会話屋さん~暗黙(やみ)のチャットルームから…

天川裕司

会話屋さん~暗黙(やみ)のチャットルームから…

タイトル:(仮)会話屋さん~暗黙(やみ)のチャットルームから…


▼登場人物

●佐実茂男(さみ しげお):男性。40歳。独身。リストラされて在宅ワーク。実家暮らしだが両親とは疎遠。友達が1人もいない。根っからの淋しがり屋。ずっと孤独。奥手で臆病。

●ソラン:女性。40代。「ソラン」はハンドルネーム。本名は静原香苗(しずはらかなえ)。専用チャットルームで「会話屋さん」をしている。

●中尾保子(なかおやすこ):女性。40代。茂男の「孤独から脱出したい」「誰でもいいから話し相手が欲しい」と言う孤独の心から生まれた生霊。


▼場所設定

●茂男の自宅:一般的な戸建て住宅のイメージで。

●バー「Partner in Mind」:お洒落な感じのカクテルバー。保子の行き付け。

●チャットルーム:別名「王宮チャット」。屋根付きのパンションのような外観で、中には幾つものチャットルームが設置されている。各部屋が利用者の心の中にあるイメージで、部屋から部屋へ行く事は出来ない(そのチャットルームの住人同士が集まったりは出来ない)。実は異次元空間にあり、現実では見えない。


NAは佐実茂男でよろしくお願いいたします。



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4337字)


ト書き〈自宅〉


NA)

俺の名前は佐実茂男(40歳)。

ずっと独身で両親と共に実家暮らし。

以前はサラリーマンをしていたがリストラされ、今は在宅ワーク。


ト書き〈両親と疎遠〉


NA)

両親ともほとんど喋らない。


茂男)「はぁ…。ずっと話し合える人が欲しい…」


NA)

俺の悩みは孤独。

ずっとこんな毎日を送っていると、自分の存在価値すら分からなくなる。

俺は安心して付き合える友達…いや恋人が欲しかった。

「ずっと一緒にいてくれる伴侶」そういう人が欲しかった。


ト書き〈友人から結婚式招待状〉


NA)

ある日、午前中に仕事を終え、俺はウォーキングに行った。


茂男)「はぁ~、気持ちいいなぁ…。やっぱ、ずっと部屋に篭ってると運動不足になっちゃうからダメだな。ウォーキング、定期的に続けていかないと」


NA)

今日は絶好のウォーキング日和。


茂男)「…はぁ。こんな時でも、誰か一緒に歩いてくれる人がいたらなぁ…」


NA)

ウォーキングしてる時ですら孤独を思う。

今まで人並みに恋愛をして来たが、続いた試しは1つも無い。

みんな「不倫」や「自然消滅」という置き土産をして去って行く。

もう俺は世の中の女に絶望していた。

だから今欲しいのは「この世の女ではない天使のような女」。


茂男)「ハハ…そんな女(ひと)いるわけ無いのにねぇ」


NA)

自宅へ戻り、ふと郵便受けを見た。


茂男)「ん?結婚式の招待状?」


NA)

級友からだ。


茂男)「はぁ。あいつもとうとう結婚したか…」


NA)

俺だけが取り残された。

従兄弟も級友も皆結婚して行く。

俺は部屋に戻って返事を書いた。

「欠席」。


ト書き〈数日後〉


NA)

それから数日後。


茂男)「ふぅ。久し振りに飲みに行こうかな…」


NA)

サラリーマン時代に覚えた酒。

もうずっと飲んでいなかった。


ト書き〈いつもの飲み屋街〉


NA)

夕方、仕事を適当に終えた俺はいつもの飲み屋街に来た。


茂男)「あれ?こんな所にバーなんてあったっけ?」


NA)

全く見た事の無いバー「Partner in Mind」。

お洒落な感じのカクテルバーだ。


茂男)「ふぅん。新装かな。まぁいいや、入ってみよ」


NA)

中は落ち着いていた。

カウンターに座り、俺は1人で飲んでいた。

すると…


保子)「こんばんは。ご一緒してもイイかしら?」


NA)

1人の女性が声を掛けて来た。

結構な美人。

でも何となく不思議な感じ。

昔から知っていた人のような、そんな感じが漂うのである。


茂男)「あ、どうぞ…」


保子)「どうも♪じゃ、失礼して」


NA)

お互い軽く自己紹介。

彼女の名前は中尾保子。

見た感じ、俺と同じ40代?

