やられるほうも大変なんだよ

「捕獲してきました。ルイ様」


「ご苦労だ。案内しろ」


 月明かりがわずかに差し込む薄暗い部屋の中、年は二十代前半くらいだろう。金色の髪をバーバーヘアに纏めているルイと呼ばれた男が兵士から報告を受けている。


 ルイは扉の前へと兵士に案内された。


「ガキどもの様子は?」


「未だに意識を失ったままです」


 ルイは扉の鍵を開けて中へと入る。部屋の中は牢屋で隔たれてハロルたちが手足をロープで縛られ、眠っている。


「一応、暴れたら取り抑えて構わん。薬の実験体が死んでしまっては適わん」


「了解しました」


 ハロルたちの様子を見たルイは踵を返して兵士と共に部屋を出ていった。








「ふむ、どうするか」


 誘拐された僕は次にどうしようかと考えている。


 連れ去られて二時間。まだ意識を取り戻さないハロルたちを見つめて過ごしていた僕は暇を持て余していた。目立たないよう一番最後に意識を取り戻そうと思っているのでやることがない。


 途中でルイ? と呼ばれていたやつが様子を見に来ていたがすぐにどっか行ったため退屈しのぎにはならなかった。


 手足を縛っていたロープはちぎれやすくなるように全員分に切り目を入れていた。少し力を入れればちぎれるだろう。


 それにしてもこのロープ、魂具か。


 魂具とは特殊な性質を持つ道具のことだ。ソウルに関わる性質を持っているものが多いようだ。


 このロープはソウルの操作を阻害する性質を持っているようだ。僕にかかればこんなもの無問題なんだけどね。


「うぅ」


 おっと、ようやく主人公様のお目覚めのようだ。まだ意識失ってるふりをしてっと。


「ここは?」


 状況を理解していないようだ。そうだろうな。連れ去る手際は敵ながらあっぱれだったからな。


 ハロルの声に反応してかほかの二人も意識を取り戻したようだ。


「牢屋? 牢屋! なんでこんなところに!?」


 ここがどこかわかったようだ。マシャがパニックで大きな声で騒ぎ出す。そんな声を出したら……


「うるさい! 静かにしろ!」


 ほら怒られた。部屋の外にいる見張りの兵士の声が響く。


「俺たちをどうするつもりだ!!」


 二人が声に怯え静かになる中、ルキスは狼狽えることなく問いかける。


「静かにしろと言っている! 貴様らに教える義理はない!!」


 兵士は質問に答える気はないようだ。ぎりぎりっとルキスの歯を食いしばるような音が聞こえる。


 僕はこのタイミングで目覚める。


「ここは?」


「どこかに捕らえられたようだ。これからは静かに話そう。また怒鳴られたら面倒だ」


 ハロルが落ち着いた声で諭すように説明してくれる。


「これからどうする?」


「隙を見て脱出。けどまずはこれをどうにかしなきゃ」


 ハロルの言うこれとはおそらくこのロープだろう。ソウルの強化がなくても思いっきり引っ張ればちぎれると思うが、しょうがない。


「ふん……あ、切れた」


 力を入れてロープをちぎって見せる。


「じ、ジーノどうやって」


「お、思いっきり力を入れたら切れたよ」


「本当か」


 ハロルとルキスもロープを千切る。


「……ごめんだけど私のも千切ってくれる?」


 マシャはロープを千切れないようだ。ハロルがマシャのロープを千切る。


「あ」


 ロープを千切るときに手が触れたようだ。マシャの顔が少し赤くなる。こんな状況でも恋愛要素。いいと思います。


「次はこの鉄格子だな」


 ハロルとルキスは脱出で頭いっぱいのせいかマシャの様子には気づいていない。すばらしいテンプレだ。


 話を戻して鉄格子だがここも僕が対処する。


 三人の死角から目にも止まらぬ神速の剣で鉄格子を断ち切る。重力に従い鉄の棒は地面に落ちて音を立てる。


「「「なに!?」」」


 突然の出来事で三人は驚く。


「何事だ!!」


 大きな音を聞いた兵士が部屋のドアを開ける。


「やあああああああ」


 三人が状況を理解して行動を起こす一手前に僕は兵士に体当たりをかます。


「ぐおぉ」


 鍛錬された兵士だろう。とっさの判断で身体強化をするが僕の攻撃はそれをいいぐらいの強さで押し切る。はたから見れば不意打ちに対処できなかったと見えるだろう。


 兵士を壁に叩きつけて気絶させる。一仕事終えたと兵士から離れると横から衝撃を感じる。そのエネルギーに従って吹き飛ばされる。


 この展開は予想通りだ。もともと外に兵士が二人いることは知っていた。違和感なく退場するための行動だ。


 もう一人の兵士の蹴りの威力は吹き飛ばされるほどではないがわざとその方向に飛んだのだ。


 そしてそのまま壁を突き破って冷たい床へと突っ伏したのだった。

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