ダンジョン探索3
「やばいやばいっ!」
すっかりぐっすり寝ていた夏瓜は、ぷーんと蚊の音が聞こえて目が覚めた。夏が終わっても蚊がいるのか……と思いつつ、しっかりと潰しておく。
横を見れば、夏瓜と一緒になって寝ているワサビがいる。空はすっかり黒く染まって、下に行くにつれてグラデーションで橙色になっている。綺麗だなぁとか思いながらも、音を立てる腹の虫に苦笑い。
「いや、風邪ひいちゃうわ。ワサビ、起きるわよ」
「んーなんでございましょうかぁ」
寝ぼけ目のワサビは放っておいて、夏瓜はご飯を作るために動いた。
クーラーボックスを開けると拾ってきた柿がある。その隣にある木箱には、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎがあった。ちなみにこれは前にSPで出した『木箱』だ。
半分とかに切断された野菜を取り出すと、ミニテーブルの上に置く。同時に余っているタッパーも持ってくる。そのままナイフで切っていく。ニンジンの皮は剝いてあるし、ジャガイモの目も取り終わっている。
玉ねぎを切るときはどうしても目に染みて「ううう」と呻いたけれど、目をこすらないようにして玉ねぎを切った。余ったものはタッパーへ詰める。
小さく切った野菜は鍋で炒める。同時に隠し味で柿も加えた。渋柿じゃないのは確認済み。
そうしたら鍋の中にレトルトカレーのパウチをぶちまける。
「ナツリ様! 美味しい匂いがしますね?」
「でしょう?」
水も適量入れる。箱買いした2リットルの天然水だ。
少しかき混ぜて、それから
水が吹きこぼれてきたら強火にして、最後にひっくり返して飯盒を開けた。重石にはそこら辺にあった石を使っている。
カレーをご飯の上に少しだけよそえば……。
「よし、レトルト柿カレー完成よ」
「さすがナツリ様っ!」
持ち上げられた夏瓜は少しだけ照れながらも「いただきます」と言う。
ワサビの分はせっかく洗った顔がカレーでドロドロになってしまうだろうし、そもそも食べれるのかも分からないのでよそわない。
可哀想だけどカットしたただの柿を与える。それでも喜んでくれるワサビは優しい子だ。
「んー美味しい! お母さんの味だなぁ」
「ナツリ様はオカアサンなんですか?」
「ん? 違うよ、お母さんは私のお母さん。お母さんがいつも作ってくれるの、柿カレー」
今回はレトルトのだったけどね、と言いながらご飯を食べ進める。
実のところ、デイリーを進める関係で、自分で削って作った木製のスプーンや箸がたくさん余っていたのでいい機会だと思いながら使った。煮沸消毒した上、ささくれないようにホームセンターで買ってきたヤスリを使ったから大丈夫だと思う。
それから食器を風呂小屋で洗って、自分も風呂に入った。
スーパーで買った食器用洗剤も増えるんじゃないかと風呂場に置いておいたけど、そんなことはなかったので今はキャリーワゴンの中に入れてある。毎回毎回取りに行くのも面倒だけど、仮にも風呂場に食器用洗剤があるのはいかがなものかと思ったので我慢した。
それから布団に入って就寝。
ワサビもテントの中に入れてあげたいけど、残念ながら足が泥まみれの子は入れられない。「ごめんね」と言ってワサビとは別れた。
(ワサビ用の犬小屋を作ってもいいかも)
そう思ってタブレットを取り出す。
見てみたらあるにはある。SPは1500要るみたいだった。夏瓜は少し悩みながらも、今のSP残量……9000SPを見る。
「もう少しで一万か……ちょっと考えよう」
昼間寝ていたのも原因か、そう言ってその日はずっとタブレットを触っていた。
❋
それでも朝はやってくるもので、寝不足の夏瓜はあくびをしながらテントから出る。
朝は軽めにただのカレーを食べて、それから歯磨きをするために風呂小屋へ行った。食器用洗剤は置いていないけど、歯磨きセットは置いてある。それなりに広いからどんな洗い物もできるから便利だ。
もはや第二の家……と思いながら歯磨きを終えて、さあ探索三日目だ。
今日もワサビを連れて歩く。
こんどは南西からずっと真っ直ぐ進んでみる。山や森の中は方向感覚が狂いがちだけど、こちらには最強のワサビがいる。
そう思っていたときもありました。
「あーワサビって方角が分からないんだった」
「ごめんなさいです」
とりあえずは地図アプリを確認。地図上の自分を指すマークはこの間のように突然飛んでいた。でも今度は以前と見え方が違う。
地図は大きく広がっていて、現在地、未探索の場所、テントという形で埋まっていた。つまり短距離の転移をしたんだろう。そう考えて、じゃあこのまま歩いてみようと進んでみる。
「ナツリ様! 見てくださいっ」
ワサビの言葉に前を見ると、そこには
「おお、すごいよワサビ。水が透き通ってて魚が見える」
「本当ですね! ワサビたちはすごい発見をしたのかもしれません」
目をキラキラさせて言うワサビに苦笑しつつ、水に手を付けてみる。酸の水とか考えてなかった。
触るとひんやり冷たい。
底は落ちたらやばそうなぐらい深いけど、片膝をついて気を付けながらワサビを見る。
「ワサビ、これって飲み水かな」
「うーん。ちょっと待っててください!」
「あっ、落ちないでよ!」
ワサビはがぶがぶと水を飲むと、こちらを向いてにぱっとした笑みを浮かべる。
「ナツリ様! これ、魔力水ですよ!」
「ま、まりょくすい?」
「はい! 魔力が生き渡った不純な水でございます。冒険者にはとても美味しい水として知れ渡っていまして……」
ダンジョンってことは冒険者もいるよね、なんて思いながら、とりあえず水を空のペットボトルに汲んでみる。こういうときのために、空になった2リットルペットボトルを持っていてよかった。
汲み終わったら夏瓜もその手で飲んでみた。
「あ、甘いね。ちょっとだけ舌触りがいい?」
「そうなのです。魔力水は濃厚で滑らかなのでございます!」
自慢げなワサビに笑うと、とりあえずこの重たい水を持ち帰ろうと家に向かって歩いた。
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