詩  「くまの すてふぁに」

@aono-haiji

第1話  詩 「くまの すてふぁに」


こてんと くまのぬいぐるみ すてふぁに

この子は ひとつだけ 不思議な ことに

おすわりができない


どんなに ふんわり 机上きじょうに置いても

こてんと ころ

上向きじゃなく 横に


たいてい 向かって左に転がる

短い左足を上に向けて


うすい茶色で

がさがさ ふさふさしてる 古い毛


金色のリボンも ふちが切れてて

そこに名前が 刻まれていたこと

何十年ぶりに 思いだした


ほんとうは 伝えたい言葉が あったの?


わたしは ずっと

きいてない人だった



遠回りしていく サイレン

夜の街を通りすぎる音たち



この部屋の ここには

さよならがいる



すてふぁにと いっしょに

死んでいく思い

ひとつひとつに


訊いてみたい



この世界に何かを生むことは

その 生みたい何かを 殺すことだと

深く知った



生みたい何かが 生まれたせつなに死んでいく



それを追いかけることはできない



何を生みたかったのか

何を求めていたのか

その思いすら


瞬時に消去される



茫漠とした世界に わたしは漂う


ここにわたしがいるということは


わたしが 生まれてほしかったわたしではなかったことの


あかしか




わたしに


会いたかったはずの すてふぁに


会いたいわたしに 会えなかったから


ずっと さびしかったから


だから



こてんと ころぶんだね







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