後にも先にもオンリーワン・フレンド

羅・ダラダ

僕と君

 

 あー。くそっ、やらかした。


 俺はティッシュでズビッ、ズビビビッと鼻をかみ、使い終わったティッシュをゴミ箱に投げ入れる。

体は全身に重りを付けられているみたいに重たい。頭の中がグワングワンと揺れて、何かを考えるのもしんどい。まさか自分がインフルエンザになるとは思いもしなかった。1人暮らしを始めてから、めんどくさくてワクチンを打ってなかったツケが回ってきたようだ。


 呼吸がしづらくて、ベッドでウンウン唸っていると、ピンポーンと玄関のインターホンが鳴る。ドアを開けると茉奈まなが両手に大きい袋を持って立っていた。


「L〇NEでインフルって聞いたから、いろいろ差し入れ買ってきたよ」


「茉奈、ほんま助かるわ。とりま入って入って」


 茉奈を中に入れると、彼女から袋を受け取って中身を見てみる。袋の中身は栄養価が高く、胃の消化に優しいものがいっぱい入っていた。


「おかゆ、ゼリー、ポカリに、のど飴まであるやん! 差し入れのセンス高ぁ~~!」


「それは言い過ぎ。まぁ、役に立つかわからないけどね」

「それより体調はどう?」


「体調は熱が41℃で、今立っているのもやっとって感じ」


「41℃!? そんな体温初めて聞いたよ!?」

「それなら早く言ってよ、もっとすぐに来たのに」


「うーん、俺もインフルでこんな酷くなるとは思わなかったし……」


「今日は大学が休みで良かったね。休みじゃなかったら私来れないから」

「とりあえず、私が袋の中を冷蔵庫に入れておくから、健太郎はベットで寝てて」


「ごめんなぁ、いろいろと」


 後のことは茉奈に任せて、再びベットの上に大の字で寝転がって目をつぶる。

 キッチンの方から、ガサゴソと冷蔵庫に物が詰め込まれる音が聞こえる。


「インフルうつるかもしれんのに……その、ほんまにありがとう」


「そう思うんなら、次からは気を付けなよ」

「どーせ、お酒で酔っ払って全裸で寝てたんでしょ?」


「…………」


「図星なのやめてよ。私だからいいけど、それ他人なら引くから」

「って、うわっ!! 冷蔵庫に入ってるお肉全部腐ってるじゃない!?!?」


「ついでに捨てといてくれぇー」


「はぁ、もう最悪……」


 最後に冷蔵庫開いたのいつだったけなぁ。1週間前? 2週間前? 最近はカップラーメンしか食べてないから覚えてないや。


「前から思ってたけど、そのを直したら? じゃないといつかもっと痛い目見るよ」


「そう言われても……」


 自分でも、どこがいい加減な部分しているかわからない。そりゃ、家賃を払い忘れたり、単位を落としたり、家の掃除し忘れてたりするけど、それが普通の大学生じゃないの?


「よしっ、持ってきたやつ全部冷蔵庫の中に入れたから帰るね」


「えぇ~、もっといてくれよ」


「私これからバイトだから無理」

「明日の朝、また来るからちゃんと寝ててよ?」


「わかったぁ」


「じゃあね、健太郎」


 玄関のドアが閉まった後、廊下に響く足音が遠のいていく。彼女はもう行ってしまったのだろう。途端に部屋全体がひんやりと空気が冷え込んでいく感じがした。音が無い空間ってこんなにも寒いんだなと思う。


「俺、何やってんだろ」


 夕方になり黒くなっていく部屋の中、懺悔するようにポツリと呟く。本当なら、明日は彼女と出かける予定だったのだ。しかし、現状は俺がインフルになり、彼女に看病を任せている始末。何も気にしていないと言ったら全然嘘になる。


 冷蔵庫からゼリーを取り出し、味わうことなく腹の中に入れていく。これを食べ終わったら、水飲んでさっさと寝よう。今俺が出来ることはインフルを早く治して、茉奈をもう一回遊びに誘うことなのだから。


 ピンポーン


「ん?」


 ゼリーを食べ終わって、歯を磨いていると玄関のインターホンが鳴った。


 ピンポーン……ピンポーンピンポーン


「今出るよ、ちょっと待って」


 おかしいな、茉奈はいつも一回しかインターホンを押さないのに。宅配便だろうか? 俺なにか頼んでだっけと、いろいろな疑問を浮かべながら玄関のノブを捻ってドアを開ける。


「どうした? 茉奈忘れもん?」


「久しぶりだね。健太郎君」


 え、誰?

