明日の月も君と見れたら

菜乃花 月

明日の月も君と見れたら

『明日の月も君と見れたら』


【登場人物】

A:性別不問。Bとは十年以上の付き合い。Bに無断訪問されてた

B:性別不問。Aとは十年以上の付き合い。サプライズでAの家に行ってた


約10分の日常会話。一人称や語尾、性別変更可。

声劇で演じる場合は演者の名前を呼んでもいいし、アドリブで実際あったことを話すのもあり


――ここから本編――


B:「もしもし聞こえてる?」


A:「聞こえてるよ」


B:「よかった」


A:「なんか声聞くの久しぶりな気がする」


B:「最後に電話したのいつか知ってる?」


A:「知らない。いつ?」


B:「半年前」


A:「うわ、そんなに前だっけ・・・。私と話せなくて寂しかった?」


B:「寂しかった」


A:「え」


B:「なに」


A:「いや、なんかそう素直に言われるとは思わなかった。だって毎日やり取りしてるじゃん」


B:「文字だけね」


A:「確かに」


B:「・・・本当は声だけじゃなくて、顔を見て直接話したいんだけどな」


A:「・・・そうだね。でも今はできないでしょ」


B:「前はすぐに会いに行けたのに」


A:「あぁ、いつもの無断訪問?」


B:「はぁ?!サプライズだし」


A:「サプライズは頻繁にするものじゃないよ。というか来るなら一言連絡ちょうだいって言ってたよね」


B:「教えたらサプライズの意味ないじゃん」


A:「雨の中、私ん家の前で震えながら待ってたのは誰だったかな」


B:「あれはお前のシフトが急に変わったからだろ!」


A:「私だってびっくりしたわよ。仕事から帰ってきたら死にそうな顔であなたがいるんだもん。家にいない時点で帰ればよかったのにさ」


B:「・・・会いたかったんだからしょうがないじゃん」


A:「結局熱出して私のベッドですぐ寝たくせに」


B:「うっ・・・。あの時はお世話になりました」


A:「ほんとよ。でも、可愛い寝顔見れたから許してあげる」


B:「え、写真撮ったりした?」


A:「するわけないでしょ。容量の無駄」


B:「そこまで言う?なんか心に小さい棘が刺さった気がする。地味に痛いやつ」


A:「自分で抜いてね」


B:「お前が刺したのに?!」


A:「小さいならすぐ取れるでしょ」


B:「いやいや、小さいからこそ取りにくいんだよ」


A:「がんばれーがんばれー」


B:「すごい棒読みじゃん」


A:「気持ち込めてるよ」


B:「嘘つけ」


A:「ほんとほんと」


B:「お前たまに雑だよね」


A:「全部真面目に答えてたら疲れちゃうでしょ」


B:「んー。まーそうか」


A:「あと、単純に人と話さなくなって、どうやって会話してたか忘れた」


B:「あーやり取りは文字ばっかだからな」


A:「そうそう。あんたもさっき言ってたけどさ、文字でやり取りするのと声で話すのは全然違うじゃん?前は人と会話するのちょっとだるいとか思ってたけど、話さなくなると忘れるんだよね。会話のテンポも、声の出し方も、他人の声も全部」


