復興

執行 太樹

 

 


 さち子。


 今あなたは、何をしていますか。そちらの暮らしは、楽しいですか。そちらでも、あなたの好きだった、お庭に水やりでもしていますか。


 今年の初め、あなたは急に居なくなりました。それは、本当に急なことでした。いつものように一緒にお節料理を作って、次の日に一緒に食べようね、と言っていたのに。いつものように作りすぎてしまって、一緒に笑っていたのに。残念ながら、一緒にお節料理を食べることは、出来ませんでしたね。

 今年は、初詣にも一緒に行けませんでしたね。毎年参っていた重蔵神社も、後日に行ってみたら、地震で崩れてしまっていました。


 あなたは昔からせっかちで、直ぐにどこかに行ってしまっていましたよね。そして、すぐに私のところに戻ってきて、私が注意してもケロッとしていました。今は、一体どこにいるのでしょうか。いつ、私のところに戻ってくるのでしょうか。


 あれから4ヶ月もたったのに、まだあなたが居なくなってしまったなんて、信じることができていません。今日も、私が床の間でお茶を飲んでいるとき、ぽつんとあなたも隣に居るようで・・・。


 いつだったか、昔一緒に瀬戸内海の方に2人で出掛けましたね。場所は、たしか小豆島でした。春風にあたりながら、島の景色を、一緒に眺めましたね。あの時は、楽しかったですね。


 私は、あなたの姉で良かったと思いました。あなたは、いつも天真爛漫で、気分屋で、少しせっかちで・・・。

 そんなあなたの姉で、本当に良かったと思っています。


 今もこうして、布団に入ったときに、あなたの事を思います。考えても仕方ないのに・・・。前を向かなきゃと思っているのに・・・。

 昔から泣き虫で、駄目なお姉ちゃんでごめんね。あなたは、こんな私の妹で良かったと思ってくれますか。


 能登半島地震の復興は、未だに進んでいません。あなたの暮らしていた家も、崩れたままです。あなたの好きな場所だったお庭も、津波にさらわれて、無くなってしまいました。あれから4ヶ月もたったのに、何もしてあげられなくて、ごめんなさい。


 神さま、どうか願いが叶うなら、誰も悲しまない国に、私たちみんなを連れていってください。

 あれから4ヶ月、妹を失った悲しみは、癒えることができません。そして、これからもずっと・・・。

 もう、こんな悲しみを、誰にも味わってほしくありません。こんな辛さを、誰にも感じてほしくありません。

 幸せな国がどこかにあるのなら、どうか神さま、私たちを連れていってください。


 さち子。助けてあげられなくて、ごめんね。あなたに会いたいです。今あなたは、どこにいますか。


 さち子・・・。






この物語はフィクションです。実在の人物や場所、団体などとは関係ありません。

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復興 執行 太樹 @shigyo-taiki

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