 玄関には茉奈ではなく、細身で黒髪の女性?が立っていた。てっきり茉奈が忘れ物をして戻ってきたと思っていた俺は、想定外の人に固まってしまう。


「すんません、どなたっすか? 部屋間違えているとか……」


「ううん、この部屋であってる」

「僕は悠希ゆうき。健太郎君、覚えてない?」


「いや全然」


「そっ、かぁ。はい、これ差し入れ」

「寒いから中に入っていい? 詳しいことはそこから話すから」


「えぇ、まぁ、うーん……?」


 流れで差し入れを受け取ってしまい、目の前の者を中に入れていいか迷っていると、悠希は俺の脇を通って中に入っていった。


「おーい、勝手に中に入るなよ」


「ごめんごめん、久々の君にテンションが上がっちゃって」


 彼女の言っていることの意味がまったくわからない。突然現れた不審者に、警察か誰か呼んだ方が良いのではと思い始める。一旦、茉奈を呼びたいところだが、彼女は今バイトだから来れないだろう。そうこうしているうちに悠希は部屋の中をぐるりと見渡して、床に置いているクッションに座った。


「差し入れはどら焼きだから、元気になったら食べて」


「はぁ……」


「意外と部屋整ってるんだね。昔はぐちゃぐちゃだったのに」


 昔っていつだよ。

 俺は悠希が誰だか知らないが、あっちは俺を知っているらしい。記憶に残ってないだけで、どこかで会ったということだ。俺は必死に記憶の引き出しを1段、2段と引きながら、急須の中にお茶葉とお湯を入れる。

悠希、悠希、誰だ。お前は誰なんだ。


「―――本当に覚えてないんだ」


「えーっと、どこで会ったっけ」


「そうだねぇ、富張小学校の」


「あっ、俺の母校やん。もしかして同小?」


「3年B組」


「おぉ! 同じクラスかぁ」


「14番、前田悠希」


「…………あっ!!!!!!」


 おぼろけだけど、少しだけ思い出した。3年生の時に席が隣でちょっとだけ仲良くなった男子ヤツだ。家も近かったから、3年生の時だけ何回か遊んだっけ。俺は背中に冷汗をかきながら、悠希に淹れたお茶を差し出す。悠希はお茶を一口啜ると、「あったかい」と言葉をこぼす。


「やっと、思い出したんだ」


「いやぁ、あの時とは悠希の姿違うからさぁ」


「イントネーションが違うよ。昔は悠希のゆうを強く言ってた。そう言って?」


「あ、あぁ、そうかぁ……」

「えーと、こうして会うのは小学生以来だよなぁ。10、11年ぶりぐらい?」


「10年8か月と3日ぶりだね」


「そうそう、それぐらい」


 思い出したと言っても、正直彼の事はほとんど記憶に残ってない。昔、俺の家に誘って3回ほど遊んだくらいだ。その時の悠希はおかっぱ頭で眼鏡をかけていたが、今の彼はショートボブでコンタクトを付けている。来ている服も、カッターシャツに黒いカーディガンと中性的で、昔の記憶が無いと性別の判別がつかなかった。


「悠希変わったなぁ、昔は眼鏡だったのに」


「そういう健太郎もだいぶ変わってるよ。髪は金に染めてて、体は大きくなってるし、声も低い」

「でも、性格は変わってないみたいで安心した」


「ははは……」


 ベッドに座って適当に相槌を打ちつつ、悠希についての記憶を頑張って思い出そうとする。まず重要なのは、なぜ彼が俺のとこにきたのか、だ。インフルで揺れる頭の中を、必死に叩いて思考を巡らせる。


「なんで、今更僕がここに? って思ってるでしょ?」


「そりゃまぁ、なんで?」


「当ててみてよ」


「あっ! 冨張小の同窓会の誘いとか?」


「はずれー」


「えー、俺の大学に関すること?」


「はずれ」


「俺の看病とか、へへっ。わからん」


「……違うよ」


 冗談でも、俺の看病にしに来たと言ってほしかった。もうすでに、彼に関する記憶は掘りつくされており、それを踏まえてここにいる理由が分からなかった。悠希は能面のように表情を動かさず、俺をじっと見つめており、心が鎖できつく縛られていくような感じがした。


