ありのままでいたい

汐凪吟

第1話

僕は私らしくはいられない。いちゃいけない。みんなは偽りの僕を見ている。だから本当の私は見られることはない。もう僕には偽りしか似合わないんだ。きっと...。

 僕は武士の家系に生まれた女だった。でも生まれた瞬間に女の私は死んで、僕になった。そこからはずっと男として過ごしてきた。対して好きじゃない剣術も弓道もやるしかなかった。僕だって、みんなみたいに人形で遊んだり、髪を伸ばしたりしたかった。でも環境が許してくれなかった。そのまま時は過ぎて言って男として高校に入学した。毎日、ずっとサラシで胸を潰して、男子の制服をきて学校に通う。もう偽るのにも慣れてきてしまった。家から出たらすぐに仮面を被る。厄介な奴がいるから。

「おーい、黎人!」

 ほらきた。厄介者が。

「なんだよ、祐希。毎日来るなよ」

「いいだろ。きたって。お前のその重そうな剣道具と弓道具持ってやってんだから。喋る荷物持ちくらいに思っとけばいい」

「そういう問題じゃねぇよ!親父にバレたら怒られるのは僕なんだよ!」

「もしお前が見つかって怒られた時には一緒に怒られてやるし、縁切られるっていうなら俺の家に来ればいいって言ってるだろ。命の恩人を養うくらい簡単にできるぜってやべぇ、もう八時じゃん。黎人走るぞ」

「はいはい、結局はこうなるのか」

 学校までは二キロ、朝のHRまでは後十五分。普通にまずい状況だ。

「祐希、毎日こんな僕の家にわざわざ運動しに来なくてもいいんだぞ」

「いや、別に運動しにきてるわけじゃなくて...。てか、黎人筋肉ついた?なんかいつもより、胸の辺りが膨らんでるけど」

 朝、こいつが思ったより早くきてて焦ってたから巻きが甘かったか。

「最近筋トレの許可が出たからトレーニングしてるんだよ」

「ふーん」

 今だけはこいつの視線が痛い。いつもなら逆なのに。

 十分後

「はぁ、あぶねーギリギリ間に合ったー。」

「本当にギリギリだけどな。今度から立ち話をするのをやめるかどうにかしろよ、祐希」

「いや、学校だとそんな話せないから話せる時に話したいじゃん」

 チャイムの鳴る音がする。

「おーい、出席取るぞ。今日は珍しいな。いつも遅れ組がいるなんて。明日は雪でも降るんじゃないか?」

「でも先生こいつら先生がくるちょっと前に来たんすよ」

「まぁ、間に合ってはいるからいいだろう。よーし、全員いるな。じゃあこれでHR終わりにするぞ。」

 俺たちはその後退屈な六時間を終えて帰路に着く。

「あーあ、今日の体育で砂まみれだよ。このままじゃ家に帰れないや」

「祐希、どうにかしてくれない?」

「今、ここでどうにかできねぇだろ。取り敢えず俺の家で風呂入れよ」

 確かにこのまま帰ったら外に追い出されるしなぁ。

「そうするわ」

 僕は祐希の家に行ってシャワーだけ浴びて帰るつもりだった。

「おーい、黎人。タオル置いてなかったから、置いておくぞ...ってなんだこれ?布か?」

「祐希、ちょっと待っ...」

 遅かった。手遅れだった。今の関係が壊れる予感がする。

「黎人、お前女だったのか」

 そこにはびっくりした顔の祐希がいた。

「祐希、騙してごめん。家の決まりだったんだ。僕が性別が女でも生きるためにはこうするしかなかったんだ。僕は条件を破ってしまった」

 バレた時にいつでも自刃できる様に待っていた小刀をとる。覚悟は生まれた時から決まってる。

「おい、ちょっと待て!早まるな」

「離せ、祐希」

「だから、待てって!女だってことを俺が隠しておけばいい話じゃねぇのか?」

「無駄だ。親父が放った影がそこら中にいる。僕が自刃しなかったとしても親父に報告があったら僕は殺される」

「よし、黎人、今すぐあんな家と縁切ろうぜ!俺がお前と家族になってやる」

「は?」

 そう言った祐希の行動は早かった。私の両親に1から説明していく。私に命を助けられたこと、それで一目惚れをしたこと、最初は一目惚れだったけど段々と知っていくうちにもっと好きになったこと。そして、うちの両親を納得させてしまったのだ。僕は死なないで良くなった。私を殺す必要も無くなった。祐希のおかげで、僕は偽る必要がなくなった。ちゃんと私を見てくれる人がいた。あれ?まだ十七歳だから...。

「黎人♪これからも俺のそばにいろよ」

「うん、わかってるよ。私の思ひ人」

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ありのままでいたい 汐凪吟 @shionagiuta

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