「孤独を癒すヒーラー・ライフコーチ」をしてると言う。

俺は話し相手が欲しかったから、彼女といろいろ喋った。

その延長で、つい日頃の悩みなんかも打ち明けていた。


保子)「そうだったんですか」


茂男)「ええ。お恥ずかしいですけど、この歳になってまだ独身で、周りの連中はみんな結婚して自分の家庭や子供を持っていると言うのに。私だけずっと変らず、10代のガキみたいに『孤独だ、孤独だ』なんて嘆いてるんですよ」


茂男)「全くおかしいですよね。笑って下さい」


保子)「いいえ。私はずっとそう言った方々の為のライフコーチをしておりますが、そんな感じで孤独の毎日を過ごされている方は結構多いんですよ」


保子)「大体ニュースなんかでもよくやってると思いますが、現代の若者から壮年まで、独身を貫く人・結婚してもすぐ離婚する人・晩婚の人・熟年離婚する人…なんか結構多いでしょう?だから結婚して幸せそうに見える人の傍らで、そういった孤独に打ちひしがれている人も確かにいるものなんです」


茂男)「ま、まぁそう言われれば」


茂男)「でも僕は、もうこんな孤独の毎日は正直、嫌なんです!出来れば一生を添い遂げられる人、そんな人が今すぐ現れて欲しいって思ってるんです」


NA)

俺には下心があった。

あわよくば、今目の前にいる保子と交際してみたかったのだ。

自分の理想の相手に成ってくれはしないかと、心の奥で願ってしまった。

すると…


保子)「…分かりました。それではあなたの理想を叶えて差し上げます」


NA)

そう言って彼女は1枚のメモ用紙を差し出した。

そこにはネットアドレスのようなものが書いてある。


茂男)「こ…これは?」


保子)「ご自宅のパソコンから、ぜひ1度そこへアクセスしてみて下さい。それは『王宮チャット』と呼ばれるチャットルームのアドレスです。ハマればきっとご満足されると思いますよ。利用料は永久無料なのでご安心下さい」


茂男)「チ…チャットルーム?」


保子)「ええ。ですが唯のチャットルームじゃありません。あなたが話したい時、相手の顔を見たいって思った時にいつでも利用できる24時間制のチャットルームなんです。今のあなたに打って付けのサイトだと思いますよ?」


茂男)「…チャットルームかぁ」


NA)

少し拍子抜けした。

でも試してみようと思った。


茂男)「わ、わかりました!では1度利用してみます」


保子)「お役に立てて何よりです♪ですが、お1つだけ約束して下さい」


茂男)「え?」


保子)「そのチャットルームで巡り合えるお相手はどなたも素晴らしい魅力の持ち主です。きっと利用して行く内にあなたのハートを射止めるようになり、あなたはそんな相手に思わず会いたくなってしまう事があるでしょう」


保子)「ですが、絶対に会わないようにして下さい。もしチャットと言う一線を越えてその相手に会ってしまえば、今の生活を失います。いいですね?」


茂男)「あ、はぁ…」


NA)

少し怖い事を言う。

でもこの時俺は、彼女の言う事を軽く受け止めた。

そんな事あるワケないし、チャットを利用してしまえばもうコッチのもの。

プライベートまでグチグチ言われる覚えは無い。

チャットサービスは全額無料。

俺は気分を良くし、その後少し談笑して店を出た。


ト書き〈自宅〉


NA)

その夜、早速、利用開始。


茂男)「(ゴク…)」(唾を呑む音)


ソラン)「あ…初めまして」


茂男)「わっ…あ、初めまして!」


NA)

サイトからルームへ案内されて約5分。

ここでは入力した基本情報に合わせ、「理想の相手」を見付けてくれる。

俺の目の前に現れたのは、「ソラン」というとびっきりの美人。

「ソラン」はハンドルネーム。

その日から俺は彼女と毎日チャットし続けた。


ト書き〈数週間後〉


茂男)「はぁ…ソランちゃん。なんて可愛い子だろう…」


NA)

俺の孤独は癒された。

「この世の女なんか!」

なんて愚痴を吐いていた自分が恥ずかしい。

俺は彼女にすっかり魅了された。

ソランと一緒に話す時間、これが何より幸福の時間。

ソランと俺は相思相愛。

まさに相性ピッタリだ!


