俺のバスケ人生

上野蒼良@作家になる

1つのシュート

 バスケットボールを始めたきっかけは、小学生の時。昔から背だけは、高かったからそれを生かせると思ってだった。特にスポーツとして興味があったわけでも何でもない。その当時は、体験でちょろっとやって母さんに良い顔して少しずつフェードアウトしていくつもりだった。


 俺の母さんは、俺に何でも習い事をさせたがる人だった。近所のママ友の間でうちの子自慢がしたかったのだろう……。自分の自慢の為に俺は、生贄にされたってわけだ。


 でも、母親って言うのは結構めんどくさい。言う事を聞かないと色々言ってくるし……。




 だから、その時はすぐにやめようと思ってた。練習中もなんだか緊張するし……明らかに俺だけ動きが他の人達と違っておかしいし……。なんか、それこそ宇宙から飛来した未確認生物がUFOから出てきた時のニョロっとした感じの鰻だかタコだかよく分からない感じだった。



 当然だ……。だって、俺は今まで運動なんてやった事なかったし。そんな人がいきなり最初に運動なんかしたらへなちょこな動きにもなる。



 でも、不思議と俺はその後……長くバスケットを続ける事になった。どうして……? いや、知らない。強いて言うなら何となくだ。何となくで……半年経ってた。いつの間にかクラブチームの中に初めての友達ができていた。



 俺は、小学校で友達と呼べるような深い関係の人がいなかった。皆、1人に1つずつ親友と呼べる人がいたのに……俺には、いなかった。クラス中が誰かと相思相愛な中、俺だけいなかった。片思いしている女の子は、いたけど……。それがお互いに片思いだとは、気づけなかった。




 練習もある程度ついていけるようになっていた。体力がついて、動けるようになってた。不思議だ。



 でも、時々コーチが怖かった。俺は、本能的にあの人の前で敬語を使ってた。つたない敬語だったけど、俺の中では最上級の敬意を持って接していた。



 いつしか、怒られる事が増えた。そう言う時、こっそりと練習をサボるようになっていた。練習に行く時間を少し遅らせたりした。




 やっぱり、嫌だったのだ。でも、母親の前では良い顔をしないとだから……やめられない。父さんは、正直に話したらきっと、怒鳴り気味に……さっさと止めちまえと言ってくるだろう。




 なんか、そう言われると辞めたくないとか思っちゃう。






 それで、結局……小学校生活も終わりそうになっていた頃、いよいよ練習に全然最初から来なくなっていた俺は、キャプテンから外された。コーチに呼ばれた時……とうとう怒られると思った。身体がビクビクしていたけど、それを必死に隠した。




 必死に隠して……自分を演じてみせた。低学年の頃は、佐藤健みたいな仮面ライダーになるんだと夢見て少しだけお芝居をした事があったから……こういう時、自分は案外隠し事ができてしまう。だから、へっちゃらな感じで……でも少しだけ申し訳なさそうに下でに出てみた。




 怒られなかった。むしろ、コーチには最初からバレていた。俺が、今までちょっと辛かった事。全部だ。それを考慮してあえてキャプテンから外してくれた。




 それを本心と知った時、自然と肩の荷が下りた。初めて自分の中に課せられていた何かが降りて……少し中二病に表現するならリミッター解除した感じだった。





 それから俺は、最後の試合に向けて練習に励んだ。結局負けちゃったけど、なんかその時の試合が凄く楽しくて……結局中学もバスケ部に入った。新しい仲間達と一緒に新しいバスケを始めた。





 小学校の時は、自分の周りでバスケなんてしている人は、誰もいなかったのに……中学では、俺の影響で始めたんだと言ってくれる人がたくさんいて、男からも女からも一時だけモテモテだった。皆、笑って話しかけてくれた時期がほんのちょっぴりありました。




