それぞれの価値観 〜日山(天王山)〜

早里 懐

第1話

春の陽気に誘われた私は近くの海岸沿いを散歩していた。


すると偶然にもONE PIECEを見つけた。


これにより、長年続いていた大海賊時代がついに終結し、世はまさにジェンダーレス時代に突入したのだ。



このような時代背景を考慮すると、現代社会において性別を枕詞とした表現はあまりするべきではない。


しかもSNSがこれだけ普及していると、ちょっとした発言が炎上につながってしまう。


しかし、急登以外は恐れるものがない妻は、世の批判を一身に受けることを承知のうえで、ある日、私に対してこう言い放ったのだ。





「男ってくだらないコレクション好きだよねー」と。




この言葉を聞いた私は妻のアカウントを大炎上させてやると心に決めた。


しかし、SNSらしきものはどうやらやっていない。



よって、どこかの国の大佐のように私の大事な大事なコレクションに対して「まるでゴミのようだ!!」と罵声を浴びせ続ける妻に、本当のゴミとの違いを見せつけてやると心に決めた。


よって、私はゴミを拾うことにした。


そう、山でゴミを拾うことにしたのだ。




今日は息子の部活動の送迎があるため、会場近くの日山に登ることにした。


日山とは福島県二本松市に鎮座する阿武隈山系第二の高峰である。


条件が揃うと遥か遠くに富士山を眺めることができるとのことだ。



私は息子を降ろした後、日山キャンプ場にある茂原登山口から登った。


鳥居をくぐると少しばかり階段を登る。


その後は100mくらい進むと左側の景色が開け阿武隈山系の山々を臨む。


まだほんの少ししか歩いていないが良い景色を拝めるのだ。


とてもコスパが良い山だ。


しばらくはその景色を左手に見ながら山道を歩く。


その後は樹林帯になるため眺望はないが、登山道は変わらず歩きやすい。




突然だが私はポジティブ人間だ。


よって、後ろや下などは基本的に見ない。


常に前と上しか見ないのだ。


山に登っているときも例外ではない。

前と上しか見ない。



そんな私は今日ゴミを拾うため下を見ながら山を登る。



するとあることに気づいた。


しっかりと道になっているなと。

人間が踏み固めたところが道になっているなと。


これは山と人間が紡いできた歴史であると思う。


数十年、数百年という時を経て道ができるのだ。



そういえば以前にアントキの猪木という人がテレビに出ていた。

職業は不明だが、パンツ一枚にバスタオルを首に巻いていた。


奇抜なファッションであったため記憶に残っているのだろう。


うろ覚えではあるがそのアントニオ小猪木は、このようなことを言っていた。


「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となるのダー!!」


私はこの春一番と言う人は素晴らしいことを言うなと思ったのだ。





そのようなことを考えながら下を向いて歩いていると、立て続けに飴の袋、タバコの箱、缶ジュースのプルタブを拾った。


それ以降はゴミはなく、綺麗な登山道だった。



山頂には日山神社がある。

とても神聖で静かな場所だ。


展望台は残念ながら工事中で登れなかった。


その後、山頂付近を散策していると展望岩の案内板を見つけた。


展望岩からは移ケ岳や鎌倉岳などを見ることができた。


しばらくすると雲行きが怪しくなってきたため、チョコバーを食べて下山した。



チョコと言えば私のコレクションをゴミ扱いする妻も実はコレクションをしていたことを思い出した。



それはチョコエッグというものだ。


チョコエッグとはチョコを混ぜ込んだ餌を食べて育った鶏が産む卵のことだと推測する。


その卵からは某ネズミが主役の遊園地に集うキャラクターたちのフィギュアが産まれるのだが、そのフィギュアを集めていたのダー!!


妻も私と一緒ではないか。


コレクションをしているではないか。


その事実を突きつけてやろうと思いながら私は帰宅した。




まず、家に着いた私は今日拾ったゴミを妻に見せた。


これをゴミと言うのだ。

私のコレクションとはかけ離れているものだと伝えた。


しかし、妻の反応は薄かった。



ここで怯むわけにはいかない。


意を決した私は妻に対して言い放った。


チョコレートの卵から産まれた某ネズミを主役とするキャラクターたちのフィギュアをコレクションしているではないかと。



妻は少し考えたのちにこう言った。




「ずいぶん前の引越しの時に全部処分したよ」


…。


…。




私は心の中で思った。



「女って大事にしていたものでもバッサリいくよねー」と。

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