停に居た人の誰かが救急車を呼んでくれた事

・ドクターと両親との会話の一部始終を聞いてそれを語っていた事

など、ずっと寝台に横たわり、意識が混濁していた梨深には出来ない事です。


それらを全て明るみに出し、しっかり明快に語っていたと言う事は、梨深は果たして幽体離脱でもして、その一部始終を見ていたのでしょうか?


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=EWB0dxyjnw4&t=65s

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私はどこに居た? 天川裕司 @tenkawayuji

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