介護福祉士の悲哀と結末!…過失で死なせてしまった利用者からのメッセージ

天川裕司

介護福祉士の悲哀と結末!…過失で死なせてしまった利用者からのメッセージ

タイトル:(仮)介護福祉士の悲哀と結末!…過失で死なせてしまった利用者からのメッセージ


1行要約:

業務上過失で利用者を死なせた介護福祉士の神秘的なエピソード


▼登場人物

●甲斐フク子:女性。27歳。介護福祉士。性格は真面目。やや神経質。過失で利用者を死なせてしまう。

●山神登美子(やまがみとみこ):女性。享年90歳。利用者。誤嚥性肺炎で亡くなる。

●岸上房江(きしがみふさえ):女性。享年90歳。利用者。登美子が死亡して75日後に、同じく誤嚥性肺炎にて亡くなっている。霊としてフク子の前に現れる。

●好井益代(すくいますよ):女性。30代。フク子の後悔の念と悔い改めの心から生まれた生霊。フク子に助言する。

●先輩職員:男女含む不特定多数のイメージで。フク子が働いている職場の先輩職員。

●トシミ:女性。60歳。登美子の娘。

●並河:女性。30歳。B特別養護老人ホームの職員。


▼場所設定

●A特別養護老人ホーム:フク子が働いている。ユニット型。一般的なイメージで。

●B特別養護老人ホーム:A特別養護老人ホームからかなり離れた郊外にある。従来型(病院型)の老人ホーム。ここに岸上房江が入所。

●喫茶「出逢い」:お洒落な喫茶店のイメージで。

●C墓地:登美子が埋葬されている。


NAは甲斐フク子でよろしくお願いいたします。



オープニング~


エクソちゃん:ねぇデビルくん、デビルくんって介護の世界の事詳しい?

デビルくん:介護だって?ああ、特別養護老人ホームとかグループホームとか言う、あの業界の事か?うーん、あんまり知らねぇな。

エクソちゃん:だろうね。現在の日本じゃ高齢化社会が益々進んでいるからさ、この介護福祉士の業界もかなり大変になって来てるみたいなのよ。

デビルくん:ほう。

エクソちゃん:今回のお話はね、そんなとある介護福祉士にまつわるホラー…と言うか、神秘的なエピソードなんだ。

エクソちゃん:介護の世界も毎日かなり忙しくて大変で、1歩間違えばすぐ過失で利用者が亡くなるって事もあるの。今回の主人公の女性・甲斐フク子さんもそんな悲劇に見舞われて、その後、かなり落ち込んじゃうんだけど、或る女性と出会った事で不思議な世界に埋没していくのよ。

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4312字)


NA)

私は甲斐フク子(27歳)。

介護関連の専門学校を卒業し、介護福祉士として働いている。

今年で2年目。

毎日仕事に追われていた。


ト書き〈A特別養護老人ホームの紹介〉


NA)

私の職場はユニット型の特別養護老人ホーム。


先輩職員)「甲斐さん、そっちの掃除が終わったらすぐ入浴介助に行って!」


フク子)「はい!」


先輩職員)「甲斐さん!移乗が終わったら、すぐ食事介助に入ってちょうだい」


フク子)「はい!」


先輩職員)「今月から夜勤業務、しっかり頼むよ」


フク子)「はい」


NA)

介護の仕事は大変だ。

1日の仕事を終えればヘトヘトになる。


ト書き〈登美子の居室にて〉


フク子)「登美子さーん、お夕食の時間ですよ~」


NA)

この女性は山神登美子さん(90歳)。

もうこの施設を利用して9年目。


ト書き〈登美子をベッドから車椅子に移乗させる〉


フク子)「よしっと♪じゃ行きましょうか」


NA)

私は登美子さんをベッドから車椅子に移乗させ、食堂へ向かった。


ト書き〈登美子がむせる〉


フク子)「登美子さん、大丈夫ですか?」


NA)

