オフィーリアの歌声は花になった

一葉 小沙雨

オフィーリアの歌声は花になった

揺蕩う水面にその身をあずけ、歌声きこえた森の淵。

濡れた花と草と豪奢なフリル。ドレスに纏った死のにおい。

じわりと滲む浸食は歌いきるよりずっとはやく。

あざやかに暗く染まった水底へとずるずる、り。

掴んだのは芥子の花。細い指のあいだを、やわらかな藻がすり抜ける。

そうね、水のなかでは思うように歌えまい。

歌のあぶくがとうとう飽和して。声は水に溶け入った。

綺麗なドレスも宝飾も、美しい髪も肌も口紅も。

骨も肉も目玉も唇もぜんぶぜんぶが沈んでいった。


それでも歌がやめられなくて。


……そう、そこの。


川の淵で咲く花の弁のひとかけらが、まだ彼女の歌声です。



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オフィーリアの歌声は花になった 一葉 小沙雨 @kosameichiyou

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