第13話 4日目ー2


 おっと、他の家に泊めてもらった孤児たちが来たみたいだ。


「後で話そう。今は子供たちに『お使い』を頼みたい」


 家の外に出たら、孤児院の子供たち以外にも子供が居た。うん、母親が一緒の子たちも居る。

 好都合だ。

 リックとベスへの挨拶が終わった段階で声を掛けた。



「おはようございます。みなさん、時間は有りますか? もし良かったら仕事を引き受けて欲しいのですが?」


 急に言われて判断に迷っているのか、母親同士はアイコンタクトだけで相談している。

 何気に高等テクニックを使うんだな、こっちの母親たちは。


「えーと、魔獣駆除を仕事にしている魔法尉さんでしたよね? 私たち、魔獣とかはちょっと・・・」

「ああ、すみません、そう取られちゃいますよね。いえ、仕事内容は簡単です。雑草を集めて来て欲しいんですよ。道具はこちらで貸し出します」

「え? 雑草を集めて魔獣駆除に使うんですか?」

「いえ。食べられない雑草を食べられる小麦粉に変える魔法具を持っているので、それを使って昨日のお返しをしようかと」



 反応は劇的だった。

 雑草を小麦粉に変えられるのなら、食料の確保が格段にやり易くなる。

 家庭の台所を預かっているお母さん程食い付くはずだと睨んだ通りだ。


「それは本当ですか? 本当に小麦粉が手に入るのですか?」

「ええ。リカルド様、自分が小麦粉に変えている所を何度も見ていますよね」

「うん、確かにジョージが小麦粉に変えているところを見ているよ」

「そうだよ、ジョージオジサンはすごいの! おにくもたべさせてくれるの」


 ベス、ナイスフォロー。

 だけど、お肉の下りは要らなかったな。



 雑草集めの道具を家から持って来るように見せかける為に、一旦家の中に戻る。

 石と流木を取り出して、10セットほど麻袋とファインセラミックス製の鎌を造り出した。


 このファインセラミックス製の製品こそ秘密兵器だ。

 各家庭で使い潰した鉄製の包丁を集めて武器に変えるには、代替の包丁が有った方が捗る。

 そして、俺ならそれを供給出来る。いや、俺にしか無理と言うべきだろう。

 ファインセラミックス製品の欠点は強い衝撃を与えると刃毀れする可能性がつき纏う点だが、使えなくなってもまた造り直す事は俺には簡単に出来る。

 


 お母さんたちと孤児院のみんなに5セットづつ渡した。

 きっと、他のお母さんも採取したいと言い出す筈なので、エド爺が管理する様にお願いしておいた。

 まあ、このスラム街なら管理が出来ると思うのは流石に甘いかもしれないけど、みんなの表情や来ていないお母さんを呼んで来ようかしら、なんていう声を聞いたら期待もしたくなる。

 


 その日、10セットの麻袋とセラミック鎌は何人もの手を渡って、町に結構な量の小麦粉モドキをもたらしてくれた。

 まあ、麻袋以外で持って来ても受け付けたので、夕方前は大変な目に遭ったという事だけは明かしておこう。


 

 さて、奥様たちに雑草集めをお願いした後にする事は、孤児たちが住まう住居をどうにかするお仕事だ。

 

 石造りの小屋を出せる様な空き地は在るそうだ。

 曰く付き物件らしいが。


 だが、13人で住むには12畳のワンルームでは狭過ぎる。

 という事で、地下に6畳の2人部屋を予備含めて8つ造る事にした。

 その為の2段ベット8つの発注だ。

 他にも12畳のリビング、6畳のキッチン&食糧庫、6畳の脱衣所付お風呂場&トイレの部屋割りを考えていく。

 地上に据える石造りの小屋は来客用と倉庫に充てる。


 最終的に地上1階、地下4階にする構想になった。


 地上は12畳の石造りの小屋、地下1階は共有スペースの24畳、地下2・3階は共に6畳4部屋の24畳で、地下4階は水処理施設だ。

 神力の蓄えが1%を超えたからこそ出来る力業だな。


 水回りの配管と上水・下水の処理が面倒だが、これも力業で解決する。

 ほぼ「ISS《宇宙ステーション》」並みの水の循環を実現させる。


 まず、地下水脈の当りは付いているので、汲み上げ機能付きの井戸を地形操作で掘って、先に造った地下4階の水処理施設に放り込んだ後で各階各所の水場を巡る配管に繋げてしまう。

