転校生は大魔王~神と大魔王に魅入られし少女は何を成す~
羽消しゴム
転校生
人生は退屈だ。
普通の家庭に生まれ、平凡な学校生活を送り、一般の会社に就職し、並の家族を築いて、やがて家族に看取られて死ぬ。
そこに波はなく、ただ生きて死ぬだけ。
「───なんて言うのは、結局人生を楽しめない人のセリフだよねぇ……」
教室の隅で楽しそうに会話するクラスメート達の会話に耳を傾けながら、僕は一人ため息を吐いた。
【
辛うじて友達は居るものの、僕が居なくてもさほど関係ない程度の狭く浅い関係ばかり。
ざっと僕の自己紹介をするなら、こんな面白くない説明文しか出てこない。
ここで実は魔法が使えます!とか超能力があります!みたいな普通じゃない能力があれば別だけど、あいにく普遍的な男子高校生でしかない僕には縁のないものだ。
高校生活は楽しいけど、誰かと話すのが不得意だから定期的に飽きがやってくる。
「どうしたんだよ。そんなしけた面して」
「失礼な。僕は今、人生の楽しみ方を考えてるところなのに」
「おじいちゃんか……?」
ぼーっと人間観察している僕に向かって、清々しいほどのイケメンが話しかけて来た。
彼の名前は【
没個性の僕と比べて、眉目秀麗で成績優秀、運動神経も抜群なのに性格も良いという折り紙付き。
きっと神様がいるなら、かなりの寵愛をユウトに与えているに違いない。世の中は不条理だ。もっとバランスをとってこのイケメンの顔を───いや、よそう。
ただでさえ全てにおいて負けてるのに、性格でも負けてしまったら立つ瀬がないよ。
「ところで、どうして僕に話しかけたのさ。カツアゲなら他を当たりなよ」
「俺ってそんなことする奴に思われてたの?全然ちげぇよ。ただ今日転入してくる転校生のことを伝えようと思ってたんだ。人間観察が趣味のユキなら興味ありそうだな、と」
「ふっ、数える程度の友達しかいない僕の趣味が人間観察?ただのボッチみたいになるからやめてよ」
「間違ってねぇ───痛ッ!?」
精神攻撃が得意なユウトの顔面にデコピンをかまし、シッシッと追い払う仕草をする。
友達が少ないことは別に“気にしてない”が、なんだかムカついた。全く一ミリも気にしてないけどね?
「機嫌直してくれよぉ〜、お詫びに転校生の新情報教えてやるからさぁ〜!」
「ッ、やめろ!イケメンフェイスを歪めて僕に擦り寄るな!?」
むさ苦しく抱き着いてこようとするユウトを押し退けながら、今日入ってくるという転校生を想像してみる。
夏が終わり、十月の初旬に差し掛かる一週間前からその情報は流れ込んでいた。信ぴょう性に関してはほぼ確定らしいが、如何せん詳細が割れていない。
やれ美少女だの、やれイケメンだの。思春期の少年少女の願望が入り交じった妄想の姿しか想像することが出来ないのだ。
だからだろうか、今日は皆ソワソワして落ち着いていない。
転校生というのはそれだけで退屈な日常に光を齎す新たな刺激だ。非日常とまではいかないが、気になるのは当たり前だろう。
「はーいそこまでだお前ら。さっさと席につけよ」
暫くやいのやいのと騒いでいると、予鈴と共に教師が入ってくる。
【
僕にしがみついていたユウトも素直に席に座り、先生の告げる言葉を待つ。
「よし、大分静かになったな。それじゃあ───転校生を紹介するッ!」
「「イェーーーーーイ!!!!」」
湧き上がる歓声。かくいう僕もノリノリで声を上げた。
「静かにッ!いいか?お前らの楽しみにしてる転校生は───めっちゃ可愛いぞぉ!!」
「「ウォーーーーーー!!!」」
「「女の子かぁ……」」
前者は男子達の歓声、後半は女子達の嘆きの吐露だ。噂が噂を呼んで、転校生が美少年だという
僕からしたら美少女で有難いことこの上ないし、これ以上ユウトみたいなイケメンが増えても困るので狂喜乱舞である。
若人は青春を堪能すべきだが、その機会が全員に与えられるかと言われればそうではない。即ち、イケメンとは男子達にとって強力な敵なのだ。
可愛い女の子と聞いてから、男子たちのソワソワがより顕著になっていく。
そんな喧騒を一つの声が鎮めた。
「うふふ、皆さん?先生が喋っているので───お静かに、お願いします」
声量は決して大きくない。しかし、込められた“圧”が喋ることを禁じている。まるで体を縛っているようだ。
静けさを引き起こした本人は教室の中央に鎮座し、ニコニコと笑みを携えていた。
僕のクラスには一人、絶対的な
【
おそらく今年入学した女子の中で最も人気があり、最も男子を振ったであろう少女だ。
「あ、あぁ、助かったぞミカ。それじゃあ早速だが、転校生の紹介と行こうか。入って来ていいぞ〜!」
アマミさんの注意に若干面食らうも、ドアの前で待機しているであろう転校生に声をかけるセイカ先生。
その数秒後勢い良くドアを開け放って入って来たのは───白銀の髪の毛をふわふわと揺らし、ナイスバディーなスタイルが制服から主張してくる女子生徒だ。
瞳も白銀色で、どことなくアマミさんを反転させたようなとんでもない美少女だった。
可愛い、というよりも美しいが近いだろうか。
クラスの男女問わずが、皆彼女に見蕩れていた。コツコツと足音をたてて教室に入る仕草。その全てが気品に溢れ、男子たちを魅了する。
彼女が入ってくるシーンはまるでスローモーションのようだ、
やがて教卓の前に立った美少女は、豪快な笑みを浮かべて自己紹介を始めた。
「さて、“我”がご紹介に預かった───」
彼女の話す言葉に全員が息を飲むのが分かる。見る者を魅了して圧倒するようなオーラが、彼女にはあったからだ。
美少女なんて言葉じゃ生ぬるい。
傾国のとか、空前絶後のみたいな言葉が前に着くような、恐ろしく感じてしまうほどの圧倒的美貌。
きっととんでもない人だ。
そんな僕の考えは。
「───“大魔王”、【
見事に的中してしまった。
転校生は大魔王~神と大魔王に魅入られし少女は何を成す~ 羽消しゴム @rutoruto
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