18*
「着替えてくるから待ってて」
「んー…」
シーツが乱れたベッドの上で気怠そうにシャツを整える実子の返事はまだ先程までの行為を引き摺っているかのようで、俯き加減に髪で隠れてしまったその横顔が妙に艶っぽく見えた。
洗面所で手にハンドソープを泡立てながら右手の指をなぞれば、身を捩り体を戦慄かせていた実子の顔が浮かぶ。
じゃぶじゃぶと勢いよく流れる冷水に両手を潜らせ泡を流しても、実子の体に触れた感触までは洗い流せない。
洗面台に手をついてその場にしゃがみ込み、思い出すように目を瞑れば下腹部がずんと重くなるような感覚に襲われた。
ベッドの上でちゅ、ちゅ、と何度もキスを繰り返し、悪戯に実子のシャツのボタンを外して隙間から手を差し入れればその手を制するように実子の手が重なった。
「部屋、あかるい…」
いくら冷房が効いた室内だからといって、窓から差し込んでくる陽の明るさは夏そのもの。
遮光カーテンを閉めても隙間から溢れる光だけで視界は良好だ。
雨戸を閉めればそれさえ遮ることができるのも確かだけれど、そんな勿体ないことをする気には到底なれなかった。
隙間から酸素を得ることを許さないほどぴったりと唇を合わせて舌を捩じ込めば、諦めたようにぎゅっと目を閉じた実子が健気でたまらない。
この手で暴いたその肌に余す所なくキスの雨を降らせ、我慢できなかった甘い声を垂れ流しながら私の動きを目で追っては羞恥に苛まれる実子の顔を堪能する。
どこまで触れていい?と聞きながらスカートのプリーツの上から内腿を摩ると、実子は顔を隠すように両腕を重ねた。
「………っ、ぜんぶ」
震える声で“全部”なんて言われたら、少しでも拒否されればすぐに中断しようと考えていたのにその決意さえいとも簡単に揺さぶられる。
「あけて、舌出して」
実子の唇を割るように指を這わせ、素直にひょっこりと姿を表した赤いそれを中指と薬指で挟み囚えた。
反射的に引っ込めようと力が入ったそれに引きずられるように、実子の口内に指を含ませる。
ぐち、とわざと湿った音を立てて中で指を動かしたのは、この先の行為を想像させるため。
やめるなら今だよ、と心の中では言えても声には出せなかった。
実子はいつか、今日のことで私を恨むだろうか。
誰にも触れられたことのない場所に触れて、誰にも聞かれたことのない声を聞き、誰にも見られたことのない表情を見た。
心も体も征服してこれ以上何を望むのと自問自答すれば、今度はそれを失う恐怖が顔を出す。
洗面台の前でしゃがみ込んだまま動けずにいると、廊下を歩く足音がしてハッと我にかえった。
「ミコ?」
と声をかけると廊下から
「ユリ、お手洗い貸して」と言われて私は漸く立ち上がることができた。
洗面所から顔を覗かせ、「そこ」と場所を指差せば実子に「あれ、まだ着替えてなかったの?」と指摘され、やっと自分がここに何をしにきたのか思い出した。
トイレから出てきた実子に洗面台を譲り、手を洗っている後ろ姿を背後でぼーっと眺めていると、
「ちょっと。ユリ、何してくれてんの」
と不機嫌そうに眉を顰める実子と鏡越しに目があった。
「なに?」と聞くと、実子は自分の首筋を指差した。
紅い花びらのような形をしたそれは所詮独占欲の現れで。
「ごめんね。でも、そこだけじゃないかも」
「やだ、ほんとに、最悪なんだけど…」
「脱がなきゃ見えない所だから大丈夫でしょ」
実子は顔を赤くして振り返ると、私の腕をぺちんと叩いた。
本気ではないとすぐに分かる強さで、その行動すら可愛く思えてしまう。
「わかった。次はしないから」
「むー。絶対だからね」
さりげなく紛れ込ませた“次”という言葉に何の違和感も持っていない無防備さに、思わず顔を覆って息を吐いた。
そしてその約束を守る自信は今のところ無いままだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。