 下水も水処理施設で飲用レベルまで濾過した後で風呂場とトイレに回す。


 そうそう、空気循環の為の配管も結構手間だが、水処理施設で水を分解して酸素を取り出す事にしたので、地下の割に意外と息苦しくないし、新鮮な空気を供給出来る筈だ。



 で、それらの施設の動力源兼管理者には、あの路地裏の最初の転移からずっと俺につき纏っている蝶モドキを使う。

 いやあ、何度も転移をしたせいでかなりの神気を吸収したから進化して、気が付けば幼児並みの知性が備わった中位の精霊になってしまったからな。

 進化した精霊(今後は普通の精霊との区別化の為に「精霊+」と呼ぼう)に、その辺の野良精霊を使役して貰えば、十分に施設は稼働出来るだろう。


 残った精霊+たちには孤児たち専任に張り付いてもらおう。

 

 神気を少し滲ませると、一斉に俺の下に集まって来た。

 精霊が視える人間が居たら、20を超える蝶を身体に纏わせた間抜けな姿を晒す事になるな。


 『なになに?』という明確に分かる様になった思考が流れ込んで来る。

 こんな仕事をして欲しいというイメージを神気に乗せれば、何か知らんが嬉しそうに飛び回り始めた。蝶モドキの乱舞だ。


 これまでと違って具体的なイメージを乗せた影響か、知能面が更に成長した気がするな。

 しばらくすると、役割分担が決まったのか、それぞれが孤児たちに向かって行った。

 イメージの中には、攻撃なり危険が迫るなりするとバリアモドキを展開する事も入れておいたので、これで孤児たちの安全は確保出来るだろう。

 特に魔法での攻撃に対しては万全だ。魔法を撃たれる以前の問題で、その辺の野良精霊ににらみを利かせれば良いんだからな。 


 残った10羽(匹から昇進した)の蝶モドキにはもうしばらく待機してもらおう。




 みんなが雑草採集に行ってしまったので、俺はエド爺の案内で空き地に向かった。

 もちろん、リックとベスの兄妹も孤児院の仲間と一緒に出掛けた。



 うーん、着いた空き地は30畳くらいなんだが。

 有効利用するには問題が有ると言わざるを得ない土地だった。

 だからこそ、ギュウギュウ詰めのスラム街でも使われずに空き地として残っていると言えるな。


 空き地には結構大きな岩が幾つか鎮座していた。

 最大の岩なんか地上に出ている面積は6畳くらいで、俺の腰位の高さが有る。

 人力でどうこうしようにも重機が無ければきついな。一応何とかしようとしたのか、薄っすらとだが岩の周囲に掘り進めた跡が残っていた。

 その他の岩も邪魔の一言だ。

 

 土砂魔法で何とかしようとしても、普通に除去出来ないだろう。

 理由は主なもので3つ有る。


 1つ目の理由は属性魔法で何とかするにも全体像を把握出来ない点だ。

 精霊に土砂魔法を発動してもらおうにも、範囲を明確に指定しないと受け付けてくれない。

 この辺が空間を司る神力を持たない人類の魔法における限界だ。


 2つ目の理由は、巨岩に鉄鉱石や銅鉱石などが結構混じっているからだ。

 土砂魔法と金属魔法は相性が悪いんだよなぁ。術者の適性もどちらか一方の適性に偏っている事が多いからな。


 3つ目の理由は、単純に精霊の能力を超えているからだ。

 掘り返して細かく割って行けば可能だが、それで得られる土地の価値がそれだけの労力に見合わない。


 その3つの理由で、ここに在る巨岩群は王都の近くに在るにも拘らずに放置されていたんだろう。

 

 ま、ここに空間も把握出来て、魔法の相性にも関係無い術者が居るんだが。


 という事で、最大の巨岩から片を付けようか。


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