B:「俺の声も?」


A:「正直忘れてた」


B:「ひっど」


A:「じゃあ私の声覚えてた?」


B:「もちろん」


A:「どうだか」


B:「あーでも、通話と実際に会ってる時だとちょっと違うなとは思う」


A:「どう違うの」


B:「会ってるときの方がクリアに聞こえる」


A:「ふーん」


B:「通話はちょっとこもってる」


A:「イヤホンの問題じゃない」


B:「かもね」


~なんとなく会話が途切れる~


A:「せっかく作ったのにね」


B:「え?」


A:「合鍵」


B:「あぁ」


A:「遅く帰ってきても、あんたがご飯作って待ってるとか期待してたのにな」


B:「キッチン荒らして終わってるかもよ」


A:「うわ、最低。そんなことされたら合鍵奪い取って追い出すわ」


B:「厳しいな」


A:「だって仕事で疲れてんのにご飯はない、けどキッチンが大惨事なんて考えたくない」


B:「確かに。・・・本当はもっと使う予定だったんだけどな~」


A:「これから使うでしょ」


B:「うん・・・。落ち着いたら使いまくってやる」


A:「荒らすのはやめてよ」


B:「わかってるよ」


A:「あとなんか変なもの仕込むのもやめてね」


B:「例えば?」


A:「ヘビのおもちゃとかスライムとか」


B:「俺のこと小学生だと思ってる?」


A:「あんたならやりかねないかなって」


B:「さすがにしないよ」


A:「どうだか」


B:「・・・」


A:「・・・」


B:「ねぇ」


A:「なに」


B:「そっちは月って見える?」


A:「急に何?」


B:「なんとなく」


A:「月?えーわかんない。ちょっと待ってね。

・・・あー今は雲で隠れてるかな」


B:「そっか。こっちは見えてるよ」


A:「ふーん。どうしたの急に」


B:「だからなんとなくだよ。なんとなく見たいなって思ったから」


A:「満月?」


B:「それは自分の目で確認しなよ」


A:「えー、だって見えないもん」


B:「待ってたら見えるよきっと」


A:「・・・そうだね」


B:「・・・久しぶりに空なんて見たわ」


A:「わかる。星もちょっとしか見えないけど、久しぶりに見た気がする」


B:「学校帰りとかで「一番星!」って指さしてたのが懐かしい」


A:「やってた~。なんか見つけると嬉しいんだよね」


B:「そうそう。ちょっといい気分で帰れるんだよ」


A:「わかる~。でも今は家から出ないから空なんて見なくなったなぁ」


B:「ほんとに。暗くなったらカーテン閉めるだけで終わる」


A:「変わったよね。色々と」


B:「当たり前じゃなかったことが当たり前になったからな。ちょっと前では考えられなかった」


A:「あんたの無断訪問がなくなるなんて思わなかったもん」


B:「だから無断訪問じゃなくてサプライズって言ってんじゃん」


A:「いいや、あれは無断訪問だね」


B:「そう言いながら俺に会えなくて寂しいんでしょ」


A:「別に」


B:「うわひっど。俺は寂しいのにな」


A:「今日はやけに素直だね」


B:「・・・ずっと家に一人でいるとさ、誰とも話さないで一日が終わるのが結構怖いんだ。なんて言うか、自分が生きてることを証明できない気がして不安になる」


A:「・・・」


B:「今日はなんか・・・誰かの声を聴いて証明したかったんだ。だから一番上にいたお前に電話をかけた」


A:「私でよかったの」


B:「うん。お前の声聴いたらすごく安心したよ」


A:「嬉しいこと言ってくれるじゃん」


B:「伝えられるうちに伝えたいだけだよ。いつ当たり前が変わるかわからないからさ」


A:「かっこつけるねぇ」


B:「うるせぇ。・・・あと、俺の声を忘れてほしくない」


A:「へぇ、可愛いこと言うじゃん」


B:「かっこよくもあり、可愛くもある俺最強だろ?」


A:「どうだか」


B:「てか、十年以上付き合いがあるやつに忘れられるって普通に悲しいよ」


A:「そう?私は別にいいけど」


B:「お前なぁ」


A:「・・・あっ、月見えた」


B:「満月?」


A:「ううん、満月でも三日月でもない中途半端な形。カレーパンみたい」


B:「俺もそんな感じ」


A:「おんなじ月を見てるんだね」


B:「そりゃあそうでしょ」


A:「・・・」


B:「・・・」


A:「・・・あーあ、撮っておけばよかったなぁ」


B:「なにを」


A:「あんたの寝顔」


B:「はぁ?」


A:「そしたら忘れないじゃん、あんたのこと。顔見れば声も思い出せるよ。だって十年以上聞いてるんだから」


B:「・・・」


A:「なんやかんや、あんたの無断訪問は日常の一部だったって言ったら驚く?」


B:「日常の一部だったから今はなくて寂しいって言う方が驚く」


A:「寂しいよ」


B:「・・・っ」


A:「次はいつ無断訪問してくれるの」


B:「今言ったらサプライズじゃなくなるって何度言えばわかるんだよ」


A:「ふふ、確かに」


B:「でも、全部落ち着いたら真っ先に行くよ」


A:「うん、待ってるね」


B:「それができるまでは突然電話するわ」


A:「えー」


B:「そしたら忘れないだろ」


A:「んー、でもあんたの声こもってるからなぁ」


B:「お前の声もな」


A:「イヤホンのせいだね」


B:「どうだか」


~二人笑いあう~


B:「・・・もうこんな時間か。そろそろ切るね。今日はありがと」


A:「こちらこそありがと。久々に話せてよかった」


B:「うん、じゃあおやすみ」


A:「おやすみ」




~終わり~

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明日の月も君と見れたら 菜乃花 月 @nanohana18

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