わたし少女マンガのヒロインっぽいのに、対抗馬負け枠真面目系男子がブサイクすぎるんですが

@shirano

第1話 ハクセキレイを探して

ハクセキレイという鳥がいる。

どこにでもいる、ありふれた鳥だ。

数十分でも散歩すれば見つけることができるだろう。


それでも、ふと見かければわたしの目を奪って離さない。

なぜなのか。


そのトコトコした歩き方、長い尾が慣性に従うように揺れる様。

スズメと同じような平凡の鳥なのに、スズメとは少しだけ違う。


その僅かの差異が、どうにもわたしの興味を誘うのだ。


そうだ。


わたしはハクセキレイになりたい。

別に孔雀とか、鷲とか、そんな大仰に見て欲しいわけではない。

ただ平凡の最中さなかで、他とは少し違うように、少しだけ綺麗なように、かわいく、愛らしく、わたしだけを見て欲しい。


そんな願望が、15才の少女の全てだった。


☆★☆


「れーーーーーーーーいーーーーーーーーーーっ!」


どんっっと体に衝撃を受ける。

朝っぱらからなんと煩いこと。


「なんですか?矢沢さん、アルキメデスが風呂に入った時のような大声を出して。それならエウレカと言いなさい」


「は?なに言ってんの?難しい本ばっかり読んであたま変になったったりましたか?」

「なったったってません」

「ねぇーえー、もうそろそろ矢沢さんって言うのやめない?雲母きららって呼んでほしいーーーなっ!♡」


矢沢雲母やざわきらら

中1のときにウザがらみされていたから、2年生では別クラスになるのを望んでいた。

が、どうにも人生はままならないらしい。


窓際、最後列の席からは校庭に桜。

目に鬱陶しいかの花も、陽気にその枝を揺らしてピンクをまき散らしている。


「で、なんの用、や・ざ・わ・さん」

「もーーーう、いじわる!大ニュースなのに」

「大ニュース?政治家の汚職とか?」

「それが大ニュースになる女子中学生はこの世に存在しないよ!ちがくてちがくて、転校生が来るって!ちょーちょーちょーイケメンの」

「はぁ、、、、、」

「ちょっと!あからさまにため息つかないでよ!そして本から目を離せこのやろぉ!」


矢沢さんに両頬を挟まれ、強制的に見つめ合わされた。


「ふぁんでいふぇめんってふぁかるの?」

「何でイケメンって分かるかって?なんか、隣の中学校からの転校らしくて、おなしょーの子たちが知ってる子らしいよ」

「隣?」

「そうそう、七木山中ななきやまちゅう。なんか部活で揉めたらしい」


七木中、七木中、、、。

なるほど。


「あーーー、その人さっき会ったね」

「へ、、、、、?」

「うん、まぁ、確かに爽やかイケメン系ではあったかな、興味ないけど」


矢沢さんは校則違反の色付きリップグロスで照った唇をわなわなとさせ、


「ほ、ほんと、、、?」

「うん」

「イケメンって言った?あの西城玲が」

「客観的に見たら?」

「、、、、、ねぇ。れいちゃんの席の隣って、誰もいないよね」

「うちのクラス35人だからね」


矢沢さんが、不穏に唾をごくりと飲む音がして、刹那、


「号外!号外!号外っっっ!!!」


と、大声で何事かをクラスに喧伝けんでんしようとし始めた。

朝の会前でざわざわとしていたクラスの注目が集まる。


「仙台の奇跡!杜の都のサファイア!伊達政宗の隠し玉!我が中学のプリンセスオブプリンセス、あの西城玲についに春の訪れのフラグが立ったぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


矢沢さんがその小さな体を最大限大きくし、両手を上げて叫んだとき、丁度チャイムの音が重なった。


「おーい、うるさいぞ、席に付け―って、なんだ静かだな。矢沢だけか、うるさいのは」

「きららは小さいから存在感だけはでかくしろっていつも父に言われています!」

「世の中ではそれを虚勢と言うんだ、矢沢。2年生になったんだからさっさと落ち着け、そしてその両手を下ろして席につけ」

「はーーい」


目を輝かせ、両手を上げたまま、矢沢さんは自分の席である教卓の真ん前に走って座った。

そこからは、確かに矢沢さんが期待した通りになったと言わざるを得ない。


新学期。

進級。

新しい担任の自己紹介。

ありきたりな訓示。

そして。


「と、あとは転校生の紹介だな。入っていいぞ」


担任が教室の扉を開け、廊下にいる何者かに声をかける。

おずおずと、しかし体はぴんと伸ばして、1人の男子生徒が入ってきた。


三國柚葵みくにゆずきです。女の子みたいな名前ですが、男子です。よろしくお願いします」


ワックスなどつけていないショートヘアに、首に乗っているだけの小さい顔。

純日本人というよりは、異国の雰囲気を感じる鼻の高さ。


「いいいいいいいいいいいいいいいけめんだぁーーーーーーーーーーー!」


最初に叫んだのは矢沢さんだった。

それに追随する声も多々。


「まじで柚葵じゃん!」

「こっちでもサッカーするんだろ?」

「ひさびさーーー!何やらかしたんだよ、お前」


知ってる面々の顔を見たからか、三國柚葵という少年の顔から僅かだけあった緊張がなくなった。


「またよろしく、お手柔らかにな」


そうはにかんで言った少年は、やはりわたしの席の隣になった。


「、、、、、、、、、朝はありがとう」


わたしは本から目を離さず、そう言った。

彼は少しだけ驚いたような顔をして、


「おお、そうか。そっか、そっか。また会えたね、嬉しい。これからよろしく」


その時、わたしは確かに聞いたのだ。

彼の満開の笑顔の、その大きな瞳の中、桜の花びらが地面に落ちる音を。

そんな音はこの世に存在しないはずなのに、確かに鼓膜が揺れた気がした。


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