第6話 神の敵

「隠す必要などありません。シャルパンどの。ユークどののことは残念ですが、シャルパンどのに非はありません。訴追を受けることなどありませんのでご安心を」


「な、なんのことだか……」


「申し遅れました。私、【竜の里】担当聖騎士、ファーレンと申します。シャルパンどのの契約者が落命したのに里に戻らないと聞き及びまして、探していた次第です」


 これは隠し通せないな。まぁ、俺の正体までは気付かないはずだし、問題ないだろう。


「そうか。それはご苦労。ユークどのの乱心の件は残念だよ。だが、私はこうして次代の冒険者を育成している最中でな。感傷に浸っている暇などないのだよ。分かったらそう報告してくれ」


「承知しました」


 ファーレンは引き返そうとする。いや待て。こいつ、なぜ人間形態に変身したシャルパンの位置が分かった? まさか……


「では、二人もろとも」


 そう言ってファーレンは、身の丈ほどある剛剣を振り下ろしてきた。


 だが、シャルパンの巨大な爪が剣を両断した。どうやら腕だけドラゴン化させたようだ。


「手出し無用とのことでしたが、今回ばかりは例外ですよね?」


「そうだな。助かった、シャルパン。この邪気のかんじ、例の悪魔だ。すぐに憑依を解くぞ!」


 ファーレンは、漆黒の邪気を纏った腕で突きを繰り出してくる。


 が、前面に立ったシャルパンが全て避けきり、強烈なテールウイップでファーレンを弾き飛ばした。壁にめり込んだファーレンに向かい、シャルパンはゆっくりと歩み寄る。


「なぜ我が主を陥れた? なぜ多くの人を殺そうとする? なぜ教会に仇なす?」


「理由などない。それが我ら悪魔の存在意義だからだ。貴様らこそなぜ我らを悪と断じ、一方的に迫害する? なぜ教会の権威こそが絶対と信じて疑わない? 血塗られた歴史を知らぬわけでもないだろう? 賢竜よ?」


「私は教会に従いはしない。だが、教会は今の人類を統治する最適解だ。愚かにも人と竜が争った歴史を考えれば、妥当な統治体制だ」


 シャルパンも言葉を返す。だが、二人が具体的に何について言及しているのか、分からない。悠久の時を生きてきた者にしか分からないのだろう。


「だから終わりにしよう、古の悪魔。お前はここで撃滅する」


「ふん、かつて神の敵であったドラゴンに、聖魔法で私を浄化することなど不可能だと思うが?」


「私がやるんじゃない」


 俺は、シャルパンから供給された魔力で以て、聖魔法を発動させる。


「【汝らは見るであろう。彼の者が神の右に座り、天の雲に乗ってくるのを】」


「なに、そいつはまさか……」


「【ホーリー・レイ】」


 白の閃光が放たれ、洞窟は光で満たされた。

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