 でも、小学校で所謂陰キャだった自分が突然、モテ期到来した事を気に入らないと感じていた子がクラスにいて……ソイツに最終的にいじめられちゃった。




 俺も調子に乗ってた別の人を知らない間にいじめちゃってたから……所謂、巡りあわせだ。





 でも、この巡りあわせは……ちとやり過ぎな気もした。俺は、ネットいじめにあったんだ。ネットでアカウント偽造されて、なりすまされた。




 女の子にセクハラなメールを送られてたり、不良の先輩に知らないうちに喧嘩売ってたり……全部俺じゃないのに俺のせいになった。




 そこからもう……最悪だ。俺の中学校生活はメチャクチャ……。職員室の問題児1号みたいな不名誉な称号を手にしちまった。




 俺がなりたかったのは、仮面ライダー1号なのに……。





 同じ頃、小学校の頃から好きだった子にもフラれちゃった。人生のどん底は、間違いなくこの頃だったと思う。今なら……そう言える。






 結局、そんな事はあっても俺は、バスケ部に残り続けた。顧問と揉める事もあったし、先輩と仲悪くなる事もあったけど、なんだかんだ最後まで続けた。







 そして、いつの間にか……最後の試合になってた。とうとう、俺達も卒業なんだとよって、昨日話をして、今日最後の試合だ。





 しかも……もう最終Qのラスト1秒切った所だ。








 点差は……まぁ、ぼろ負けか。





 悔しいって、思うのは当然だけど……それ以上にでも、ここまでのバスケ人生が何処か楽しかった。凄く辛かったし……もうやらないって心に誓ってるけど、でも楽しかった。







 ベンチから声が聞こえてくる。アイツら……今になってベンチで応援とかしてくれてるけど、今日が来る前までずっと対して応援もしてなかったくせに。





 でも、終わりよければ全て良しってこう言う事なんだろう。自然と悪い気はしない。






 顧問も立ち上がってる。あれだけ、酷く対立してたのに……最後の最後では、応援してくれるのか……。






 コート上にいるチームメイトも……皆、こっちを真剣に見ていた。





 もう点差は、関係ない。負けは、決まってる。はっきり言って俺がここでシュートを撃とうが撃たまいが勝敗には一切関係ない。DIO様がいたら目の前で「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」って罵ってきそうだ。





 なのに皆、俺が最後のシュートを決めてくれる事に真剣になってくれている。






 ブザービーターか……。こんなに何にもドラマのないラストシュートは流石、現実って感じだ。って、思いっきり罵ってやりたいのにこのシュートが、どうしてだか凄くおもい。






 前に「空想科学読本」で読んだ事がある。「黒子のバスケ」緑間のシュートは、ピアノ3台分の重さを小指1つで持ち上げているってやつ。





 あれに近い感覚って言えばいいのか……。いや、分からんが。でも凄くこの最後のシュートが重たい。まるで、自分のこれまでのバスケ人生の全てを決める一発のような。……正月元旦に書く書初めみたいな感じ……いや、それは少し違うか。







「左手は、添えるだけ……」



 って、シュートを習った時に聞いた事もなかった。むしろ、左利きだから右を添えろとしつこく言われた。




 シュートは、苦手だ。遠ければ遠いほど入らない。だから嫌いだ。期待して欲しくないのに仲間達は、皆こっちを見てくる。















 でも、今日この日の……シュートは綺麗に入ってしまった。訂正したい。自分の今までのバスケ人生の全てを決めるシュートと言ったが、こんな綺麗じゃない。こんな美しくなんか……。











「……終わっちゃった……?」




 その時、自然と心の中が虚しくなった。涙は出なかったのに虚しさでいっぱいになった。色々あった心の中は、一瞬で空っぽで空虚になっていた。







 最後のシュートが会場にいる全ての人にも届いたのか……今ここにいる全ての人達は静まり返っていた。誰も喋らなかった。








 俺の最後の試合は、そうして静かに幕を閉じた。










「……試合見たよ」



 後日、コーチとたまたま会った。俺は……小学校を卒業したのに相変わらず震えている。まだ怖いらしい。






「……ここまでバスケットを続けてくれてありがとう」




 でも、最後にそう言ってくれた時の顔は今まで見たどの顔よりも温かくて気持ちが良かった。






 誰のためでもない。自分の為もかも分からず、続けてきた事が……結果的に評価された。







 そう言う意味では、あのシュートはあれで……良かったんだろうな。














「こちらこそ……ありがとうございました」

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