第16話. 君の味噌汁を毎日飲みたい

 シアを握っていなくても、少しなら翼を出して飛べるはず。目を見開いてなんとか……。


 弱々しい2枚の羽を出し、ゆっくりと飛び上がった。


 はぁ……はぁ……よし、これで後は窓を開けて外に出れば。


 魔法で窓を開き、外に出た。シアは壁に寄りかかってうずくまって嗚咽していた。


「シ……うわぁ」


 胸から地面に叩きつけられた。シアを呼ぼうとしたが、翼の魔力を維持しきれなかった。


「レクロマ、大丈……何しに来たの。あなたに私はもう必要無いでしょ」


 シアは一瞬心配したようだが、怒っている振りを続けた。


 シアは俺を壁に立てかけて座らせた。


「まさか、さっきの聞こえてた?」


「聞こえてたよ。ごめんシア、勘違いさせて。実はさっき注文した武器は、シア用の武器なんだ。シアは魔法は得意だけど、武器を持ってなかったから、あった方が便利だと思って」


 シアは口を開けたまま少しの間動きを止めていた。


「は? え? 何で言わないの?」


「俺の武器だと思わせて、サプライズで渡そうかと思ったんだけど、失敗しちゃった」


「じゃあ、私が勝手に勘違いして喚き散らしてただけ。ははっ……私バカだ。レクロマは私を信頼してくれているのに、私はレクロマのことを信頼できてなかったみたい」


 シアは両手で目を押さえて泣いていた。 


「ごめんね、レクロマ。いつも一緒にいてくれてありがとう」


 シアは涙を拭って俺に笑いかけてきた。


「それはこっちのセリフだよ。シアは俺にとって大切だし、俺だって離れたくない。俺はこんな風に俺はシア無しじゃ何もできない、生きていけない。こんな弱い俺だけど、ずっと背負ってくれませんか」


「もちろん、こちらこそ。レクロマ、私が一生、背負い続けるからね」


 シアは俺を横から強く抱きしめた。 


 あぁ、幸せだ。ずっとこうしていたい。


 ……だめだ、俺が幸せなんて感じちゃいけないんだ。俺にそんな権利は無い。


 シアは少し不安そうに俺を見ていた。


====================


 俺はシアに背負われて鍛冶屋に来た。今日が待ちに待った武器の受け取りの日だ。


「おう来たか、できてるよ。ほら」


 鍛冶屋の主人は黒と淡い赤の木目のような模様がある豪華な指輪を台に置いて差し出してきた。中心には赤い魔硝石が取り付けられている。


「えっ……何これ。武器じゃないの?」


 俺、武器で注文したはずだよな。


 主人は待ってましたと言わんばかりの顔で笑いかけてきた。


「いやいや、これは武器ですよ。持ち運びやすいような形状にしてあります。アルド・ベリオールの鱗と魔力の伝導性が高い金属でできた木目金に、魔力を増幅するための魔硝石を取り付けました」


「木目金に、しかも魔硝石なんて……そんなにお金は無かったはずじゃ」


「気にしなくていいよ。アルド・ベリオールの鱗なんてお宝、最高の出来にしたかったから勝手にやっただけだ。ほらほら、シアちゃんに指輪をつけてあげなよ。シアちゃんも待ってるよ」


 シアは何かを考え込んでるような顔をしている。


「シア、降ろしてくれ」


 シアは聞こえていないようで、そのまま何かを考え続けていた。


「シア?」


「あ、あぁ……ごめんなさい」


 シアは俺を降ろして立膝にして座らせた。鍛冶屋の主人も出てきて俺の体をシアの方に向け、俺の両肩を持って支えた。


「シア!」


「は、はい!」


 俺は魔法で指輪を動かして目の前に持って来た。


「左手を」


「はい……」


 シアは左手を差し出した。


「指輪は邪魔にならないように薬指につけるよ」


 ゆっくりとシアの指に指輪を差し込むと、シアはとても嬉しそうに微笑んでいた。


「ありがとう、レクロマ。永遠に使い続けるよ」


 シアは指輪を何度も見て、感慨深そうに撫でている。


「気に入ってくれたみたいで良かったよ」


 シアが俺を背負うと、鍛冶屋の主人は店の奥から2枚の板を持って出てきた。


「それでこの指輪はな、少し魔力を込めることでこの剣と盾の複合武器を高速で動かすことができるんだ。それに、この複合武器を媒介にして魔法を放つこともできる。これは、太ももにこのベルトを着けることで、太ももに取り付けることができるから携帯性も高い」


 店主はベルトを差し出してきた。


 すごいな、アルド・ベリオールの鱗がここまで化けるなんて。


「試してみても良いですか?」


「もちろん良いよ」


 そう言ってシアが左手を振ると、鍛冶屋の主人が持っていた複合武器が浮き上がり、空中で高速に動き回り、シアが人差し指を軽く動かすと氷を纏った。


「すごい扱いやすいです。魔法を発動させるイメージも、自分の体と全く変わりません」


「そうだろ、俺の最高傑作だからな」


「これで、これから村を出ても安心して戦えます」


「村を出るのか?」


「はい、レクロマのやるべきことを果たすために」


「そうか、薄々そんな気はしてたよ。いつも森に出て何かしてるって聞いてたしな。絶対に死ぬなよ。レディンもエレナさんも悲しむからな。頑張れよ」


 鍛冶屋の主人は俺とシアの肩に手を置いて俺たちを鼓舞してくれた。


「ありがとうございます、また帰ってきます」


 シアは鍛冶屋を後にしてレディンさんの家へと向かった。


「レクロマ、この複合武器に名前を付けてよ。名前があった方が使いやすいでしょ」


「分かった」


 それじゃああの単語から取って……最後の部分を削って……


「フェアロー、っていうのはどう?」


「いいね……凄くいい」

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