第12話 第一章 完 『旅立ち』


「怖くない…なんてことはないよイヴ。ボクだって1人の獣人だよ…死ぬことが決まってるなんて言われたら、さすがのボクも怖いかな。………でもね。それ以上にイヴが頑張ろうとしてくれてるでしょ。そう思えるとなんかね…ボクも頑張らなきゃなって思えるんだ…」


 ライラさんはこちらを向き、優しい表情で答えた。

 

 …ライラさん…


 ライラさんの話を隣で聞いて、「そんな風に思ってくれるんだ」としんみりしてしまったが、ライラさんは私の顔を見ると少し恥ずかしさを覚えたのか顔を赤くしつつ、おでこに強烈なデコピンをしてきた。私もあまりの痛さに「いてっ!」とおでこを押さえた。


「だ〜か〜ら、ボクもこの村で頑張るから、イヴも頑張ってきなさい。元気に帰って来なかったら許さないんだから…」


 ライラさんは顔を赤らめながらも優しい言葉をかけてくれた。


 それにしても…


「ライラさん………おでこ…痛いです…」


「ぷっ!、、、あはははは、もう何してるの〜…イヴももう9歳なんだから我慢なさい」

 

 思った以上にライラさんのデコピンは痛かった…


※ ※ ※


 最後はもちろんお父様とお母様だ。


 私はライラさんと別れ、今は自宅で家族会議中の最中だ。私の前には、お父様とお母様が真剣な面持ちで座っている。


 今までの話をお父様、お母様には話したが、皆様には今までいっぱい話してきたので以下略とする。


「ごめんなさいね…イヴ…大婆様からイヴに関しての予言は聞いていたのだけれど、別れる未来があったとしても、どうしても私たちの子供が欲しかったの…本当にごめんなさい…」


 お母様は涙ぐみながら私に頭を下げてきた。だがこれは決まっていたことだ…お母様たちは知らないが、アルテミス様はきっとどんな手を使っても、私をこの世界に呼んだはずだ。それにだが、9年間この世界で生きてきて、狩りをしたり、魔法の勉強をしたり、言ってしまえば、元の学校生活より毎日楽しいことばかりだった。産んでもらって感謝でしかない。


 私は涙ぐむお母様に笑って答える。


「いいえ…お母様、私は気にしていません…旅立つ予言がされていても、今日、この日まで楽しく毎日過ごしてきました。それにお母様、旅立つとは言っても一生会えなくなるわけではありません。絶対に私はこの家に帰ってきます…約束します…」


 そう言うと、お母様は何度も「ごめんね」と言いながら、私の元へとやってきて抱き寄せてくれた。私も普段涙を流すような性格ではなかったが、お母様に抱き寄せられた時に、今までの楽しかった思い出が脳裏をよぎり、自然と目から涙が流れてきた。


「イヴ!、、、頑張ってくるんだぞ!そして絶対に帰ってくるんだぞ。帰ってきたあかつきには、お前の好きなビックブルの丸焼きを作ってやろう」


「ほんとにっっ!!」


「もちろんだ!それに今日だってビックブルの盛り合わせだ!!」


「わぁぁぁ〜!!ありがとうございます、お父様!!」


「も〜、あなたったら帰ってきたらって話だったじゃないの〜」


「えっっ!?、、、あぁ〜、、いいんだ!今日は娘が旅立つ前夜祭だ、、、ぱぁっといこう、ぱぁっと!!」


 その夜、私は楽しい夜ご飯を家族で楽しく過ごした。


※ ※ ※


 次の日に朝になり、私は神装飾に着替え、村の入り口に用意されていた竜車の荷台に乗っていた。


 入り口には予言の噂が流れていたのか、たくさんの村の人たちが顔を出してくれ「がんばれよ〜」と声をかけてくれた。


「それではのぉ…おぬしの無事を祈っとるぞ」


「はい、御勤め果たしてきます」


「イヴ、、、しっかりね」


「ライラさん…はい!頑張ってきます」


 大婆様とライラさんと話したあと、お父様、お母様がこちらに近づいてきた。

 

「イヴ…これを」


 お父様が手紙のようなものを一通渡してきた。なんだろうと思い、裏面を見ると、そこには王都の紋章が入ったシールが貼られていた。


「王都に行った時、衛兵にでもいい…これを渡すんだ。知り合いが王都にいてな。きっとよくしてくれるはずだ」


「ありがとうございます。お父様!」


「イヴ?ちゃんと毎日水浴びするのよ。それと歯磨きも!荷物にちゃんと歯ブラシ入れておいたから…それと髪と尻尾もちゃんと乾かして…」


「だ、、だいじょ〜ぶですよ、お母様!毎日しっかり手入れします!!」


 私は津波のように押し寄せるお母様の言葉を苦笑い混ざりで受け取った。


「それでは行きますぞ」


 前から竜車の主人の声が聞こえた。出発の時間のようだ。


「それではお父様、お母様。そして村のみんな!行ってまいります!!」


 私が村のみんなに別れを告げると、竜車がガタゴトと音をたてながら進み始め、私は村のみんなが見えなくなるまで手を振り続けた。



『絶対にこの村を…この世界を好き勝手にはさせない』



 私の脳内にはアルテミス様にもらった力のおかげか行くべき場所がわかる。


 まずは南の大陸。バルマン大陸にある『アチアチマウンテン』だ。きっとそこにアルテミス様の力の1つがある。


「よ〜し、、、頑張るぞ〜!!」


 こうして予言通り、イヴ•ローレンヴェルグは9歳で旅に出ることになった。



       第一章 旅立ち 完


 




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