この日、登美子さんはひどくむせた。

登美子さんの食事形態は刻み食。

食事形態には、普通食、刻み食、ペースト食、流動食がある。

刻み食を食べられる利用者は、咀嚼・嚥下状態はまだ良好なほう。

でも利用者の状態は1分1秒で変わる。

私はこの時、登美子さんの状態を把握できていなかった。

登美子さんは既に、刻み食を飲み込めない状態になっていた。


ト書き〈フク子の心の中〉


登美子)「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」


フク子)「(なんだか今日はひどいなぁ…大丈夫かな…)」


ト書き〈過失発生〉


フク子)「(え…?と、登美子さん…?)」


NA)

むせ込みがひどいので、一旦スプーンをテーブルに置こうとした時だった。

急に登美子さんの顔色が真っ青になった。

そして、首をカクンと下に垂れたのだ。


フク子)「(え…え…?)」


NA)

誤嚥性肺炎…?

そう直感した時、私は途端に怖くなった。

そして思わず登美子さんから離れ、別の利用者の介護に付いてしまった。


ト書き〈先輩職員が気付く〉


先輩職員)「ちょっと…登美子さん?!ダメ!すぐ看護師を呼んで!」


NA)

私は恐怖した。

私の過失!しかもその場から逃げてやり過ごそうとした。

先輩職員が登美子さんの異変に気付き、すぐ看護師とドクターを呼んだ。


ト書き〈登美子の死亡〉


NA)

その日の夜、登美子さんの死亡が確認された。

死因は誤嚥性肺炎。


ト書き〈警察から事情聴取〉


NA)

私は日勤だったが、深夜まで施設に残った。

警察がすぐに来て、私は事情聴取を受ける。

その結果、事故死と判定された。

私はここでも又、事故の経過を都合の良いように伝えた。

登美子さんは、自分が介護している時は唯むせているだけだった。

自分が登美子さんの元を離れた後、誤嚥性肺炎を発症した。

つまり利用者の急変という事にし、自分の過失を隠蔽した。


ト書き〈数日後〉


NA)

それから私は施設長と共に、登美子さんの実家へ行った。

遺族に事の経過を伝え、平謝りで謝罪した。

家族は立腹し、その悔しさを私に投げ掛けた。

当然の事。

しかし最後には許してくれた。


トシミ)「…でも、甲斐さん。これで辞めるなんて言わずに、今回の事を無駄にせず、他の利用者の為にしっかり働いて下さい…」


フク子)「…ほ、本当に、大変申し訳ございませんでした…」


NA)

私の心はどん底だった。

法も遺族も許してくれた。

しかし私は登美子さんを見捨てて逃げたのだ。

この罪は絶対に許されない。

例え刑に服しても、私の罪は永遠に消えない。


ト書き〈喫茶「出逢い」〉


NA)

それから数か月後。

私はずっと心に重荷を抱え、取り敢えず介護福祉士を続けていた。

或る日、最寄りの喫茶店で1人落ち込んでいた時…


フク子)「はぁ…。やっぱり私、介護辞めようかな。こんな私が介護なんかしてちゃいけない。また第2第3の犠牲者が出てしまう…。はぁ…」


NA)

この数か月の内、辞めようとした事は何度もあった。

心が重い。ずっと溜息の連続だ。


益代)「済みません、ここいいですか?」


フク子)「え…?」


NA)

いきなり女性が声を掛けて来た。

見るとキャリアウーマン風の美人。


フク子)「あ、はい…」


益代)「有難う」


NA)

他に席は幾つも空いている。

それなのに相席なんて…と私は少し妙に思った。


益代)「大丈夫ですか?凄く落ち込んでいるようですけど」


フク子)「え?」


NA)

