第10話 おっさんと聖女、感謝される

「おお! たこ焼き! たこ焼きがあるぞ! リズ! リズ!」


「はいはい、お皿に取りましょうね」


 レッドドラゴンを討伐した俺たちは、町の人から熱烈な歓迎を受けていた。

 広場にテーブルを広げて、沢山の料理を振舞ってくれる。


「た、隊長! このたこ焼き食べていいんだよな!」


「ああ、もちろんだ。あとこれも美味いぞ、スタールの肉串は名物なんだ。それと俺はデイルって言う」


 自警団の隊長が、肉串を俺たちに渡してくれた。


「おお! 隊長! これ知ってるぞ! 店前で焼いてたやつだ! リズ! リズ!」


「はいはい、じゃあこのお皿に入れておきましょうね。さきにこちらのたこ焼きを食べましょう」


 リズがたこ焼きを俺に渡してくれた。肉串は別の皿に盛ってくれている。

 なんていい子なんだろう。


「リズの夫となるやつは最高だな」



「ええ!? 夫って……!!」



 リズが顔を赤くしてたこ焼きを頬張る。

 わかるぞ、熱いけどここは一気にパクリといく気持ちが。


 では俺も頂くとするか。


「―――っておい! 3個も同時に食べたら火傷するぞ!」


 デイル隊長が何やら騒いでるが、それどころではない。



 ―――うまぁあああ!!



 やはりたこ焼きは最高だ。



「だから、3個は無理だって言ってるだろ。涙出てるぞ、おっさん」


「いえデイル隊長、バートスは大丈夫です。たぶん美味しくて泣いてるんです」

「ええぇ……どういう口してんだ……」



 まわりが何か言ってるが、美味くてもはや聞こえない。さて、続いて肉串を……


 これも美味いぃいいい!!


 焼きたてだし、やっぱ肉はいいな!



