魔剣とルームシェア

奇想しらす

一日目 八剣健太とエクススレイブ

 八剣健太やつるぎけんた、29歳。

 うつ病発見から7年、教師になって4年。

 教師だけでは暮らしが安定せず、親の仕送りに頼るのも申し訳ないので、ルームシェアを始めた。

 12階建て、2LDKで、日当たりも良い。

 手続きは済んだ、あとは同居する方との関係。

「ここか」

 505ごーまるご号室、緊張でドアからオーラが出てる気がする。

 まずは笑顔で明るくいこう、優しい人だと良いな。

「お邪魔しまーす」

 返事がない。

 ゆっくりとドアを開け、リビングを覗き込む。

 そこには美青年という言葉がよく似合う男性がソファに座っていた。

 手続きの時、書類で見た顔だ、彼の名前は睦月子太むつきこた

 北欧寄りの顔立ちで、日本から出たことが無い私はその姿に最初びっくりした。

 テレビから出てる音を聞くに男はドラマを見ているらしい。

 右手にコップを持ちながらドラマを見てるだけで絵になるな。

 この主題歌、今話題の逃誉にげほまじゃないか。

 これは夢中になって返事をしないのも頷ける。

「む」

 あ、気づかれた。

 男は顔をこっちへ向ける。

 白い肌、整った髪、長いまつげ。

 特徴的な深い紫色の瞳。

 書類はモノクロで怖かったが、生で見るとすごく綺麗だ。

 男は右手に持ったコップを置き、左手でリモコンを取り、テレビ消す。

 立った、でっか!

「よく来てくれた、そこに座ってくれ」

 男が手で指した先に目を落とすと4人分のイスとテーブルがあった。

「失礼します」

 私はカバンを床に置き、木製のイスを引き、座る。

 その向かいに男が座る。

「改めて、私の名前は|睦月子太、仕事の事情で日本に来た。日本の文化学習も兼ねて来たのでいろいろ教えてくれるとありがたい」

「私は八剣健太、教師をしております、生活費を節約するために応募しました」

「私は話し相手が欲しかったのでな」

「えと、ルールを決めませんか」

 お互いが気持ちよく過ごすためにルールは必須!

 ついでに睦月さんのことを知れるチャンス。

「分かった」

 来た!

 私はカバンから白紙とペンを取り出す。

「まず、家賃は半々で良いですね」

「うむ」

「料理はどうします?」

 3年間の一人暮らしで料理はかなり出来るが、毎日となると大変だ、せめて3日はやってほしい。

「私もやるが、あまり得意ではないし、レパートリーも少ない」

「分かりました。いつやるとかは」

「先に起きた人、先に帰ってきた人がやるというのは?」

「なるほど」

 あとはなんだろうな?

「……お風呂とかどうしますか」

「私はシャワーで良い」

「私も……ですね。あ、まだ聞いてないんですけど私の部屋はどこですか」

「後ろに廊下があるだろう」

 身体を捻り、後ろを見る。

 睦月さんの言う通り、廊下がある。

 そして、ドアが並んでいる。

「左側にあるのが、浴室、トイレ、私の部屋。右側に物置、そして君の部屋だ」

「分かりました」

「さて」

 睦月さんはおもむろに立ち上がり、私の前に立つ。

「健太、もう一つルールを追加するぞ」

「な、なにを決めます」

「私、いや、我の正体についてだ」

「え?」

「我が良いと言うまで目を閉じていろ」

Lift the my fake真実を明らかに

 そう言ったと思えば、瞼を貫いて強い光が目に刺さる。

「良い」

 ゆっくりと目を開けるとそこには――剣が浮いていた。

 鍔の所には睦月さんと同じ深い紫色の眼がついていて、それ以外は普通、よくゲームや漫画で見るロングソードだ。

「これが我の真の姿、そして真の名はエクススレイブという」

 どこから声が出てるのか分からないがさっきまでと同じように会話出来ている。

「……」

 私は声が出なかった。

 目眩で体勢を崩し、床に倒れる。

 視界も歪み出し、部屋の様子もおかしい。

 驚きで、恐怖で、もしくは興奮しているのか。

 とにかく私の体調は不良となった。

「あ……」

「声が出せぬのか、今力を弱める、呼吸は忘れるなよ」

「スゥーハァー」

 深く息を吸い、ゆっくりと吐く。

「こんぐらいか」

「!」

 魔界のような魔王城のような禍々しい部屋がパッと元の部屋に戻る。

「ハァ、ハァ」

「初めてみたぞ、ここまで魔力に耐性がない者は」

「すぐに慣れますので、安心してください」

「では、改めて」

 エクススレイブは睦月の姿に戻り、手を差し出す。

「生活に支障が出ぬよう、気をつけるゆえ、よろしく頼む」

「はい」

 私はエクススレイブの手を取り、立ち上がる。

 ここから、私の魔剣とルームシェアが始まった。

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魔剣とルームシェア 奇想しらす @ShirasuKISOU

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