ト書き〈落ち合う約束〉


NA)

そんな日々が続いていた時…


茂男)「ああ、もう会話するだけじゃ我慢できない!ねぇソラン、会わないか?2人きりでどっかへ行かないか!?君とどうしても会いたいんだ!!」


ソラン)「…ええ、ぜひ!本当は、あなたからそう言われるのを待ってたの」


NA)

なんと2つ返事でOK。

俺はもう有頂天!

更に彼女はメッセージを送ってくれた。

待ち合わせする場所。


茂男)「この場所へ行けばいいんだね?」


ソラン)「ええその建物の中に、あたしいますから」


NA)

都内にあるパンションだった。


茂男)「わかった!絶対行くから♪待っててね」


ソラン)「ええ♪」


ト書き〈翌日〉


NA)

そして翌日。

俺はすぐパンションへ行った。


ト書き〈パンション前に到着〉


茂男)「へぇ…こんなトコあったんだ…」


NA)

まるで初めて見るような、かなり大きな建物。


茂男)「…ホントにこんな所に彼女、いるのかなぁ」


NA)

そう思った時、携帯が鳴った。


茂男)「あ、ソラン?俺、今着いたんだけど」


ソラン)「待ってたわ♪見える?ここよ!」


茂男)「え?」


NA)

俺はパンションの上階を見上げた。

すると4階辺りから、ソランらしき女性が身を乗り出して手を振っていた。


茂男)「あ、見えた見えた!そこにいるんだね!」


ソラン)「ええ、来て♪『王宮チャット』利用者なら誰でも入れるわ♪」


NA)

彼女の姿を見て安心した俺は、すぐ飛び込んだ。

しかし…!


ト書き〈パンションの中〉


茂男)「え…」


NA)

大きなドアを開けて入った瞬間、真っ暗闇。

同時に背後で「バタン!」とドアが閉まった。

全く開かない!


茂男)「え、ちょ…これ一体どうなって…?」


NA)

焦る俺の目の前に、1本の光の道が現れた。

周りは暗闇。

その道を歩いて行くしかない。

すると、俺の名前が掲げられた部屋に辿り着いた。


茂男)「な…なんでこんなトコに俺の名前が…」


NA)

その部屋はチャットルーム用の個室。

そこに入った途端、またドアがバタンと閉まる。

そして2度と開かない。


茂男)「ちょ…ちょっと!開けてくれよォ!なんだよぉ!開けろよぉ!おいソラン!お前今どこにいんだよォ!なんだよココォ!?出せぇええぇえ!」


ト書き〈パンションを眺めながら〉


保子)「あれだけ会うなと言ったのに。私の忠告を軽く見たあなたが悪いのよ。私は茂男の『孤独から脱出したい』『誰でもいいから話し相手が欲しい』と言う孤独の心から生まれた生霊。彼のその夢と理想を叶える為だけに現れた」


保子)「そのパンションの一室はね、ずっと孤独に苛まれた人間の心の中に通じているの。だからホラ、現実には誰の目にも見えないパンションなのよ」(パンションがうっすら消えていく)


保子)「これであなたもチャットルームの住人と成り、世界の淋し気な男女…特に孤独な女性のお話相手『会話屋さん』に成ってあげる事が出来るわね」


保子)「あなたとずっとお話していた、ハンドルネーム『ソラン』を使っていた女性の本名は静原香苗。彼女もあなたと同じく40代で、天涯孤独の身ながら誰も話し相手がおらず友達も無く、その孤独に苛まれ続けて来た女性なの」


保子)「あなたの為に彼女をそのパンションへ案内し、引き合わせてあげた。そのチャットルームの住人同士が部屋を抜け出して、実際に会う事は絶対に無い。心同士のコミュニケーション、それを推奨しているパンションだもの」


保子)「その内あなたにとって、その部屋は安らぎの空間になる。そうすればその暗闇の中でも、あなたはずっとソランと仲良く会話し続けていられる」


ト書き〈パンション前から立ち去ろうとする保子〉


保子)「さて、また別の人を探しに行かないと。このパンションは新築だから今はソランと茂男の2人だけ。ここのサイトを紹介して彼らにチャット相手になって貰い、沢山の仲間を誘えるようにしてあげる。まぁ孤独な人は世間に多いでしょうから、あっと言う間に満室になるかも知れないけれど(笑)」


保子)「これを観ているアナタ。アナタも1度、このパンションに入ってみる?1度入ればもう2度と出る事は出来ないけれど、どんなに怖い場所に見えたって『住めば都』…その内きっと心休まる安住の地になってくれる筈よ」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=ZCX1Hm4vDN8&t=74s

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