おまけその二

 翌朝、セレンが客間で身支度を整えていると、クルサートルが迎えにやってきた。扉を開けてやると、なぜか顔が土気色で実に具合が悪そうである。

「クルサートル?」

 どうしたのだろう、と挨拶も抜きに顔を覗くと、目の前が真っ暗になった。

「え、え!? クルサートル!?」

 いきなり抱擁されて戸惑い、顔を見ようと身を捩る。しかし、痛くはないのだが、クルサートルの腕にがっちり動きを封じられてしまっている。

 何がどうしたというんだろう。

「疲れた……」

 疑問符が頭に浮かぶままどうしようもできずにいると、頭の上に吐息があった。

「大丈夫か」

 大丈夫じゃないよな、と思いながらも聞いてしまう。これ以上ないほどうんざりといった声だ。教庁で疲弊した時とはまた別種のようである。

「夜会、来ないほうが良かった?」

 初めから嫌がっていたし、そうなのかもしれない。どんな表情か見えないのだけれど。

「セレンは?」

「私?」

「セレンは、楽しかったか」

 何の関係があるんだろう。だが、何か関係あるのだろう。なら正直に言わないと。

「もちろん、すごく楽しかったよ」

 ありがとう、と笑いを混ぜて言ってみる。するとセレンの動きを封じる力がさらに強くなった。ますます戸惑う。

「クルサートル?」

「それなら……」

 ぎゅう、ときつく抱き締められ、はあぁ、と長く息が吐かれる。

「もう他はなんでもいいよ……」

 そう言って前触れもなく額に口付けられ、途端に体が熱くなる。

 恥ずかしさと疑問がぐしゃぐしゃに混ざり合うのに、ぐったりしつつも自分をしかと抱き締めている相手をいかんともしがたい。

 朝餉に行かなきゃいけないのに、と迷うセレンとは逆に、クルサートルはもうしばらく動きたくない、と自分を甘やかすのをよしとするのだった。


 *おまけ、おしまい*


 ちょっとお二人の仲を心配されたので。

 クルサートル、充電する。


 帰ったら思う存分独り占めすることでしょう。

 と思ったけれど帰ったらフィロがいるか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

因縁が何かに変わる手前 蜜柑桜 @Mican-Sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