【最強だけどバカ過ぎる勇者と最凶だけどカマチョ過ぎる魔王】
爽せき
第1話 始まりの村からやり直します!
雷鳴が轟き激しい豪雨が地面を叩く中、荒涼とした黒い山脈の上に【魔の城】が聳え立つ。
その城壁は灰色に薄汚れ、不気味な雰囲気と邪悪な魔力で満ち溢れている。
さながら此処は、魔王が住まうべき城としてふさわしい光景である。
「遂にここまで来た……」
見覚えのない異世界RPGゲームの勇者に転生してから3年もの月日を要した。
行く度もの修羅場を乗り越え、ようやく俺は【魔王城】へと辿り着いたのだ。
そして今日、俺の手によってこの
俺は魔王を倒すために召喚され、我が使命を果たすため、勇者としての道を選んだのだから!!
『おめでとうございます勇者様、魔王戦に突入します。準備はよろしいですか?』
「ああ問題ない」
俺に話しかけて来た『黒髪の美女』は、これからボス戦が始まるんだなって実感を与えてくれる存在、いわゆる『BOT』だ。
ゲームいるいるだな! あはは。
そして、こいつがいると言うことはつまり……この扉の先には、玉座の上で頬杖をついた魔王が俺を待ち受けていると言うことだ!!
「ん”ん”! この勇者
『これで最後になります。これより先は引き返すことはできません。セーブはお済みですか?やり残したことがお有りなら、今のうちに済ませておいてください』
……すまんなんかもう一段階あったわ。
というのも、今までこんなにもしつこく警告された試しがなかったものでな。
きっと魔王戦ともなれば量も増えるのだろう。
これで最後になるんだし、念の為セーブの確認と持ち物に不備がないか見てくるわ。
「少しだけ待っていてくれ」
『終わりましたらお声をかけてください』
うん、セーブはちゃんと……してあるな。持ち物も……不備はない。OK!
念には念をで確認すれば心にもゆとりが生まれる。あとはこの手で、邪悪なる魔王を葬るのみ。
『準備はよろしいですか?』
「ああ問題ない」
しかし、今流れているBGMの威圧感といい魔王戦の緊張感はとてつもない。でも心配は不要。
なぜなら現在の俺は、魔王を倒すほどの実力を十二分に兼ね備えているからな。必ずや魔王を討ち取り、この世界に自由と平和をもたらすのだ。
魔王よ、我が身の前にその姿を現わしたまえ!! 開け扉!!!!
「ジ・オープン・ヌ!!!! うおおぉぉぉ!!!!」
『これで最後になります。これより先は引き返すことはできません。セーブはお済みですか?やり残したことがお有りなら、今のうちに済ませておいてください』
うんだからセーブは終わってんのよ。
それに何、やり残したこと……だっけ?
ねーよそんなの!
せっかく気持ち入ってたんだからさぁ、いやちょっと待てよ?
この世界の『BOT』と言えど、自我が存在するのは確認済みである。とならばここまで催促するのには何か、理由があるのではないか?
例えば俺の回復ポーションに魔王がこっそり毒を盛り込んでいたり、はたまた外見になんら変わりは無いみたいだが、実は呪いの装備を着させられていたりとかな。
そんなことがあってはならぬ、教えてくれて感謝するビーオーティー!
「少しだけ待っていてくれ」
『終わりましたらお声をかけてください』
よし、セーブは大丈夫だ。それに持ち物と装備にも細工はされて……いないよなやっぱ。
ではなぜ2回も?
……ああそうか。
魔王戦の前だけセリフが固定されている説があるかもしれない。突入する前に、自我のある美女と長時間お話しするなんて展開があっては困るからな。
そうと分かれば答えはシンプル!
俺の気が散る前に、スキップ機能を用いて突入するだけだ!!
『準備はよろしいですか?』
「スキップていっ! 次こそは、参るぞ!!!」
『これで最後になります。これより先は引き返すことはできません。セーブはお済みですか?やり残したことがお有りなら、今のうちに済ませておいてください』
クソがっ!!!
そんなに確認されたら流石の俺でもあれだ、「やっぱモットちゃんとシタ」準備をしてから挑むべきかな? とか考えちゃうじゃんもう!
いーやちょっと待て。もしかすると魔王のやつ、今めっちゃピンチなのでは……?
これはあくまでも俺の憶測だが、「ワレー、今オナカ痛クテー、『 ウ◯コ 』シテルカラー、テキトウニ勇者ノ足止メ、シトイテクレナイ?」つって、緻密な時間稼ぎを部下である『BOT』に強要させてる可能性ワンチャンある?
……w
あって欲しくないわそんなの!
えだってさ、RPGゲームの魔王がう◯こ踏ん張ってたら嫌だよね。普通。
それに魔王って、う◯こしないイメージあるし。じゃあ尚更なぜ?
……駄目ださっぱりわからん。
ただ一つ言えることは、現在俺の脳内パラメータは「不安9」と「夕飯何食べよっかなーの1」で埋め尽くされているということ。
これじゃあいくらセーブをしてあったとしても、万全の状態でなければ何回魔王に挑んだとて結果は同じ。とならば、うん。
「と・り・あ・え・ず!」このモヤモヤを解消するために、始まりの村から確認していくしかないよね☆
「ちょっとはじめの村から確認してくる!!」
『終わりましたらお声をかけてください』
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魔王『ア、バカダコノ勇者……』
【最強だけどバカ過ぎる勇者と最凶だけどカマチョ過ぎる魔王】 爽せき @Natsume7777
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