また唐突に訊いて来る。

確かに酷い落胆から、悩みを誰かに聴いて欲しい思いはあった。


益代)「もし良ければ、あなたのお悩み、聞かせて頂けませんか?」


フク子)「…あの失礼ですが、あなたはどう言う…?」


益代)「ごめんなさい。私こういうお仕事をしています」


フク子)「…『お悩み解決!スマートコンサルタント』…好井益代…」


益代)「私は心の奥に抱えている悩み、誰にも言えない悩み、言っても解決できない悩みを全てお引き受けして、悩み解決の為のご支援をしております」


益代)「お見受けした所、あなたは大変な悩みを抱えてらっしゃるようですね?長年この仕事をしているので分かるんですが、きっとこのまま行けばあなた、その悩みのせいで今のお仕事を辞めてしまう事になるでしょう」


益代)「いかがですか?」


フク子)「で、でも料金、掛かるんですよね?」


益代)「フフ、無料で結構です」


NA)

不思議な女性だった。

気付けば私は悩みの全てを打ち明けていた。


益代)「なるほど。例え法や遺族が許しても、自分の罪は消えない、利用者本人に許して貰わなければ、自分は決して許されない。かと言って罪を告白する勇気も無い。その葛藤で疲れ果てている…そんな状態なんですね」


フク子)「はぁ…。でもそんな事、解決できる筈ないですよね」


益代)「わかりました。あなたのお悩み、解決して差し上げましょう」


フク子)「…え?」


益代)「この場所へ行きなさい」


NA)

そう言って益代は1枚のメモ用紙を差し出した。


フク子)「こ…これは?」


益代)「登美子さんが今眠っているお墓です。そこへこれから毎日行って、心の中の正直を墓前に告白するのです。そして謝り続けなさい。そうすれば、きっとあなたの悩みは解決するでしょう」


フク子)「ど、どうして登美子さんの名前を…?!」


NA)

施設入所者の名前は口外できない。

職務規定違反になるからだ。

でもこの女性は登美子さんの名前を知っていた。

私はこの時「登美子」という名を一言も言っていない。

「どうして?」ともう1度訊く前に、益代は席を立った。

そして私に微笑んだ後、益代は颯爽と店を出て行った。

何から何まで謎の女性。

でも私は失意のどん底から救われたい為、益代の言う通りにした。


ト書き〈C墓地〉


フク子)「あ…本当だ…。あった…」


NA)

言われたC墓地に来て見ると、登美子さんのお墓があった。

私は墓前にしゃがみ込み、心の正直を全て吐露した。

それから何日もC墓地へ来た。その間、ずっと謝罪し続けていた。


ト書き〈C墓地に岸上房江登場〉


NA)

それから数か月後。

私がいつものようにC墓地に来て、登美子さんの墓前にいた時。

ふと車椅子に乗ったお婆さんが1人、私の近くへやって来た。


房江)「誰か、古い知り合いかえ?」


NA)

そのお婆さんはそう言った。

車椅子のアームレストを見ると、「岸上房江」と名前が記されている。


フク子)「(どこかの施設の入所者かなぁ…)」


NA)

C墓地から最寄りの高齢者施設に、B特別養護老人ホームがある。

きっとそこに入所している人なんだろうと思った。


フク子)「…お名前、岸上房江さん、って言われるんですね?」


房江)「ほう、ようわかるなぁ」


フク子)「あの、そこに…」


NA)

私は車椅子を指さした。


房江)「そうかそうか、なるほどのぉ」


NA)

気さくなお婆ちゃんだ。

でもこの時、少し不思議だった。

見たところ房江さんはかなりの高齢。

多分90歳は越えている。

もし利用者なら、必ず付き添い職員がいる筈だ。

でもそんな人はどこにもいない。


フク子)「あの、房江さん。どなたかと一緒にここへ来られてるんですか?施設の職員の方とか?」


NA)