「―――さっき、健太郎は僕の事全然覚えてないって言ったよね?」


「うん」


「それに、会うのは小学生以来とも」


「言ったけど、実際そうだろ??」


「僕はさ、ずっと君の事覚えてたよ……いいや、追いかけていたって言った方が正しいかな」


「え? どういうこと?」


「まず、僕と君は小学校だけでなく、中学校も同じだよ」


 知らんかった。


「覚えてないのも仕方ないさ、3年間クラスも違うかったし、君の周りにはいろんなやつが集まって話かけづらかったから」

「でも、僕は君をずっと見てた。健太郎、野球部入ってたよね? 総体も全部応援しに行ってたよ」

「最終的に準優勝だったけど、最後の試合惜しかったなぁ」


「…………」


「高校はさすがに違うところに進学したけど、学校休んではしょっちゅう君の高校を見に行ってた」

「時には君のロッカーにスポーツドリンク入れたりして……」


 高校時代、謎にロッカーの中にスポドリが入っていた時があった。俺は「神からの施しだ!!」と、毎回ごくごく飲んでたけど、まさか彼がおいていたものとは知らなかった。


 悠希の話を聞けば聞くほど、もしかして目の前にいる奴ってだいぶヤバいやつじゃね?と肌で感じていく。普通、たかが数回ぐらいしか遊んでない人のために、ここまで行動するのだろうか? ほとんど他人と言っても過言じゃないのに。

しかし、彼はまるで親友との思い出話をするように、懐かしんで語りかけてくるのだ。


「待て待て、俺と悠希ってそんな仲良かったか……?」


「まぁ、健太郎からしたら僕の事なんか全然印象に残ってないだろうね」

「でもね、君にとっては少し遊んでいた程度しか思ってなくても、僕にとってはさ、君は3回もなんだよ」

「僕、人と喋るのがほんとうに苦手で友達なんか1人もいなくてさ」

「だから、小学生の時に君が話しかけてくれて、君が遊びに誘ってくれて、君が僕とゲームとかで遊んでくれて……嬉しかった」

「それ以来、君の笑顔が、匂いが、声が、忘れれなくなっちゃって」

「だからっ! 君が遠くに引っ越しても、僕は君を待ってたんだ。ずっと、ずっと……ずっとね!!」


 震えながらまくしたてる悠希は息が切れたのか、黒マスクを外してはぁ、はぁと呼吸を整え、「なんか、暑いねこの部屋」と言うと、羽織っていたカーディガンを脱いだ。


「でも、君は僕の事なんか忘れちゃったみたい」


「……ごめん」


「謝らなくていいよ。僕も自分が異常なこと自覚してるから」

「ただ、君に気づいてほしかっただけなんだ。わがままだよね」


「それならさ、連絡とかくれたらいいのに」


「あげたよ、何回も」


「えっ!?」


「小学生の時は君の家に電話を何度もかけた。繋がらなかったけどね」


 実は、引っ越した後に親が家の電話番号を変えたのだ。幼い彼は変わる前の電話番号にかけ続けていたのだろう、繋がるはずのない電話番号に。


「中学生のときは、バレンタインデーの日にチョコと手紙を机に入れたよ。返事はなかったけどね」


 中学を卒業するときに、机を掃除していると中からドロドロに腐った茶色い物体と、大量のプリントがいっぱい出てきた。そのときの俺は、誰かのいたずらだと思ってた全部捨てたけど、今思うとあれは……


「高校の時は、L〇NEで君にメッセージ送ったよ。今でも既読はついてないけどね」


 俺のL〇NEは、知らない人からのメッセージはすべて届かない設定になっている。


「最近だと、君のポストに『今日部屋を訪ねる』と書いた手紙をいれたねぇ」


「ごめん、ポストはもう半年ぐらい開けてなくて……」


「あははっ! だろうと思った!」

「だって、君のいい加減な性格は変わってないもん」


 俺は自分でも気づかないうちにとんでもないことをやっていたのかもしれない。

 一通り話し終えたのか、悠希はふぅーっと息を整えると、冷たくなっているであろうお茶を飲み切る。さっきまでの雰囲気とは打って変わって、部屋の中は悠希が来る前と同じく、静寂と寒気に染まり始めた。


