Golden week share with you.

坂中祐介

第1話

 ここは、新宿のK書店である。

 店員のナオトは、今日も、ゴールデンウイークでも、仕事をしている。

 2024年5月5日。

 今日は、「こどもの日」である。

 端午の節句とは、言っても、最近、柏餅を食べていない。

 いやだな、今日も、客が多いけど、やはり、立ち読みをして帰るだけの人も多いと気がつく。

 そして、いつも、店内で、スマホで、本を検索している客がいる。

 こんな時、ふと感じる。

 確かに、Googleのユーザー評価やらAIの評価へ人が、流れるのも分かる。

 だけど。俺だって、店員だぜ。

 そして、スマホを使うこと自体、ナオトだって、電車の中では、よく使っているが、そうではなく、たまには、店員に頼って欲しいといつも感じる。

 ゴールデンウイークでも、ナオトは、一生懸命、仕事をしている。もう、40代半ばになっているけど、以前は、他の業種で仕事をしていた。家電量販店で仕事をしていたが、年齢を重ねて、子供の頃に帰りたくなってきた。

 そう、ナオトは、子供の時、ユゴーの『レミゼラブル』に感動をして、涙を流していた。

 以前の家電量販店をやめたのは、もう、好きな本に囲まれたいと思った。そして、運よくここの書店が、拾ってくれた。

 それでも、世間は、そんな本が好きな程度では、書店の仕事はできないと分かる。いつも、K書店へ来ても、やれ、店員の態度が偉そうだ、いつも、発注通りに、商品が届かない、とか、売れ残った書籍を、また、出版社へ返すしかなかった。

 新宿からJR山手線で、品川まで出て、JR横須賀線総武線快速で、千葉県市川市まで帰っても、仲の良い友人なんてできない。

 ナオトは、本当は、作家になりたかった。

 だけど、そこまでの行動力も元気もなく、今に至っている。

 または、歌手の山本彩さんが、好きでも、現実は、そんないつも、いつもめぼしい彼女ができるほど、世間は、甘くなかった。

 ああ、山本彩ちゃんのような美人はいないだろうか?

 と、もう、絶望になっていた。

 作家になれず、また、友人家族と疎遠になり、ゴールデンウイークでも、頑張っているオレに、彼女はいないか?ああ、もう、いないんだ、と思っていた矢先だった。

 ただ、最近では、あまり、恋愛をテーマにした小説、漫画、映画をみなくなった。

「すみません」

「はい」

 と見てみたら、そこに、山本彩ちゃんに似た客がいた。

 年齢は、30歳前後だろうか?

「新橋イチロー『東海道純愛組』って、どこにありますか?」

 まるで、妄想が現実になった瞬間だと思った。

「すみません、新橋イチローさんの『東海道純愛組』は、只今、在庫切れでして」

 いや、生きていたら、良いこともあると、ナオトは、少しだけ思った。ただ、ナオトは、そんな中、本当は、「お宅と付き合いたいのですけど…」と言いそうになっているのをぐっとこらえて、案内をした。

 客の名前は、「戸村サヤカ」とあった。

 いつも、YouTubeで山本彩『365日の紙飛行機』の動画を見て、ひとり、家でこっそり歌っている。

 カウンターへ案内をして、山本彩似のお客さんに、用紙に記入してもらった。

 電話番号も、記入して貰った。

 夕方6時になって、ナオトは、横須賀線総武線快速で、千葉県の市川駅まで帰った。

 総武線快速を下りて、ナオトは、自分のハイツへ帰った。

 そして、ナオトは、帰ろうとしたら、目の前に、同じ時間に、総武線快速千葉行きから、下車した女性が、気になっていた。

 そこには、K書店の紙袋を持っている女性が、いた。

 何だか気になるな。

 あの人。

 10分ほど、歩いて、2階の部屋に入ろうとした。

 そして、「こんにちは」と、ナオトが、言ったら、彼女も「こんにちは」と言った。そして、「あの」「はい」「今日、新宿のK書店で、会っていませんでしたか?」とサヤカは、言った。

 その日の夕飯は、総武線市川駅前で、二人で、もんじゃ焼きを食べたらしい。それが、ナオトのゴールデンウイークの思い出になったようだ。<完>

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