偽カップルチャンネル、高校を卒業して4年目に突入します
お仕事辞めたい...
終わってしまえば、いい思い出です。
青春という二文字とは対極の生活を送っていたであろう俺。瀬名透の高校生活の一番の思い出は、良い意味でも悪い意味でも、柄にもなく在学中にyoutuberになってしまったこと。その一言に尽きるのだろう。
もちろん、触らぬ神に祟りなしを教訓にして生きてきた様な俺が、性格上、自分からyoutuberになりたくてなったわけでないことは、今ここではっきりと言っておく。
そう。とどのつまり、半ば全然関係ない奴らの罰ゲームに巻き込まれる様な形で、高1の頃の夏、俺は不本意ながら動画配信者の仲間入りをしてしまったというところだ。
それも、ゲーム配信者やグループ系、学習系などの配信者ではなく...
まさかの、クラスの1軍美女であった綾瀬川 愛と、カップル系youtuberの仲間入りを結果として果たしてしまったのだから、最早、出来事としては意味がわからなさすぎる。
まあ、そうなってしまった理由は実にバカバカしいこと。高校1年生の頃の夏休み直前、不運にもクラスの陽キャラ達のものすごくしょうもない遊びに、3軍男子の俺が巻き込まれた。それ以上でもそれ以下でもない。
さらに、もう少し具体的な理由としては、綾瀬川が何かの罰ゲームの内輪ノリでyoutuberデビューをすることに。
それだけなら勝手にやってくれという話でしかないのだが、そこでクラスのふざけた野郎の一人が「どうせならクラス一のモテ女とクラス一のモテない男の組み合わせでカップルチャンネルとか面白くね」とか言い出したかと思っていると..
何故か俺が、いつのまにかその相手役に選ばれていた...。
それも、いいオモチャが見つかったとばかりにニヤニヤとした糞陽キャラ男どもの独断と偏見で。
「は?」となった。
それはもう「は?」となった。
勝手に相手役に選ばれたどうこうとかではなく...
俺がクラス一モテない男なのか?と。
確かに、俺はイケメンかどうかと言われればイケメンではない。別に、友達だって多くはない。性格がいいかと言われれば別に性格もいいとは思わない。とびぬけて学業が優秀かと言われればそういうわけでもない。
ただ、別に自分で言うのも何だが、俺がクラス一モテない男...?
それは違うだろうが。いや、違っていてくれ。とその時は心の中で大声で叫んだ記憶が鮮明にある。
確かにモテた実績はない。皆無だ。ただ、さすがに、クラス一ではないだろうが、と。まあ、実際に「俺がクラス一モテない男はおかしいだろ」と周囲の女子達がいる中で口にするのは、ちょっと恥ずかしすぎて無理だったから心の中でではあるが。
そして、俺は抗議を挟みつつも、とある条件によって結果的に首を縦に振ってしまうことになるのだが、まあ、そもそも彼女役の綾瀬川が、相手が俺に決まった途端に露骨にやる気をなくしたこと、そして俺がクラス一モテない男では実際にないこと、いや、ないことを信じていることもあって、何もかも中途半端。どうせ動画が伸びることもなく、夏休みに数本とって終わりだろうと普通に思っていた。
それが...
それが結果...
あろうことか、エグイほどバズってしまった。
それはもうバズりにバズってしまった。
別に始めた当初からいきなりバズったわけではない。ただ、彼女。綾瀬川愛が本物の美女であることは事実であり徐々に彼女のファンが増えていってしまった。
撮影の裏側では「私、普通に好きな人がいるから勘違いだけはしないでよ」とゴミの様な目で俺に言ってくる様な彼女も、どうせやるなら有名になってやろうとでも思っていたのだろう、撮影中は、まるで人が変わったかのように視聴者や俺に向かっても、ものすごく眩しい笑顔で愛想を振りまくプロ彼女。
素人ながらも、そんな彼女に対してファンが増えていくことにより、じわじわと伸びていたチャンネル登録者数が開始から約1年ちょっと経った夏休みの終わりには、月の収益も1カ月のバイト代と同じぐらいは稼げるような数にはなっていた。
そして、それから少し後の秋ごろだったと思うが、偶然にもどこかの有名なまとめサイトやtwitterで、俺たちのチャンネルの話題がどうやらとりあげられたようで、まさかの登録者数が爆伸び、そこからは指数関数的にうなぎ登りに増えていき、高校の卒業式を迎えた去年の3月時点では、えぐすぎる数の登録者数、そして収益を手にしてしまっていた。
気が付けば、当初は撮影中以外では一言も無駄な会話を交わさなかった彼女ともそれなりに会話を交わすようになり、撮影が苦と思うこともなくなっていた。
思い返せば、本当に彼女とは色んなことがあった。
色々とあったが、最終的に俺はyoutuberになることを、あのバカどもに承諾した一番の要因...。
蒸発した親父の残した膨大な額の借金を無事完済できたどころか、大学にまで進学できるようになり、結果オーライすぎる3年間となった。
そして、先月の卒業式当日の夜、俺たちは無事にカップルチャンネルを惜しまれながらも解散し、今はお互い別々の大学で新しい生活を歩んでいるところだ。
収益のこともあるからだろう。彼女はまだ続けたかったみたいだが、彼女の人生を考えれば、さすがにこれ以上はといったところだ。
なんせ結局、俺はその相手も知っているが、このチャンネルのせいで、彼女は好きだった男と結ばれずに卒業。収益に関しては後悔もあるが、彼女程の女性が大学でまでそういうことになるのはちょっと居た堪れなさすぎると思い、まあ他にも色々と将来のことも考えて、最後の更新では今までの3年間の関係が嘘の関係であったことを視聴者の人たちには告白。やましいことは何一つなかったこともしっかりと報告し、俺たちは完全にチャンネルを閉めたのだった。
本当に、当初は俺を相手役に選んでオモチャにしてきた糞野郎どもや、俺に不遜な態度をとってきていた彼女には恨みしかなかったが、今やそれもいい思い出の1ページだと思えてしまう。
彼女も最終的にはチャンネルに愛着があったのか、最後の撮影中にぽろぽろと涙を流していたのは記憶に新しい。
まあ、彼女であれば一人で活動を再開してもすぐにまた人気者だろう。
そしてとりあえず、俺は今、これから通う大学の入学式が終わったところ。
こうして、実際に大学に通えるようになったことも嬉しいが、もう一つ俺には今朝、それはもう嬉しい出来事があった。
そう。警察から連絡があり蒸発していた親父が見つかったとのこと。
するとそんなことを考えている俺のスマホにはタイムリーに着信が入る。画面には『公衆電話』の文字。
もしかして....
「はい。瀬名です」
「と、透か?」
「お、親父か?」
そう。俺の耳には電話越しではあるが確かに忘れもしない親父の声。
「す、すまん。透。借金...」
そうか。もう親父の耳にも完済したことは届いているか。
「いや、別にいいよ。もう終わったことだし」
そう。死ぬほどムカついていたことは事実だが、もう結果論、完済できた。そんなことより今は親父が見つかったことが何より嬉しい。
「いや、また、借金ができてしまったんだよ...」
は?
「それも、前以上の...」
「は?」
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