第26話 5日目ー11



 その日、王城では行政機関の長官と副長官に王の名で緊急召集が掛けられていた。


 本来であれば、御前会議は開催数日前に召集される段取りなのだが、今回は即日に開催が告げられた。

 更に異例な事に召された全員が議題も分からずに即時に大会議室に参集と告げられている。


 全員が揃い、扉番の近衛騎士が我らが王の入室を告げて後、会議室に登場すると会議参加者全員が目を疑った。

 昨日まではいつもと変わらない様子だった我らが王が、たった一夜にして憔悴しきった表情をされていたからだ。

 髪にも異変が現れていた。

 昨日までは年齢にふさわしく艶やかだった金髪が、一部白髪に変わっていた。


 その変わり様に、跪くタイミングが遅れる者が複数出た程だった。



 若くして王位について4年しか経っていない我らが王はまだまだ権力基盤が弱く、高位貴族との力関係で圧(お)され気味だ。

 特に父親である先王様の王弟だった筆頭公爵様の専横を許していた。


 世間では知られていなかったが、先王様の側近達は知っていた。

 先王様でさえ筆頭公爵様の影響力の大きさから扱いに困っていた、と。


 真面目で優しい性格の先王様は、第一王子と呼ばれていた頃から弟の第二王子に甘かった上に、政治的な腋も甘かった。

 筆頭公爵様は兄の先王様におねだりする外だけで無く、政治的手管で数多くの利権に食い込み、それを利用して支持者を集めたのだ。


 気が付けば、先王様もかなり配慮をしなければならない影響力を持っていた。

 


 そんな筆頭公爵様が狙っていた最大で最後の利権がドムスラルド領だった。

 だが、結果として、取り返しのつかない事態になっている。

 対策を打っているが、国庫への悪影響は目を覆わんばかりだ。


 

「全員が集まっておるな? では、始めよう」


 我らが王が開始の宣言をした。

 この事も異常で、通常ならば宰相殿の役割だ。

 その宰相殿でさえ、今回の議題を知らされていないのだから、我らが王以外の人間の顔に緊張感が走るのは当然だった。



「大精霊ゴックス様より、この地に新たな神が御来訪中という御宣託を受けた」


 

 この発言が参加者全員に言葉にならない程の衝撃を与えた。


 何故なら、新たな神降臨の予兆など無かったからだ。

 有り得るとすれば、ドムスラルド領放棄に関してだろうが、それも莫大な予算を投入して何とか対応の目途が立ってきつつある。

 もしかすれば、想定以上の規模に事態が拡大するのか?


 いや、全く違う危機が迫っているのか?

 

「ゴックス様曰く、ドムスラルド家の幼い兄妹を庇護する為に御来訪されたとの事だ」


 更なる衝撃だった。


 これは国の根幹に関わる事態だ。

 この国、正確に言えば王都と王家に庇護を与えているのは大精霊ゴックス様だ。

 その大精霊よりも上位の存在が別の一族に庇護を与える為に降臨したとなると、統治する権利というか大義名分が上書きされてしまう可能性が出て来ないか?

 


「大精霊ゴックス様の庇護を失うという事でしょうか?」


 宰相殿がいち早く立ち直って、質問をした。


 庇護を失わなければ、新たな神様の御来訪は一時的な事態として王権は存続出来る。


「ゴックス様曰く、我ら一族に対する庇護は継続するという事だ」


 その言葉を聞いて安堵する空気が流れた。



「ただし、ゴックス様曰く、敵対する可能性は否定出来ないとの事だ。何としてでも神意を知る必要が有る。建国以来最大の危機として動くぞ。各自、尽力せよ」



 しかし、手遅れであった。





 

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