異世界思索交錯

セユ

諦念

ある日、理不尽というものが嫌いだということに気づいた。


理不尽というものの後味の悪さに気づいたのはいつ頃だっただろう。

確かニュースだったと思う。何の非もない人が殺された。そんな、良くあるニュースだった。普通の人が聞いて、いい気分にはならないだろうが、ずっと印象に残る様な事もない、ありきたりなニュース。自分も今までに何度も聞いてきて、その度にあぁ、可哀想だなと軽く流してきた、そんなニュース。

自分がその何度目に聞くかも分からないニュースを聞いた時、何故か、死人とは無関係なのにも関わらず、今まで経験した事がないほどに胸が痛んだ。どうしようもなくやるせない気持ちが広がった。

この世は理不尽だらけ。

そんなものみんな知っている。

自分もずっと分かっていたつもりだった。

でも、その時から、どうしても受け入れられなくなった。

分かると受け入れられるは別問題だ。

頭では分かっていても、心がどうしても否定するんだ。何度もそういうものだと自分に言い聞かせて、割り切ろうとした。でも、割り切れなかった。


初めて、自分は自分が生きている世界に不審感を抱いた。


不審感を抱いてから、自分はひたすらに考えた。

何故理不尽が起きるのか?

そこから広がり遂には、どうすれば世界は平和になるのかとすら考え始めた。


全ての人が幸福を望んでいる。


自分以外の人の考えなんて分かるわけもない。

だが、それだけは真であってほしいと願った。

そうでなければ、全ての人の幸せを作ろうとするという行為自体が、誰かの望み、言い換えれば幸福を壊すことに他ならなくなってしまうのだから。


そして、ずっと考えて、自分はあるひとつの結論を出した。



平和なんてものは夢物語である。と。



諦めてしまえば良かったんだ。

いざ諦めてみれば、世界が随分単純に見えたような気がした。

誰もが自分だけの為に生きている。たったそれだけのことだった。

そして、そう見えた今なら分かった。


平和なんて出来るはずも無かったんだと。


誰かの幸は誰かの不幸だった。世界は嫌なほど幸と不幸の帳尻が合っていた。皆が幸福を求めて行動すれば、幸福の取り合いに決まっていた。他人を不幸にすることで、自分が幸福になる。そんな単純な世界のシステムだった。



大分笑えた。自分はこんな救いようもない世界で、ひたすらもがいていたのだという事実に。

生きる意味など、そんな事に気づいてしまえば、考えられなかった。


世界平和なんてものは、物語の中で勝手に語られていればいい。


故に、自分は自死を選んだ。綺麗な花に包まれながら眠りたいと昔は思っていたが、今では全てがどうでも良かった。近所の店で縄を買い、首を吊り、世界と自分はおさらばした。



○○ ○ 享年28 首吊りによる自殺。



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