質問したが、それには答えなかった。

そして…


ト書き〈登美子が乗り移ったように喋り出す〉


房江)「ふぉっふぉ。お前さんもかなり悩んだようじゃの。そう、誤嚥性肺炎てのは結構辛いもんじゃ。なってみて初めて判るんじゃのぉ、ああいうのは」


フク子)「…え?」


房江)「いや、ワシもちょっと前にそれになった事があってな。そりゃ苦しかったもんじゃ。なにせ息も出来んのじゃから」


房江)「…でも、そのとき利用者を死なせてしもうた介護者も、人によってはかなり心で苦しむんじゃろうて。お前さんもきっとそのクチじゃな。ちょっと前に、そう言う事があったんじゃろ。顔に書いとるよ」


房江)「もう自分を責める事もないじゃろ。その分、他人に親切にしてやりゃええ…」


NA)

そう言った途端、房江さんはフッと消えた。


フク子)「え…房江さん…?房江さん?!」


NA)

私は訳が解らなかった。

同時に少し恐怖も覚えた。

でも私の心はこの時、幾分か救われた気がした。

私は途端に、房江さんの事がもっと知りたくなった。

そしてB特別養護老人ホームへ向かう。

改めて思い返すと、房江さんが乗っていた車椅子に「B特別養護老人ホーム」のネームがあったのを思い出したからだ。


ト書き〈B特別養護老人ホーム〉


NA)

B特別養護老人ホームには研修で何度か来た事がある。

私を覚えててくれた並河さんに、岸上房江さんの事を訊いてみた。


並河)「…岸上さんね、実は2か月半前に、亡くなったのよ」


フク子)「え…?」


並河)「誤嚥性肺炎でね、そのまま搬送先の病院で」


NA)

ついさっき私はその岸上房江さんに会った。

その事を伝えても、「そんな筈ない」と信じてくれない。

房江さんは、登美子さんが亡くなってから75日後に亡くなっていた。


ト書き〈C墓地でお墓参りをするフク子を眺めながら〉


益代)「人の噂も75日…。あれだけ心を痛めて反省し続けたフク子は、もうそろそろ罪の赦しを自分に感じていい頃。次のステップへ進む為に。私はフク子の後悔の念と悔い改めの心から生まれた生霊。フク子の心を救う為と、登美子のあの時の思いを伝える為に現れた」


益代)「登美子が亡くなったその後に、岸上房江も同じ誤嚥性肺炎で亡くなっていた。私は登美子の心を房江の体に憑依させ、霊界から引き戻した」


益代)「これでフク子はもう少し、介護福祉士を続けて行けるでしょう。その間、登美子にしてあげられなかった誠心誠意の介護を、他の利用者にしてあげられる。そうする事で今より少しは又、フク子の気持ちも癒される」


益代)「きっとフク子は今、登美子に直接許された希望を持っているわね。それをバネに今後、しっかり働いて行ければいいのだけれど」



エンディング~


デビルくん:フーム。介護中に逃げたってのは、いただけねぇな。

エクソちゃん:まぁね。でもこう言う事ってさ、実際そういう状況になってしまえば、結構沢山の人が同じような行動取るんじゃないかな。ホラ、業務上過失で検挙されてる人って、テレビでも連日報道されてるじゃない。

デビルくん:連日って程じゃねぇけどな。

エクソちゃん:経過はどうあれ「自分のせいで人を死なせた」って罪の意識があれば、大抵の人はその後の人生ずっと苦しむ事でしょう。そんな時、やっぱ今回登場した益代さんみたいな存在がいてくれると心強いよね。

デビルくん:益代ってのは、フク子の心から生まれた生霊だったのか?

エクソちゃん:そんな感じね。悔い改めの心がかなり強くなって、その心を救う為に現れたのよ。

エクソちゃん:でも「登美子さん本人に許された」って信じるフク子だけど、もしかすると今回の話、全部フク子の妄想の世界の出来事かも知れないわね。

デビルくん:どう言うこった?

エクソちゃん:つまり、大変な事件を起こしちゃった人ってのは、こういう風に自分の心に整理を付けて、その後の人生を生きる為のステップにしてるんじゃないかって事。

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=GbuPCa-EfMM&t=183s

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

介護福祉士の悲哀と結末!…過失で死なせてしまった利用者からのメッセージ 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