ユキ
千織
岬で出会った女
健作は
村長がよ、あの岬さ差し掛がっだどぎに、小便さ行きでって言って、林の中さ入って行ったど。
残っだ健作はぁ、岬から海を見でらっだのよ。
死んだ父ちゃ母ちゃは海さいるんだべが。
それども雲の上さいるんだべが。
そっだらごどを考えでらっだんだぁ。
ふと後ろに、肌っこが白くて髪の長い女がいるごどに気づいだんだ。
村には
「おらさ何が用が?」
健作が話しかげっど、
「この岬さ何しさ来た?」
と女が言っだがら、
「
と、健作は答えだんだ。
「今日は峠さ
「
「峠さは行ぐな」
女がそれしか言わねがら、健作が困ってらば、村長ば来た。
村長を見だらば、そのうぢに女は消えでらっだど。
「今、女がいで、峠さは行ぐなって言っでらけど、
と、健作が言ったらば、
「
と、村長は歩き出したんだど。
♦︎♦︎♦︎
健作は本を借りで、村長は用を足したんだけんども、思ってだより遅くなっだのよ。
急に雲が出でな、木々の陰もあっで、峠はあっどいう間に暗ぐなっだのさぁ。
二人は恐々歩いてらったっけ、そこに山賊が出だのさぁ。
あぁ、
健作が気づくと、薄暗い小屋さいだっだのさぁ。
岬で会った女がそばさいで、手当をして寝がせでくれでだのす。
「
「名めば
「
「
健作ば足の怪我が治るまで小屋さいで、村さ帰ることにしたど。
「ユキ、おらの村さ来ねが。女一人で心細がべ。村で暮らすべ」
「健作ばついて
「夫がいるのが。いづ帰ぇって来るのじゃ」
「
「
健作はユキを説得しでな、村さ連れでったのよ。
村人はさぁ、ユキの見目の良ささ驚いで、健作が嫁っこ連れで来だって思っだのさぁ。
ユキは働ぎ者でさぁ、朝は早ぐ起ぎで、夜は遅ぐまで針仕事しで。
健作はユキの寝顔ば見だこど
「ユキ、たまにはよぉ、早ぐ寝ねば体
「いいのす。眠ぐなっだら寝ら。健作ば気にすな」
いづもそんなごど言っでらのじゃ。
したっけば、ある日の夜、ふと健作が目ぇ覚ますと、ユキが家を出るどごだったじゃ。
健作が追っかげで外さ出るど、そごに大男がいだのじゃ。
目はギョロっとして鼻は大きぐ、髪はぼさぼさで、背丈は家の天井さ届き
蓑を着で、雪の中を歩ぐとぎの雪沓
その大男の前にユキが立ってでよ、
「健作、おら帰らねばね」
と言っだのす。
健作は怖ぐで声が出ねがっだのす。
「今年は雪がわんさか降るがらよ、気ぃつけでや」
ユキはそう言っで、大男と消えで言ったのさぁ。
その年の冬、はぁ雪が
春になっで、健作はたびたび岬さ行ったけども、ついにユキとは会えながっだんだど。
村の外さ行っで会っだ女さば気をつけるんだぁ。
女らは山男の妻なのす。
村の女が時々消えるのは、山男が連れ去っだのだがらよ。
ユキ 千織 @katokaikou
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