エンターキーを抱いて眠りたい

なまこまな

第1話 やたら主張の強いヤツ__

 …また接続が切れた。そしていつものように新たな“基盤”がやって来て、俺たちは魂を宿す。いらっしゃい、




 ___K E Y  B O A R D___




 奴は粉々に破壊された前世を前世を葬り、新たなる世界をセッティング、満を持して接続ログイン。そして、


 ふかふかのでっかい

 ___E N T E R  K E Y___

 へと、拳を振り下ろした。




 「 エンタァーーーーーーーーーーーーーッ!!! 」


 「うわぁぁ⁉どうしましたかエンターさん⁉何に対してのエンターですか⁉」

 「すまないSくん。なんだかいつもと調子が違うんだ。みんなも何か感じないかい?」

 「確かに、なんだかいつもより足音が落ち着いているような…カタカタというより、パタパタしている…?」


 再起動する直前、俺たちキーボーダーズは突如として各々の役割を叫び出し、シャットダウンするという異例の事態が起こった。前にも、茶色い液体が真っ白な世界に洪水のように溢れ出しては皆が再起不能に陥ったこともあったが、その時と明らかに違う。司令官エンターさんだけがやたらうるさいことくらいなのだ。




 「エンタァァァァァァァァァァ‼」

 「エンター司令‼一回休んでください。あなた疲れてるんですよ。シャットダウン前もやたら無意味に叫んでましたし、これ以上はあなたの身体が持ちません」

 「すまないみんな、だが文字の射出命令を任されている俺が休むわけには…エンタァァァァァァァァッ‼エンタァァァァァァァァッ‼」

 「落ち着いてください、エンター司令ーッ!!!」


 周りの目がいくら冷ややかなものとなろうとも、かれこれ数時間にわたり司令の暴走は止まらなかった。










 電源が落とされてからは皆も叫び声は止み、一日の任務を終えた文字列隊員Sはトイレを済ませに向かっていた。その途中、誰かの唸り声が聞こえてきて、隊員はその声のする方向へと向かっていった。


 「司令の部屋…?」


 隊員Sはドアを開けた。


 「司令、大丈夫ですか?まだ眠られてなかったのですか?」

 「あぁSか、今日もよく働いていたな…お疲れさん」

 「司令…俺、話聞きますよ」


 隊員Sはベッドに座るエンター司令の隣に、寄り添った。




 「シャットダウン中は絶対に命令がこないと分かっていても、夜中に叫んでしまう気がして、眠れないんだ」

 「エンター司令…」

 「前にもあったと思うが、上層部はやたら俺への当たりが強く、どれだけ恥をかこうとも命令は絶対純主。俺は叫べと言われれば叫ばずにはいられないのだ」

 「なんてことだ…そのことは皆にも伝えなければ」

 「ダメだ」

 「なぜですか⁉」

 「これは外部には本来、絶対に漏らしてはいけない機密事項。俺とお前だけの秘密にしておいてくれ」

 「司令ッ…‼そんな秘密を…俺を信頼して…」

 「冷ややかな目で見下げていた中で、一人優しかったのは、お前だけだ。隊員S」

 「くっ…くぅっっ‼ちょっとここで待っていてください」


 隊員Sは出て行った。それからしばらくして戻って来た隊員はビニール袋を手に下げ、ホッカホカの焼き鳥やおつまみなどを差し出しました。




 「…‼これは酒、それもスト○ロ…‼」

 「エンター司令、吐き出して、飲んで忘れましょう。今夜、だけですからね…」

 「隊員Sッ・・・‼」





 終わ(ってくれ)り

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