第3話 おっさん、グレートスネークをボウッ!と燃やす

「なにをしているのです! はやく逃げなさいと言ってるでしょう!」


「うむ、それは無理な相談だな」


 だって――――――



 おっさん美少女に乗っかられて、がっしりホールドされているのだから。



 身動き取れないのだ。


「あ……」


 少女はようやく状況に気付いたのか、飛びのくように俺から離れた。



「―――早く! グレートスネークがきます!」


「ええ!?」



 グレートスネークって……町の人が言ってた魔物じゃないか!!



 それはヤバい!? どこ? どこ?



 俺はあたりを見回したが、それらしき魔物はいなかった。


 そうか、近づきつつあるってことか!



 少女は手にもつ棒をミミズに向ける。


「氷の精霊よ、その凍てつく槍で敵を突け!

 ―――氷結槍魔法アイスランス!」



 おお! なんか氷だした!


 魔法だな! すごいっ! かっこいい!



 彼女の放った氷の槍はミミズに命中するも、氷が四散してさほどダメージを与えていないようだった。



「クッ……魔法防御力が高い……私の魔法では……」



 どうやら困っているようだ。

 俺はよいしょと立ち上がり、彼女の前に立った。



 まあこれも何かの縁だ。ちょっとおっさん手伝うか。



「ちょ……なにやっているんですか! 早く逃げなさいと言ってます! あなた言葉わからないんですか!」



 ミミズがニョロニョロと長い体をくねらせて、目前まで迫っている。

 返答している暇はないので、俺は唯一の能力である【焼却】しょうきゃくを発動。



 ―――ボウっ!



 ミミズは俺の眼前で、燃えつきて灰と化した。



「う、ウソ……魔物を一瞬で……詠唱も無しにそんな強力な火魔法を使うなんて……」



 いや、これは魔法じゃないんだけどな。


 が、今はそれどころではない。



「な、なにを―――きゃっ!」 



 俺は速攻で少女を抱き上げて、森の中をダッシュで駆け抜けた。


 がむしゃらに走ってるので、木の枝がガンガン俺の顔面やら腕やらに当たりまくるが、そんな事を気にしている場合ではない。



 グレートスネークなんてヤバそうな奴には出会いたくないからな!


 ここは逃げの一択だ。


 町に続く街道沿いまで出てきたところで、俺は彼女をゆっくり降ろした。


「―――ふぅ。ここまで来れば大丈夫だろう」



「えと……なぜ急に走ったのですか?」


「ええ!? どう考えても今のはダッシュする場面だろ?」


「そ、そうですか……良く分かりませんが……と、とにかく助けて頂きありがとうございます。

 私はリズロッテ・フォルテヌスと申します」



 長い銀髪に紫の瞳。背丈は小さめで小柄だが、美少女というにふさわしい容姿である。

 そして、体型に似合わない2つの膨らみがすごい主張をしてらっしゃる。

 俺の上に乗って来た時にもその弾力が凄かった。


 衣服はかなりボロである。戦闘で汚れたというわけでもなさそうだ。


 しかしなんだろうか。顔の表情がな……


「あなたは……名のある魔法使いですか?」

「違うぞ。俺はただのおっさんだ。バートスってんだ」


 人間界にきてから、やたら魔法使いと間違えられるんだよな。

【焼却】は魔法ではなく、固有能力なんだが。


「バートスさまですね。助けて頂いてお恥ずかしい話ですが、手持ちがほとんどなくて……今の私にお返しできるものがございません」


「んん? 礼などいらない。たいしたこともしてないしな」

「何を言っているのですか、凄いことをしてます! だって、グレートスネークを!」


「んん? グレートスネーク?」


 いや、あの場にはミミズしかいなかったけどな。


「とろでなぜ森から飛んできたんだ?」


 寝ようとしていたおっさんのお腹に飛んでくるとか、普通じゃないからな。


「はい、森を探索していたらグレートスネークに襲われている人がいまして。彼らを逃がしていたら、尻尾に跳ね飛ばされてしまいました……」


 てことはグレートスネークと戦闘して、吹っ飛ばされたってことか。

 かなり飛ばされたのだろう。そして俺がクッションになった。モニュっと。



 速攻でダッシュして良かった~~

 出会っちゃいけない奴だよそいつ。



「バートスさまは凄いですね……それに比べて私は聖女なのに……」


 ふむ、なんだか言葉に元気がない。


「ところで、そのバートスさまってのはやめてくれ。バートスでいい」

「ええ……でもそれは」

「俺は「さま」なんてつけられる者じゃないよ。ただのおっさんだ。そのかわり俺もリズと呼ばせてもらおう」

「そうですか……わかりましたバースト」


 うむ。それでいい。バートスさまって言われると、魔界のカルラを思い出してしまう。

 元気にしているのだろうか、彼女は。


「ところでリズは聖女なのか?」

「はい……一応ですが……」


 俯きながら自信なく答えるリズ。聖女であることが嫌なのかな?


「そんなことより! お返しできるものがなにもないので―――これを」


 リズは手に持った杖を俺に差し出してきた。


「これは、聖女が持つ聖杖です。だいぶ傷んでますが、ある程度の値では売れるはずです」



 まったく……礼など不要だと言ってるのに。まじめな子だ。



「何言ってんだ。これはリズが持つからこそ意味があるのだろう? 簡単に手放すんじゃない」


 この杖。確かに汚れてはいるが、リズにとって大事なものなんだろう。吹っ飛ばされてきた時も、俺がダッシュで駆け抜けた時も離さずしっかり持っていた。



 そして、この子に会ってからずっと感じていたこと。


 リズの顔なんだが。



 ―――仕事を楽しんでないやつの顔だ。



 うむ、まあ乗りかけた話だ。


「なんだかわからんけど事情があるのだろう? おっさんに話してみろ」


 俺は差し出された杖を押し戻して、リズに問いかけた。





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