「そーいえば、さっきの質問の答え言ってなかったね」


「質問?」


「なんで僕がここに来たのか」


「あ、あぁ―――うっ!?!?」


 瞬間、大きな衝撃と共に頭と背中がベッドに倒れる。思わず目をつぶってしまったが、目を開けると俺は彼に押し倒されている状態だと理解した。悠希は俺にまたがり、両腕をベッドに押し付けて拘束する。押し倒された衝撃でスマホを手から落としてしまい、助けを呼べない状況になってしまった。


「おいっ! いきなりなにすんだよ!」


「だって、こうでもしないと君、暴れそうだから」


「ったりめーだろうが! 早く腕離せよっっ!!」


「やだ」


 悠希の力は細い見た目よりもずっと強く、体が一切動かない。インフルだからいつもより力が入らないというのもあるが、ここまで押さえつけられるとは思ってなかった。悠希はぺろりと舌なめずりすると、扇情的な吐息を漏らしながら、震えた声を出した。


「…………だよ」


「え、え?」


「好きだよ、健太郎」


「はぁ!?」


「ふ、くふふっ、はは、言えたんだ、ついに」


 悠希は頬を紅潮させて、不自然なくらい口元を歪める。彼の大きい黒目には、青ざめて驚いている俺の顔が映っていた。感情が置いてけぼりになるとはこのことだろうか。さっきまであった怒りはすっと消え去って、頭の中が怖いくらいに真っ白になる。


「今日は、僕の想いを伝えたかったんだ」

「君の事を考えるとすごく胸が苦しくて、いままではこれをだと思ってたんだけど」

「これって恋、だよね……?」


「何言ってんだ、お前……」


「好き、好き、好き、健太郎大好きっ。あはっ、4回も言っちゃった」


「…………」


「終わってるよね。男が男の事が好きなことって」

「でも、僕自身ですら止められないんだよ」


 突然の告白に困惑していると、悠希の唇が俺の口に触れた。2秒、いや10秒ぐらいだろうか。彼と唇を合わせている時間は永遠と思わせるほど長かった。香水の甘い匂いと、男とキスしてしまったという事実が、脳と思考を一気に痺れさせる。


「健太郎の唇、乾燥してるね」


「インフルだからな」


「うん、知ってるよ」

「僕の初めてがこれかぁ、なんだか思ってたより残念」


 勝手にキスしといて、感想それかよ。


「ねぇ、もし僕が女だったら、君は振り向いてくれた?」


「そういう問題じゃねぇだろ」


「あのね、ほんとはさ、こんな形にしたくなかったんだ」

「ドアが開いたとき、健太郎がぼくを見て一言でも『悠希』って呼んでくれたら、差し入れだけ渡して帰るつもりだったんだよ?」

「なのに茉奈って、あの茶髪の女の人の名前が出てきて」


 ぽたりと生ぬるい液体が頬に降ってくる。悠希は笑いながら泣いていた。大粒の涙は最初は1つしか出てなかったのに、徐々に4つ、5つと彼の瞼から流れ落ちる。彼は俺の反応もお構いなしに、独唱するように泣き喚く。


「それに、話をすればするほど可笑しいくらいに、君はぼくのことこれっぽっちも覚えてなくてさぁ!」

「ぼくがきみのために費やした10年間はなんだったんだろうって」

「挙句の果てに、茉奈とかいうぽっと出の女に君を取られて??」

「指をくわえてみてるだけのぼくって、ほんっっとうにバカみたいだよねぇ!?!?」

「そう思うとさ、だんだん君に腹が立ってきて、やり返したくなって、きみにぼくをもう忘れてほしくなくて……」

「だから……ごめん」


 悠希は化粧が少し落ちて、ぐしゃぐしゃになった顔で俺に謝った。彼は俺の両腕を開放して、自分の手で涙をぬぐっている。


「笑いなよ」


「…………」


「愚かで惨めな犯罪者ぼくを笑えよぉ……」

「黙ってられるより、罵られた方がマシなんだ」


「うーんまぁ、そうだな……」


 押し倒されて、告白されて、キスをされ、もう意識は朦朧としていた。そんな状態で、彼に何を語ればいいのかわかるはずもない。押さえつけられていた腕の手首には紫色のあざが出来ていた。


