我が研究の成果を見よ!!

 翌日、とあることが噂になっていた。


「シルヴィ王女彼氏できたってよ」


「うっ」


 当たり前だがお相手はヨックではない。では誰かというと。


「ちょっとハロル! 王女様と付き合ってるって本当!?」


「あ、ああ。本当だが」


 そう、我らの主人公ハロルさんだ。ヨックの告白の前か後かは知らないがうまくやったようだ。そのシーンを見ることができなかったのは残念だがこれからの展開は楽しみだ。少しの間、様子を見るとするか。


「お~い、どうした~。朝飯でもぬいたのか?」


「ぐすっ、ぐすっ」







 ハロルたちを観察した。


 結論から言うと噂は本当だった。


 休み時間ハロルとシルヴィが腕を組んで廊下を歩いていたり、昼食を一緒に食べていたりとちゃんと彼女をしていた。


 マシャとの正妻争いをしているところは見どころだった。


 王女との学生ランデブーを夢見た人は多く嫉妬と悪意の視線を受けていた。


 現在は放課後、ハロルとシルヴィは同じ剣術部であり、今はでかい部室に二人で練習をしているようだ。


 剣の国とあり学園の剣術部は大の人気の部だ。騎士団長の娘さんや侯爵家の嫡男、どこかの国の王子様が所属したりしている。共通するのはみんな美男美女ばっかりだ。


 人が多すぎて外でやっている人もいる。外でやっている人たちは中でやっている人たちと違いレベルが低い。実力主義の部活のようだ。


 それにしてもシルヴィの剣には色がないな。無色透明。どこにでもあるありふれた剣才。嫌いじゃない。


 僕は話題の二人を部室の外から覗いているマシャという構図を学園の屋上のフェンスを越えた少し出っ張っているところに足を宙に出して座って見ている。


 普段屋上に入るのは禁止でカギがかかっているのだがソウルで合いかぎを作って侵入した。


 視野を広くし王都の景色を見る。スラム街と違いしっかりとした建物や見上げるほど高い建物など見慣れないものが多い。その光景を見ると世界の広さを感じる。


「何か面白いものでもありましたか?」


「ふぉ!?」


 二人がいちゃこら剣で付き合いしているのを見ていると後ろから話しかけられる。どうせ誰も来ないと油断していた。驚いた僕は体を宙に放り出してしまった。


 咄嗟に左手の中指と人差し指ででっぱりを掴む。このまま体を登るのは簡単だ。だがそれは僕がこの三か月で集めてきた目立たないための指南書、アルティメットヘイボンのデータを上回ってしまう。


 落ちるのもダメ、登るのもダメ。ならば方法はただ一つ。


「すいませ~ん。引き上げてくれませんか」


 助けてもらう、これが正解。


「ごめんなさい。私、足が悪くて」


 僕に話しかけた顔も知らぬ彼女は足が悪いようだ。ムムム、それはまずい。


「なにか、棒状のものとかないかな」


「孫の手ならありますけど」


 孫の手か、頼りないが登るきっかけがあればいいや。


 思ったより細い孫の手が頭上に差し出される。その手を掴むと餌にかかった魚のごとく思いっきり上に釣り上げられた。


 そのまま体が宙に舞いコンクリートに叩きつけられる。


 か弱いお嬢様を想像していたからここまで持ち上げる腕力に驚いた。とはいえもう少し優しく持ち上げてほしかったなぁ。


 打ち上げられた僕は腰を上げ、当の彼女とご対面する。


 銀色の髪をしている青白い蝶の髪飾りが特徴的なショートヘアの美少女。その容姿はシルヴィに似ている。そして、車いすに座っている。


「助けてくれてありがとうございます。エリス王女」


「どういたしまして。ジーノ・ホープ君」


 こんな目立たない日陰者みたいな存在も把握してるなんて。


 ちなみにホープという名はあの孤児院出身のものに与えられる名前だ。ハロルやルキスもこれだ。


「なんで知っているのかという顔ね。ヒントはさっきあなたが見ていたものよ」


 僕がさっき見ていたもの? ラブコメの三角関係の現場を見ていただけなんだが。


 まさか、僕のあずかり知らぬところで僕を巻き込んだ三角関係が勃発しているのか!?


「妹の彼氏の身辺調査の中であなたのことも知っているわ」


 なるほど、そっちのほうか。


「そうですか。それじゃあ、失礼します」


「ちょっと待ちなさい」


 早く切り上げようと踵を返したところを止められる。


「あなた今、私に助けられたでしょう」


 何か嫌な予感がする。


「恩を返す義務がある、そうよね」


 活き活きしている声が体を震わせる。


「こういうのはお返しをしてほしいと声に出すより、心の中にしまっておくのがかっこいいと思うのですが」


「あれぇ~、なぜか屋上の鍵が開いていたなぁ~」


「何なりと王女様」


 そこを突かれるともうごまかせない。端正な顔していい性格をしていらっしゃる。再び踵を返し膝をつき、ペットのように命令を待つ。


「そう、それでいいの。お願いなんだけど妹、シルヴィとハロル君を監視してほしいの。学生らしいお付き合いをしているかどうかをね」


 そんなのほかのだれかに頼めよ、というか自分の従者とかに命じろよ思ったが飲み込む。人の事情に深く突っ込むのはあれだしね。


「ちゃんと報酬はあるわ。ほら、前払いとしてこれをあげる」


 エリスはまっ平らな胸の谷間から一切れの紙を取り出す。その紙切れは僕にとってはお金よりも価値のあるものだった。


「調査はついているわ。あなた、シュバルツが大好きなのよね。これは今度マルイデパートで行われるシュバルツのイベントで作者ネロと握手できるチケットよ」


「二十四時間、セコウムレベルで監視させてもらいます!!」


「ふふふ、物わかりのいい子は好きよ」


 エリス様の忠犬として頑張ります!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る