ボクはジハンキ

そうざ

I am ”ZIHANKI”

 ボクはジハンキ。誰もジドーハンバイキだなんて長ったらしく呼ばない。

 自分で言うのも何だけど、なかなかの高性能だと思ってる。普通の自販機は飲み物なら飲み物、アイスクリームならアイスクリームって、同じカテゴリーの物しか扱わないけど、ボクは身近な色んな物を扱う。コンビニで売ってる物が多いけど、他に文房具とか本とか、恥ずかしいけどたまにゴム製品も扱う。何ならラーメン屋で食券を買う代行まで引き受ける。


 商売繁盛に見えるかも知れない。でも、ボク自身は一円も儲からない。だって自販機ってそういうもんでしょ、もう割り切ってる。そもそもお金の投入口がないし。キャッシュレスってそういうことかなと思うことにしてる。


 世界初の自販機っていつどこで生まれたのか。そんな事が気になっちゃうのは、ボクが自販機だからかな。一説によると、紀元前のエジプトに聖水の自販機が置かれてたんだってさ。何だか親近感が湧くって言うか、同情しちゃうって言うか。

 ボクみたいな自販機って他にも居るのかな。この世界のどこかに本当に心を通わせられる相手が居るとしたら、いつか会いたい気もする。


 忙しい毎日だけど、一番の救いは憧れのあの子がボクを利用してくれたこと。最初は躊躇してたみたい、遠くで眉をひそめてたもん。だけど、周りの子が気軽に利用するもんだから、あの子も好奇心が湧いたんだろう。

 恐る恐るボクのボタンを押してれたあの時の感触は忘れられない。あの子だけだ、ボクにお駄賃をくれたのは。それだけであの子のことが好きになっちゃった。今でもあの子がくれた十円玉を大事にしてる。


 正直に言うと、ボクは自分が本当に自販機なのかって疑問を感じることもある。もしかしたら本当は人間で、自販機だと思い込んでるだけじゃないかって……あぁ、考えちゃだめだ、考えたら辛くなるだけだ。


 先月までは別のジハンキが居た。それまでのボクは利用する側だったから、ジハンキの便利さはよく知ってる。

 だけど、ある日、初代のジハンキは姿を見せなくなった。調子が悪くなったらしい。ジハンキがメンテに出されたって、みんなで笑ってたけど、結局、戻って来なかった。だから、二代目が必要になったってわけ。


 ボクはみんなに頼りにされてる。みんな、ボタンを押す時は笑顔だもん、ニヤニヤしてるもん。第一ボタンは飲み物、第二ボタンは食べ物、第三ボタンは……何だっけ。別にどのボタンでもいいんだ、ボタンを押されなくたってボクは命令に従って使いに走る、自販機だもん、自動販売機だもん。


 ボクはジハンキ。

 今日も教室の片隅でその時を待っている。それが処世術。

 自販機は泣かない、機械だから。もう機械なんだから、もう泣かない、人前では。

 誰が何と言おうと擬人化だよ。

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