在りし日

蠱毒 暦

手を伸ばしても…水平線には届かない


とある昼下がりの事。天界ではまたまた揉め事が起きていた。


「レレアはまたそうやって邪魔ばっかりして…私に構ってほしいのかにゃ?」

「うっせえ。これはオレ様の性分なんだよ。」


離れた砂浜から、遠巻きに天使や他の神々が海の上に立つ2人の女性の様子をさも風物詩を眺める様に見ていた。


「大体な。勝手に天界のど真ん中で『海』なんざ創造するのが悪いんだ…能天気馬鹿。」

「え〜別にいいじゃん。最近すっごく暑かったっしょ?だから、皆の意向を汲んでだね…そんな事も分からないのかなぁ…破壊癖。」


このままだと辺り一帯が消滅してしまう寸前で第三者が上空から乱入する。


「…双方、すぐに矛を納め」

「上等だクソ野郎。お前のモン全部破壊してやらぁ!!!」

「かっちーん。そっちがその気ならさ…久々に本気で遊んであげるよ!!」


でも、間に合わずに第三者そっちのけで破壊と創造が海のど真ん中で炸裂したのだった。


……



夕暮れ時。2人が浜辺で正座していた。


「あーはっはっは。君達!いくら大神でもやり過ぎはいけない。このアタシが間に合っていなければ…どうなっていたか。」


「最初にいちゃもんつけたのは、レレアでしょ?私は全く悪くないと思うんだけど??」


「……この期に及んで、責任をオレ様に押し付けるか…性格最悪だなぁ…『創造神』様は?」


「私が創った海以外の建物をいくつも破壊してたの…知ってるからね?性格が悪いのは…果たしてどっちなのかな?」


反省の素振りもなく、お互いをいがみ合う姿を見ながら、彼は私の方に振り返った。


「…エクレール。君はどちらが悪いと思う?『裁定神』としての意見を聞きたい。」


私は、淡々と考えていた事を口にする。


「…『創造神』ユティは大神でありながら、無断での『権能』の行使。及び、『鍛治神』の神器の一時的な使用。仲介を無視しての戦闘続行が挙げられる。」


「…いやいや。レレアが相手だったんだから、仕方ないって!?」

「こいつ神器まで使ったんだぜ?普通あそこで使うかよ?マジありえねえ〜あの時は結構、死を覚悟したなぁ。」


「『破壊神』レレアは同じく大神にも関わらず、仲介を無視しての戦闘続行。天使や他の神々を複数負傷させた上、『秩序神』ナカラ様が介入するまで、神々が住まう白亜の城を含めた27の建物を半壊させた事が挙げられる。」


「…オレ様はコイツの創ったモンを沢山、破壊出来て…満足だぜ。」

「本当…最低だよ!!ていうかさ、うっかり自分の部屋まで破壊してたよね!?本末転倒してたよね!?!?」


「…罪の大きさは『創造神』ユティが上回り、被害の甚大さは『破壊神』レレアが上回っている。よって…」


———どちらも悪い。


彼はクツクツと笑い、それを聞いた2人は顔を見合わせてから、私に罵詈雑言を浴びせた。


……



「…エクレール様。ここにいましたか。」

「……。」


砂浜で読んでいた本を閉じる。


「…よく来られますね。この海に。」

「……ここにいると無性に落ち着けるのだ。」


本来なら、残すべきではない事は理解している。それでも…私にとってこの景色は——


「混沌派がまた裏で何かを企んでいる様です…残党とはいえ、対策を講じるべきかと。」


「検討しておこう…もうすぐ夜が来る。君は家に戻るといい。」


「…了解しました。」


優雅にカーテンシーをしてから、翼を広げて飛んでいく。私は星一つない、まるで暗黒の様な海を眺めていた。


……



破壊神はブツクサ呟きながらその場から立ち去り、秩序神はいつの間にかいなくなっていた。


「あー海楽しかったぁ…って、エクレール!!まだここにいたの!?」

「…何か。」

「いや、もう夜なんですけど……ここにいたら風邪引いちゃうぞ☆」

「我々が風邪を引くことは…」


海を眺めたまま言葉を紡ごうとすると、頭の上に柔らかい布が被せられた。


「…びしょ濡れじゃん。それで拭きなって。ほら、まだ前髪にヒトデがついてるよ。」

「それは『創造神』ユティにも言え…」

「私はさっきまで泳いでたからね…んー堅苦しいなぁ…ユティでいいよ?」


体を軽く拭きヒトデを海に放り投げた後、創造神…ユティは私の隣に座る。


「…海、好きなの?」

「好きかは…分からない。だが、不思議と見ていて心が落ち着く。」

「そっか…こんなに暗い海を…ねえ。」


——私も大概だけど、変わってるね…エクレールは。



「あ…もしかして病んで…うひゃ!?」



私は前髪についたヒトデをユティに投げつけて、立ち上がった。



「び…びっくり、したぁ…何するのさ!!」



暗闇の中、怒るユティに私は手を差し伸べる。



「…何のつもりかな?」

「創造神には今ここで裁きを下した…次は破壊神の彼女にも同様の裁きを下しに行くが…」


迷う事もなくガッチリと私の手を握り、ユティは立ち上がった。



「それ…いいね♪エクレール。私は君の事を誤解していたかもだ。」



そうして2人は手を繋いで…



「……。」



徐々に明るくなる空を一瞥してから、砂がついた本を拾い、私は1人……砂浜を歩く。

                  

                   了
















































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