カラスの恨みは怖い

 クロからの連絡があって僕はすぐに行動に起こした。


 もし、シルヴィに何かあったらこの握手券は没収されるかもしれない。セコウムに失敗はありえない。


 ただ、カラスとして出向いてしまうとそのことについて追及されるだろう。自分で自分のことを語るとかかっこ悪い。


 というわけで騎士団を呼ぶことにした。現場の近くでパトロールしていたのか赤髪の女性騎士を見かけた。あの顔はスラム街に住んでいたころの僕がよく行っていた広場で見かけた正義感の強い騎士だ。


「あの、女性の方が襲われているところを見たんですけど」


「それはどこで!?」


 この騎士なら職務を全うするだろう。僕はその女性騎士と近くの騎士たちを連れて現場に到着した。


 騎士団が対応している間に脱出したクロと合流した。


「かっこいい傷がついてるじゃん」


「(アホいうな。普通に痛いんだ。治してくれ)」


 クロの傷を治す。さっきまでグデ~としていたクロがぴんぴんとして、飛び跳ねていた。


「(相変わらず桁外れの技術だな)」


「お前も、というか誰でも練習すればできるようになるぞ」


「(お前の言う練習は練習の域を超えているだろう)」


 二週間ほど飲まず食わずで生と死の境界線をさまよい続けてソウルの本質を掴む。そのうえで常にソウルを練りこんだり、ソウルを変質させたり、そうすればほら完成です。


「じゃあ、クロは先に帰っていいよ」


「(ん? 何かやることがあるのか?)」


「うん、ちょっとお礼参りしてこようかなと」


 少し不思議そうな表情のクロをよそ眼にソウルの痕跡を追跡する。


 そのソウルは地下水道へと続いていた。僕は躊躇なく入り目標を探し出した。


 後ろからの襲撃より正面からコツコツと近づいたほうがおもしろそうだと考えた僕は黒き衣装に着替え、気づかれぬように先回りする。


 暗闇のなか唯一光を放つ光源に向かいコツコツとゆっくり近づいた。


「何者だ、きさ……」


 俺という影を認識したときにはもう時すでに遅し。男たちの首はすでに落ちていた。


「俺の相棒をいじめてくれた礼だ。受け取れ」


 クロはソウルを分けた分身のようなもの。それがやられたのであれば僕/俺がやり返すのは道理。


 誰かは知らんが運がなかった。そう恨みながら眠るといい。






 翌日、僕は飼い主(エリス)に呼び出されていた。さすが王女ということか、学園に個人的な部屋が用意されている。


 机やソファ、棚にコップがあるだけで校長室を彷彿とさせるような部屋であった。とはいってもコップの豪華さや紅茶の種類が多かったりと高貴な雰囲気は醸し出している。ダージリン以外分からない。


「今回のシルヴィ襲撃事件、よくやったわ」


「ありがたきお言葉」


「追加の報酬を上げるわ」


 そう言って、エリスは金貨を親指で弾く。金貨二枚。成人男性の半年分の給料、約二百ウェンだ。宝石で例えれば相場にもよるが、質のいい一カラットダイヤモンドくらいだ。


 この国ではウェンという単位のお金の紙幣で取引されている。食事をするときも、宝石を購入するときもこの紙幣を用いる。


 とはいえこのウェンが使えるのはこの国と一部の国だけだ。だから外交をするときは金貨を用いるということも少なくない。


 普通の学生では手に入れるどころか下手したら目にすることもないだろう。そんな高価なものをエリスの手から離れた瞬間につかみ取る。


 いい宝石を手に入れるには金は入用なのです。悪党狩りでは物足りない。


「ふふ、喜んでくれたようで」


「あぁ、そういえば」


 この際、二人の監視した結果も報告した。報連相は大切だよ。


「そう、あの子そんなことを」


 エリスが何か思おうところがあるように顔を曇らせる。


 そんなことことより今度のイベントだ。神様と握手できるんだ。失礼がないように完璧な状態を考えなければ。


 そんな妄想をしながら部屋を後にしたのだった。

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