「「「まだまだあるからたくさん食べてね~~」」」

「おお、それはありがたい! 遠慮なく頂くぞ!」


 初めてこの町に来た時とは大違いだ。


「ところで聖女様たち、明日は王都に向かうのか?」

「ええ、デイル隊長。レッドドラゴン討伐の報告をしなければなりません」


「なら、宿屋を手配しておくよ。遠慮なく使ってくれ」


「……はい。ありがとうございます」


「では、存分に楽しんでいってくれ」


 隊長が去った後も、リズは町の人たちに感謝されまくっていた。


「なんだか今が現実なのか、良く分からなくなってきました」

「リズは人気者だな」


「こんなにお礼を言われたのは初めてですから……」

「ハハ、もっと言われるようになるぞ。聖女様」


「まあ……そんな言い方して。では、そうなるように頑張りますね。私の従者さま」


 透き通るような銀髪をフワリと揺らして微笑んだリズ。


 出会った時とは全然違う、良い笑顔になってきた。



「―――あの、聖女さま」


 俺がリズの様子を微笑ましくみていると、誰かが声をかけてきた。


 ああ、服屋の夫婦だな。


「聖女さま、ありがとう! 町を守ってくれて、俺たちの店を守ってくれて!」

「ごめんねぇ、噂だけで判断しちゃって。あたしは聖女様に酷い事言っちゃったよ」


 2人とも申し訳なさそうに頭を下げる。


「頭を上げてください。お礼は嬉しいですけど。謝罪はいりませんよ」


 リズがそう言うと、照れくさそうに顔を上げる夫婦。


「いやあ、マジで感謝してる。本当にありがとうな!」

「あんた、聖女様にむかってなんて口の利き方だい! この子は凄い子なんだよ!」

「いやまて、それはお前の方だろう!」


 夫婦のやり取りを見て、思わず笑ってしまうリズ。

 その様子を見て、笑い出す夫婦。


「ごめんねぇ聖女様~~あたしたちのような庶民にお貴族様な話し方は無理みたいだよ」


「はい、大丈夫ですよ。私も普通に話してもらえると嬉しいです」


「ありがとね~~。あ、そうだ! お礼と言っちゃなんだけど、あんたたちの服をみつくろってあげるよ」

「おお、それはいいな! 聖女様の法衣も煤をかぶって、随分くたびれているようだしな。おっさんも来な、男物もしっかり揃えてるからよ」


「……でも」


「遠慮なんかいらないよ~~さあさあ、行くよ!」


 良く分からんが俺たちは夫婦のお店に行くことになった。

 取り合えず、たこ焼きと肉串はもう少し貰ってから行こう。




 ◇◇◇




「おお! 白もいいな! リズ!」

「まあ! とってもいいじゃない! 清楚でまさしく聖女様ね!」


 服屋に行って早速新しい法衣を着たリズ。


 輝かしい純白が、彼女の銀髪とよく合っている。

 俺も服屋のおばさんも大絶賛だ。


「ええ、なんだか心も洗われるような気分ですね。本当に頂いてしまってよろしいのですか?」


「もちろんよ、こんなお礼しかできないけど。それに、聖女さまがあたしらの店の服を着てるって自慢できるからね」


「フフ、わかりました。では遠慮なく頂きますね」


 おばさんは俺の服も用意してくれた。

 頑丈なズボンに、上着を着てみる。なんでも燃えにくいらしい。


「おお! これで多少は燃えないのか! これは助かるな!」

「この服、耐火性の魔法が付与されているようです。バートスもとっても似合ってますよ」


「お二人さんの門出に服を贈れるなんて、うちとしても光栄だね。

 あ、そうだ聖女さま―――」


 おばさんがリズをクイクイと手招きする。


「このワンピースも着てみて」

「え? でも私ここ数年ずっと法衣しか着てなくて……」

「何言ってんだい! 17の女の子なんだ、もっとオシャレしないとね」


 なかば強引に試着室に入れられたリズ。

 しばらくすると中から、黄色いワンピースを着た美少女が現れた。


「うわ~~聖女様~~やっぱり似合うねぇ~~~」


「ば、バートス。ど、どうでしょう……似合ってますか?」


 俺をチラチラ見ながら、少し頬を赤くするリズ。


「ああ、とってもかわいいぞ」

「え! か、かわいい? 本当に?」

「当たり前だろ。元よりリズはかわいいからな」

「も、元より!! そ、そうですか……」


 リズは姿見鏡の前で、何度もクルクルと回ってはムフっと笑っていた。


「どうやら気に入ったようだね」


「はい、ありがとうございます。お洋服で楽しんだのなんて何年ぶりでしょうか」


「ならそれも持ってきな!」

「ええ! それはいくら何でも悪いです」

「いいから! こんな美少女に着てもらったほうが、そのワンピースも喜ぶわよ!」


 その後もおばさんがあれやこれや持って来てくれたが、最終的に俺はズボンと上着を、リズは純白の法衣と黄色のワンピースをもらう事になった。


 うむ、新しい服はいいな。気分が良いぞ。



 服屋の夫婦にお礼を言ったあと、俺たちは隊長が手配してくれた宿屋に行き、フカフカのベッドに飛び込んだ。


「うわぁ~~フカフカだぞ! リズ!」

「………」


「どうしたリズ?」

「………スゥ……」


 リズはベッドに入るなり、ぐっすりと眠りに落ちていた。

 今日一日、色々疲れたんだろう。


 聞けば、ベッドで寝るのも久しぶりな事を言っていたしな。

 宿屋のお風呂にも感激していたし。


 こんな年端も行かぬ娘が、どれほどの苦難に直面していたのだろうか。

 俺は、リズの毛布をそっとかけなおして自分のベッドに向かう。


「バートス。ありがとう……」


 リズの寝言か。


 寝ているときまで礼を言うとはな……


 人間界に追放された時はどうなることかと思ったが、俺はよき上司に出会えたようだ。

 リズは俺に腹を割って話してくれたし。おっさんだからと邪険にしない。



 この職場は大事にしたい。



 さて、俺の今後の為にも、そして―――なによりリズのためにも、おっさん頑張るか。



 ちなみに翌朝起きたリズは、


「ふあぁあ! なぜバートスがいるんですか! も、もしかして同じ部屋で寝てたの? 私!」と飛び跳ねて、元気な声をあげていた。






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