ちょっとだけ見せてあげるよ

 部屋に入ってきた兵士を体当たりして倒したジーノがもう一人の兵士に蹴飛ばされた。


「「「ジーノ(くん)!!」」」


「あれ? あそこまで吹き飛ばすほどの力は入れてないんだが」


 ジーノを蹴飛ばした兵士は首を傾げつつもハロルたちのいる部屋へと入ってきた。


「痛くされたくなかったら、おとなしくしろ」


「マシャ下がっていろ」


「う、うん」


 マシャの前にハロルとルキス、二人が前に出ている陣形となっている。


「死なないようにか。面倒だな」


 互いに戦闘の体制をとる。ハロルとルキスはアイコンタクトをして動き出す。


「くっ」


 日常的にともに鍛錬しているハロルとルキスのコンビネーションは完璧で兵士は翻弄され押されている。


 無理に同時に対処しようとした兵士は体制を崩したところを見逃さず二人は畳みかける。


「「おりゃああ」」


 二人の渾身の一撃を受けた兵士は倒れる。


「「よっしゃ」」


 それを確認した二人は拳同士をぶつける。


「ふ、二人ともまだ」


「はぁ~、あんだよ。ガキの見張りもできねぇのかよ」


 騒ぎを聞きつけたルイが三人の前に立ちはだかる。ハロルとルキスは掛け声もなく同時にルイへと向かう。


 が、二人同時にルイの剣の鞘に吹き飛ばされる。そして、後ろにいたマシャともども壁に打ち付けられる。


「うぅ」


 マシャとルキスは意識を失うがハロルだけは意識を保っていた。ルイは道中に倒れている兵士を蹴飛ばし、ハロルに近づいて髪を掴んで持ち上げる。


「ほんと手間かけさせんなよ」


 ハロルを地面に叩きつけようとしたその時、部屋の外からコツコツと足音が聞こえる。ルイは視線を背後に向けるとそこには月明かりを反射した幻想的な漆黒を纏った仮面男が佇んでいた。


「何者だ。貴様」


 ルイはつかんだハロルの髪を放して向き直りながら問いかける。


「俺の名はカラス。闇に羽搏く一羽の害鳥さ」


 そう語る男の仮面から見える口は口角を少し上げていた。


「カラス? 無名風情がこのPTB、アリエス派のナンバー4であるこの俺に! ハハハ、笑えるぞ」


 ルイは顎が外れるほどに声を上げて笑う。カラスは表情を変えることなく佇むだけだ。


「死ね。道化」


 ルイは高速で近づき剣をふるう。だが、どこからともなく現れた剣に防がれる。


「なに?」


 ルイはすぐに終わると思っていた相手に防がれたこと、そして鍔迫り合いで全く押せないことに理解が追い付かない。


「どうしたその顔は。ナンバー4、それがお前の本気か?」


「ほざけ!」


 一度距離を取ったルイはパチンコ玉のようなものを投げつける。カラスはそれを弾こうとした時、玉が爆発した。


「ハハハ、ざまぁみろ。俺をなめるからこうなる」


「異能か」


 異能。一部の人間にしか発現しない特殊能力。ルイの異能はパチンコ玉を爆発させる能力のようだ。


 カラスは先ほどの爆発をものともせずに話を続ける。


「磨かれず、輝きのない宝石は宝石にあらず」


「はぁ?」


「わからぬならそれでいい」


 馬鹿にされたと感じたルイはさらに力が入り大ぶりな一撃を放つ。カラスはその一撃を弾き、ルイの剣を持っている右腕を突きさす。


「ぐぁ」


 ルイは剣を落とし、刺された右腕を抑える。


「おい! 誰か!! 誰かいないのか!!!」


 ルイの声は部屋を超えて建物を駆け回るがそれに応える声はしなかった。それほど広すぎるわけではない建物であることを知っているルイはとある事実へとたどり着く。


「ま、まさか全員……」


 カラスは声は出さずともその答えを肯定するかのようにさらに口角を上げる。


 その顔を見てルイの顔は恐怖へと変わる。破れかぶれにパチンコ玉を爆破させるが全く効果がない。


「今日は気分がいい。少しだけ本気を出してやろう」


 カラスはそう言って剣を持っていない左手を突き出し人差し指だけを天へと向ける。


 すると、その指を中心に大気や大地のソウルがその一点へと集まっていく。まるで世界が味方をしているかのように。


「何なんだ、そのエネルギーは? 何なんだ、お前は!!」


 ルイは気を抜いてしまえば自分自身があの指先に飲み込まれてしまうのではないか、そう感じるほどの圧倒的なものだった。叫んでも意味がないというのに叫ばずにはいられなかった、自分自身を保つために。


 エネルギーの収束が終わる。ルイはこれが最後の光景だと察する。


 そんなルイの前でカラスは口を開く。


「超絶スーパーウルトラデンジャラス、バースト」


 そう言い終えるとパチンと指をならす。同時にエネルギーは白き光となり解き放たれた。


 それはルイの世界を一気に白く染め上げた。まずは視覚、次に聴覚、嗅覚、味覚、最後に触覚。そのすべてを奪い取った。


 ハロルたちを閉じ込めた牢屋も、月光を拒んだ石垣もすべてを飲み込んだ。


 光が消え去ったのちに残ったものは黒き衣装をまとった男と三人の少年少女だけだった。

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