あなたが懐中電灯をつける。

 わたしたちの頭を優しく撫でる、色とりどりの垂れ布が照らし出される。わずかに見える壁に、わたしたちの影が連なる山々のようになってうつる。

 あなたは枕にもたれかかっている。あなたの枕は、あなたのベッドのシーツとお揃いのすみれ色。わたしの枕は、それに優しく馴染む柔らかなうすみどり。床には夏用のブランケットが敷いてある。それはあなたの好きなキャラクターの絵が描かれたもので、あなたが大人になるまでずっとあなたの家にある。

 このねぐらに、わたしたちはあらゆるものを持ち込んだ。密輸入したお菓子、ゲーム機、お絵描き帳、テーマパークで手に入れたおもちゃの鉄砲、漫画におまじないの本、エトセトラ。それらは昼間のうちからここに少しずつ持ち込まれた。デロンギストーブのうしろに、トートバッグのなかに、コートのポケットに、こっそりと忍び込ませた宝ものたち。

 わたしたちの左手の甲には、油性ペンで描いたマークがある。これはわたしたちが仲間であることの証。これがないとわたしたちの国に入ることができないパスポート。

 あなたが枕カバーの中から手帳を取り出す。これはきのう、あなたのお母さんに買ってもらったノートで、わたしたちの日誌。あなたは香り付きのピンク色のペンで日誌に何かを書き込む。そのノートの最初のページには、挫折したふたりだけの言語の名残がある。

 わたしたちの小さな世界は、あなたの匂いで満たされている。顔を上げると、あなたが去年しょっちゅう着ていたワンピースが顔にあたる。そこからもあなたの匂いがする。ちょっとスパイシーで、懐かしい不思議な匂い。

 あなたがペンを走らせる音だけがする。

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