「ほら、とりあえずこれで涙吹けよ」


「……」


 ティッシュを2、3切れ取り出し、悠希に手渡す。彼は無言でそれを受け取ると、化粧の混じった涙を拭き取った


「……で、どうするの?」


「どうするって何が?」


「レイプまがいのことされましたって警察に僕を差し出すかい? それとも、SNSで僕を晒上げるとか……」

「もう全部どうでもいいんだ」


 泣き終えた悠希は赤くなった瞼をこする。彼は下を俯いて俺と目を合わせようとはしなかった。

どうしようもない空気の中、吹きかけないよう我慢していたためか、「ぶぁっくしょん!」と大きなくしゃみが出てしまった。くしゃみをし終えると、やけに頭が冷静になってくる。


「あのさ、おれ疲れたから寝たいんだよなぁ」


「は、はあああぁ!?」


「それに今日寒いし、一緒に寝ようぜ」


「え、ちょっ、ちょっと健太郎!?!?」


 悠希の肩を強引につかんで、布団にくるまる。さっきまで興奮していたためか、彼の体はあったかい。

もぞもぞと布団の中で悠希はいろいろ呟いているが、何言っているのか全く聞こえなかった。彼の事はどうでもいいわけでは無いが、今どうこうするには俺の体力が持たない。

とりあえず、全部明日の俺に任せようと思う。きっとそれがいい。


目を閉じると、停電したみたいに意識がプツンと落ちた。






 あー。くそっ、やってしまった。


 目を覚ました俺はティッシュでズルッ、ズルルルッと鼻をかみ、使い終わったティッシュと冷えピタを纏めてゴミ箱に投げ入れる。昨日とは違い、体は嘘みたいに軽い。体温計で熱を測ると「37.0℃」と、順調に体調は良くなっているようだった。


「はあぁぁぁ……」


 貯め込んだストレスを放出させるように、大きく口を開けて溜息を吐き出す。


 横で寝ている悠希この人をどうしよう。


 いくら疲れていたとはいえ、不審者と一緒に寝るなんてばかげてる。茉奈の言う通り、このいい加減な性格をそろそろ直さなければいけないかもしれない。悠希は俺の溜息でぱっと目を開け、恥ずかしくなったのか俺と少し距離を取る。


「あ、おはよう健太郎」


「おう、おはよ」


「えと、い、一緒に寝ちゃったね……」


 悠希は照れて、俺から顔を逸らす。それはまるで初夜を過ごし終わった男女のようで


「おい! 誤解を招く言い方をすな!!」

「いいか? 俺は昨日の事をゆるしたわけじゃねーからな! でも……」


「でも?」


「悠希の気持ちに気づかなかった俺も悪いと思ってる」

「俺、自分のことしか考えてなかったし、いい加減なことばかりしてたから」

「だからさ、もっと教えてくれよお前の事を」


「僕の事……」

「そ、そうじゃなくて! あんなことして僕を嫌いにならないの……?」

「君をストーカーして、押し倒して、キスもしたんだよ!?」


「それがどうしたんだよ」


 その時、ピンポーンと玄関のインターホンが鳴る。一瞬、「次は誰だ!?」と思ったが、


『明日の朝、また来るから』


 という茉奈の言葉を思い出し、ドアの前にいる人物が開けなくても誰かわかってしまう。この状況、彼女にどう説明すればいいのだろう。どんどん増えていく問題に頭を抱えて、「くそーっ!」と叫ぶ。


「茉奈ぁ! ちょい待って!」


 俺はドアの前にいる彼女に届くよう叫んだあと、手元にあるスマホからL〇NEを開く。


「悠希、自分のスマホある?」


「あ、あるよ」


 こうすることで問題が解決するとは自分でも思ってない。

 でも彼の気持ちにこたえるには、自分には何もかもが足りなさ過ぎた。

 悠希のことは何も知らない。


「とりあえず、L〇NE交換からすっか」


「…………うん!」


 でも、知らないならこれから知っていけばいいんじゃないかな、友達として。

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