29時のノスタルジア

プロローグ

　4月1日生まれと4月2日生まれ。

　169センチと170センチ。

　23時と24時。

　ほんの少しの差、でもその壁が大きい。たった１つならそれはほぼ同じじゃないか、と頭を悩ませたことがあるけれど、その意見を通すとなるとあらゆる均衡が崩れ落ちてしまう。

　四捨五入やグラデーションの概念が許されないこと。それは時に爽快で、時に残酷。

　ベッドの上、スマホの画面に映し出されているのはスクランブル交差点。趣味は人間観察。ライブカメラが生み出された時代に生まれて良かったと心の底から思う。

　しばらく見つめた後にスマホを伏せてみると、部屋の中の様子がぼんやりと浮かび上がる。徐々に空が明るくなってきたらしい。

　もう一度スマホを持ち上げる。ロック画面に表示された、5月1日と4:50。

　私はまだ、それを迎える準備が出来ずにいた。