神という人は


 夏瓜がログハウスでゆっくりとしていると、ガタンという音が聞こえてくる。そちらを見ると、随分と綺麗な女性がいた。

 背中に流れる空色の髪と、焼けた肌の上の赤い瞳。背は見上げるほど高くて、夏瓜はぽかんとする。


「ボンジュール? マドモアゼル」


 とても美しい彼女はそう言った。

 突然のフランス語に驚いていると、彼女はからりと笑う。ちょっと綺麗でいいなと思った。夏瓜は自分の童顔が好きだけど、それでもこういった美人な顔には憧れる。


「はじめまして」

「ふふ、はじめまして。私はホル、名もなき世界の第二神の一人さ」


 丁寧なお辞儀に夏瓜もつられてお辞儀する。

 確かに、神と言えるほど神々しい。主に美しいって意味でだけど。


「ホルさん、こんにちは」

「ホル様……お久しぶりです」


 いつものようにニコニコと笑うオーナーと、少し緊張していそうな千世。千世のうっとりとした瞳はまるでホルに憧れているような目だった。関係性に首を傾げていると、ホルは馴れ馴れしく千世を叱る。


「私の事は呼び捨てで構わないと言っただろう」

「ホルさん、千世ちゃんにそれは無理なことって分かってるだろう?」

「む、ならマンサクだけでも……」

「私もそれは譲れないな」


 親しげに話す三人を見守っていると、「おっと」と言ってホルは夏瓜の方を向いた。


「まず、私の結界が緩んでいたようだね。本当に申し訳ない。不備はないと思っていたんだが」

「あ、いえ。大丈夫……ではないですが、実際、獣がテント付近に近寄ってくることはたぶんなかったので大丈夫だと思います。むしろ不用心に歩き回った私が悪いというか……」

「そうか? そうだな。そういうことにしよう」


 うんうんと頷くホルに少しだけ顔を引きつらせていると、ホルは一転して「解決したし肉を食べよう!」と言った。

 別に謝罪を求めていたわけじゃあないけれど。それにしたって素直に受け取るなと苦笑。

 それからオーナー夫妻はバーベキューの準備をすると言って行ってしまった。夏瓜を神と二人きりにするの!? と思わずムンクのように叫び声をあげそうになったけど、ぐっと我慢をする。

 ホルはドカッとソファに座ると、夏瓜に座りなさいと言う。

 なんというか神だから自己中心的なのかなって思って、失礼なことを考えたとかぶりを振った。


「あの、第二神ってなんでしょうか」

「あー私ともう一人、生意気ながきのことだよ」

「は、はぁ」

「ナイショだけど、あいつは変わってるから真面目そうな君は会わない方がいい」


 こっそりと教えてくれたホルに、思わず夏瓜は笑った。


「あはは、私はそんなに真面目じゃないので」

「確かに、私相手に笑う子は珍しい。……さては、信じてないな?」

「正直なところ、昨日のこと含めて夢なんじゃないかと」

「夢だったらよかったのにな。君はもうあちら側の人間でもある」

「あー……受けなければよかったですかね」

「私としては嬉しいからな。もし受けなくても君の心を操ってまで受けさせるよ」


 ぞっとおぞましい顔で言ったホルに、思わず夏瓜は硬直する。

 なんで夏瓜なんだって気持ちが湧いた。けどそれを聞けるほど勇気は持ち合わせていなくて。夏瓜はオーナーたちが早く帰ってこないかなと居心地が悪そうに身じろいだ。


「怖くなった?」

「……まあ、はい」

「素直だね。真面目じゃないにしても素直すぎる。そんなところが好きなんだ」


 今度はおどけて言う。

 何が本当か分からないまま暫く待っていると、千世が夏瓜たちを呼びに来た。


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