第3話
婚約者がいるのに、恋に興じる――それそのものが、あまり褒められた話でないことは周知の事実だ。
割り切った恋ならば目を瞑ることもできたが、中にはより条件の良い相手に
しかしながらそれも卒業後の爵位の違いといった問題点から表沙汰になることはなく、文句をつけようにも同じ派閥の上位貴族であった場合は慰謝料すらもらえず泣き寝入りなんてこともあり得るのだ。
かといって今更学園で男女を分ければその問題が国中に露呈することも危惧され、そのままにされているのである。
「……大丈夫かな、オーウェンのやつ」
「きっと大丈夫よ」
「でもさ、手紙が全然来なくなったじゃないか」
「学園での生活が忙しいって書いていたでしょう? 友だちもできて毎日慌ただしいって」
「それはそうだけど」
アナに届く手紙が、日に日に減っている。
学園でのその恋愛による悪い噂を、ベイア子爵家では子供たちに隠すことなく伝えていた。
もしそのような輩がいたら、決して仲良くなることはなく距離を置くように。
人の婚約者を奪うような真似をすることも、婚約者がいるのに擦り寄るような真似をする輩も、信頼できる相手ではないのだから。
そしてそのような人物と付き合うということは、自分たちもそれと同じ人間性であると知らしめているようなものであると。
「お父様も仰っていたでしょう? 決めつけるばかりではなく、自分の目で見て、耳で聞いて、判断するべきだって」
「……手紙の文章が減って、当たり障りのない内容だけになった。それだけでも疑わしい」
「もう、ヨハンったら」
「それに! お前の誕生日をただ一言で済ませたのが一番気に食わない!!」
「それはヨハンにとってもそうでしょう?」
家族ぐるみの付き合いでは誕生日を互いに祝い合うなんてことはよくある話だ。
それはオーウェンとアナが婚約者であることもそうだが、将来的に義理の兄弟となるヨハンにとっても同じで、
自分のために怒ってくれる双子の弟がいてくれるから、アナは取り乱すこともない。
ヨハンが言うことは、少しだけ気になってはいるのだけれども。
(それでも、まだ……本当に忙しいのかもしれないし)
学園の様子を語るオーウェンからの手紙は、とても楽しげだった。
毎週届いていた手紙が月に二度になり、一度になり、長期間の休みはとうとう戻ってこなくなってきた段階で不安は疑いに変わっていた。
それでもアナは、旅立つ前のオーウェン・ブラッドリィを信じていた。
信じたかったと言ってもいいのかもしれない。
父が選んだ相手、幼い頃からの婚約者。
学園に行くまでの間に積み重ねてきた信頼と時間が、彼らの間にはあったから。
だから誠実であってくれと、願うのだ。
まるで子供のようだと思いながらも。
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