ダンジョン探索2


 森の中を歩いて分かったことがある。

 夏瓜はワサビの案内でテントを中心に円を描くように歩いたのだけど、まずここがダンジョンだって確証が持てたのが一つ。


「これ、崖じゃなくて壁だったのね……」


 鳥居はどちらから見ても崖に張り付いているのだけど、異世界側の鳥居はどこまでも続く岩壁に張り付いていた。

 夏瓜は別に、それを不思議に思うことはなかった。でもよくよく考えてワサビに聞いてみると、ここがダンジョンの端であることを教えてもらった。


「残念ながらワサビにはここがどの方向か分からないのです」

「方角、苦手?」

「そうなのです。でもワサビは確かにこのダンジョンで生まれました」


 そんな話をしながら、偽物の空を見上げる。これって上から見たら四角形の箱庭に見えるのかな。それがどれくらい広いか分からないけど、マップを全部埋めれたら嬉しいだろうなと考える。

 それから太陽を観察しているとここが南西の端っこなのが分かった。これは憶測でしかないけど、太陽は四角の角……東角から上がって西角に下がるのではないだろうか。そう考えてから、まあ今は分からないことだしいいかと探索に戻った。

 食べれるものはヤマナシ、柿、銀杏ぎんなんなんかがあった。なんでも生えてるなと思いつつ、もっと探してみる。


「ナツリ様ナツリ様、これは栗ではないですか?」


 ワサビに言われてそちらを見ると、大きな栗の木があった。けれどまだ青そうで、また来ようということになった。場所はワサビが覚えていてくれるそうで、彼は本当に有能だった。

 それからぐるぐると円を描くように回っていると、ダンジョンの壁に大きな洞窟を見つけた。そこはスロープのように下がっていて、どこか不気味だ。


「ワサビ、これは?」

「分からないです。でも、ダンジョンの構造物なのでもしかしたら第六階層に向かう階段かもしれません。ワサビは、今行くのはやめておいたほうがいいと思います!」

「そうだね……」


 考えてみればダンジョンだから、この階層だけってことはないだろう。テントからも近いし、もし、ここからより強い魔物が来たら嫌だなと考える。封鎖しようか迷ったけど、今の夏瓜にはふさぐ力さえないので諦める。

 また歩き出そうとしたけど、ワサビが日暮れの匂いがすると教えてくれたので一旦テントに戻ることにした。


 張り切って二日目、タブレットの地図アプリを見ると結構な範囲が埋まっていた。ここら周辺はもう分かるな……と思っていると、栗の木の近くを歩く夏瓜の元に、赤い点が猛スピードで向かってきていた。


「ねぇワサビ、これってなに………」


 夏瓜がそう言ってワサビの方を向いた瞬間。

 ワサビは大きな化け犬になって牙が異様に長いイノシシを食い止めていた。

 意味が分からずはくはくと息を漏らしていると、大きな犬になったワサビはイノシシを押して押してその歯で顔面を食いちぎった。


「ナツリ様! 今晩のご飯が取れました!」

「う、うん」


 相変わらず血生臭い光景にはなれず、夏瓜は少しだけえずく。一度視界からワサビを外して、再度見るといつもの大きさで口元を真っ赤に染めたワサビがいる。軽くホラー体験だった。


「とりあえず……洗おうか」


 そう言って夏瓜はテントの方向へと歩いた。

 性懲りもなくイノシシを引きずろうとするワサビには「めっ」と叱っておいた。

 風呂場でワサビをごしごしと洗う。意外と汚れていて、胡麻毛だからと気づかなかったことには反省。気持ちよさそうなワサビを見て、次からはこまめに洗ってやろうと決めた。


「人間用だったけど大丈夫そう?」

「はい! ワサビはナツリ様と同じ香りがして嬉しいです!」


 ここのシャンプーやボディーソープは不思議なことに無限だ。トイレのペーパーも無限だ。不思議なことだけど、まあ神がいるぐらいだしとびっくりすることもなかった。

 ぶるぶるぶると水を切るワサビ。

 ドライヤーがないからタオルドライしかできないけど、まあ自分も同じだし仕方ない。ワサビには日光浴でもしてもらって、それで乾かそうと考えた。

 さすがにこの状態で森に入る勇気はないので、キャンプ用品と一緒に持ってきていたレジャーシートを広げてそこに寝転がる。ここら辺はオーナーが開拓したのか開けているのでよかった。

 差してくる日差しに眠くなってくる。

 ワサビは楽しそうに駆け回っていた。足の方に土がついているがまあ見なかったことにしよう。


「あー気持ちいいな」

「どうしました、ナツリ様!」

「ううん、なんでもない」


 こんな幸せな時間があってもいいんだなって思って、いつかこの空気が美味しいダンジョンにお母さんや喜久を呼びたいなと考えた。今はもちろん、危険すぎて連れてくることができないけど。

 なら開拓するべきだなって思って、タブレットを開く。


「うーん柵立てるのも有りかな。その前に伐採か」


 伐採は日本でも資格なしで出来るのだっけ。でも正しい使い方を学んでいないのは怖いな。それかおの? 斧はあんまり使い慣れてない。なたならいつも薪割りで使っているけど。

 そんな事を考えているうちにうっつらうっつらしてくる。

 秋とはいえまだまだ残暑の範囲内だ。日本より涼しいとはいえ寒いってことはない。だから夏瓜は眠ってしまったのだろう。

 その日はワサビと駆け回る楽しい夢を見た気がした。


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