また空を仰ぐ【短歌ニ十首連作部門】

蕪木麦

逃飛行

言葉には 人の心が透けている

だから毎回 口をつぐんだ


ゆっくりをやめたらすぐに転けちゃって

かすり傷でも致命傷みたい


踏み出した足の向こうに人影を

僕の一歩は君には届かず


すごいよね 尊敬するよ本当に

その言葉の奥 嫌いがチラつく


頑張ってる 頑張ってるよ それでもさ

まだまだなんだよ また失敗だ


曇天に 鳴る雷鳴に後ろ背を

さよなら世界 また会う日まで


ありがとうよりも ごめんが渦巻いて

どんどん落ちてく 私の体


飛んだのに 何故か瞼は開いていて

ただただ背中が 重く痛むのみ


「どうしたの⁉ こんな時間に外に出て!」

 驚く母に 「空を飛んだ」と


「とりあえず病院行くよ」と怒鳴られて

 深夜二時の闇 車は進んだ


 時間外受付に来て即診察

 そしてすぐに入院となる


 少しずつ 管を流れる点滴が

 これは夢ではないと知らせる


「ごめんなさい」呟く私に看護師さん

『よく飛んだね』とニッコリ笑った


『麦ちゃんと約束したいの 一つだけ

 今度は笑って今を飛んで欲しい』


「描く夢 掴めなくても 大丈夫

 自分を掴んで 歩き出せばいい」


「それすらも 掴めなかったらどうするの」

『そんなときはね 笑顔を掴んで』


 死ぬことは 何よりも辛いことだけど

 息続けること それも辛いよ


 結ぶ指 私の手はさ小さくて

 だけどもしっかり絡ませたくて


 生きること それは誰かにつなぐこと

 いつかの君がくれた光を


 この空をいつか飛べると信じてる

 だから私は また空を仰ぐ


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

また空を仰ぐ【短歌ニ十首連作部門】 蕪木麦 @mikoituki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画